現代のハリウッドでも、作品ごとに新たな"伝説"を生み出し続けている女優といえば、メリル・ストリープ。

あるときはイギリス初の女性首相、あるときはファッション誌のカリスマ編集長、そしてあるときは魔女にもなる。
いずれも完璧にこなしてしまう彼女は、アカデミー賞においても、男女通して俳優では史上最多ノミネートとなる19回の記録を更新中。その圧倒的な演技力に、もはや不可能な役は存在しないのではないかとさえ感じさせる。

そして最新作『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』で演じたのは、1944年にニューヨークのカーネギーホールを満員にした"奇跡の歌姫"である フローレンス・フォスター・ジェンキンス

本作への思いや自身の生き方についても語ってもらった。

人生のなかの愛情や献身を伝えたい

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メリルさんがフローレンスの存在を初めて知ったのは、大学院にいたころ。フローレンスが"伝説"としていまなお語り継がれている理由は、超絶的に音痴にも関わらず不思議な歌声で多くの人を魅了しているからだといわれている。
出演にあたり、「史上最悪のオペラ歌手を演じて欲しい」とスティーヴン・フリアーズ監督から言われたときには大喜びしたそう。

「彼女は音痴ということで非常に有名ではあるけれど、それだから映画をつくろうと監督は思ったわけではなくて、それ以外のところに魅力を感じていたのよ。

見方によれば、彼女は滑稽かもしれないけれど、『水が半分入っているグラスは、半分しか入っていないんじゃなくて、半分も水が入っているのよ。できる限り、幸せな気持ちでいるわ』って毎日思いながら外に出かけていくような人だったの。彼女は音楽を愛していて、私は彼女のそんなところが好きなのよ」

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昔は歌手になりたいと思っていたというメリルさんだけに、これまでに『マンマ・ミーア!』や『イントゥ・ザ・ウッズ』などの作品で披露した素晴らしい歌唱力についてはみなが知るところ。しかし、今回はフローレンスの独特な歌い方を習得するために、かなりのレッスンを積んだという。

「フローレンスの声域に追いつくために、すごく苦労したの。ただ下手なだけじゃなくて、予測できない歌い方をするから。彼女はいつでも、最後のフレーズではちゃんと歌えるようになるんじゃないかという期待を生み出していたし、観客にそういう奇跡を感じさせる何かがあったのよ」

現在でも、カーネギーホールのアーカイブで一番人気を誇るフローレンスの歌声。一度聴いたら誰もが病みつきになってしまうのは、その裏に隠された彼女の音楽への純粋な愛と一途な情熱があったからこそ。

そして、そこから放たれるオーラを持っているのは、演じることに対して常に真摯に向き合っているメリルさんも同じであり、それが私たちを魅了し続けている理由のひとつでもある。

では、メリルさんにとって、情熱の源とは?

「まずは、好奇心。それから、遊び心。それは、いつまでも失っていないところで、フローレンスと共通していることかしら。演じているときはいろんな人に変身することができるし、トランクから飛び出せるような感じが楽しいのよ」

すでに40年以上のキャリアを誇っているにもかかわらず、いつも新鮮な感覚を持って仕事に挑むことができるのがメリルさんの強みであり、いまなお進化し続けている秘訣ではないだろうか。

そんな彼女のようになりたいと、多くの女性たちは憧れを持っているものの、ときには挫折して立ち止まってしまうこともあるはず。そんなときこそ、"人生の先輩"からのエールは心に響くもの。

「自分らしくいるというのがやっぱり一番。そして、おびえて逃げたり、内気になったりしないこと。女性の声がもっともっと挙がれば、世の中はもっとよくなるはずよ」

どんなことにもいつもアンテナを張る

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ひとつひとつの質問に真剣に答えてくれる優しさと温かさを持つメリルさん。語りかけるような穏やかな声で、女性が「前に進み続ける」ためのアドバイスも教えてくれた。

「人によって生活やチャレンジというのはまったく違うわよね。社会に貢献するにもさまざまな形があると思うの。大きな目標を持っている人や困難に立ち向かっている人などそれぞれだから、『こうすればいい』と具体的なアドバイスはできないけれど、まずは自分の内なる声に耳を傾けることが大事。

それから、あとで後悔するのはとてもよくないことなので、難しいからといってあきらめないで欲しいわ。どんなことでも『挑戦しなかった』と後悔しないために。
私も人生で一番嫌な気分になるのは、『あのとき、ああ言うべきだった』と振り返る瞬間。そうならないように、考えていることは口に出して言ったり、行動に移したりしたほうがいいと感じているの」

そんな風に長年にわたって第一線を走り続けながらも、どんなときも自分らしさを忘れない姿勢が、多くの人たちに尊敬される理由。そして、そんなメリルさんだからこそ、フローレンスのブレない信念に同じものを見ていたのかもしれない。

「彼女の素晴らしさは、私たち誰もが共感できるところよ。がんばって、挑戦して、がんばり続けるんだけど、失敗して、うまくいかなくて。でもそのがんばりこそが素晴らしいんだってことね」

それがたとえどんなものであろうとも、みずからが進むと決めた道への歩みを止めない。それが人生において大切なことなのだと教えられる。

部屋に入ってきて、言葉を発するだけで、その場の空気を一瞬にして変えてしまうほどの存在感を放つメリルさん。大人の女性としての品格を感じさせたかと思うと、次の瞬間にはまるで少女のようなチャーミングな笑顔を見せる。その自然体の魅力にどんな人も虜になってしまうのは当然のことだろう。

美しく歳を重ねたいというのは、世界中の女性にとって人生最大の目標ともいえるが、「メリルさんくらいそれを体現している人はいないのではないか」と思ってしまうほど、まさに女性が目指す姿の理想形。

いくつになっても、立ち止まることなく輝き続けるメリルさんが作り出した"新たな伝説"は、冬の寒さを吹き飛ばすような感動の嵐を巻き起こすことは間違いない。

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マダム・フローレンス! 夢見るふたり

2016年12月1日(木)全国ロードショー
監督:スティーヴン・フリアーズ
出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ、レベッカ・ファーガソンほか
配給:ギャガ
http://gaga.ne.jp/florence/

撮影/依田佳子