2016年末の半月を過ごしたカンボジア。そのレポートを、女性の視点からシリーズで綴っています。第一弾では、かの地で夢を追う日本人女性を紹介しました。第二弾の今回は、働くカンボジア人女性に目を移してみたいと思います。

変容するカンボジア社会

今回のカンボジア、数えてみれば、前の滞在からちょうど6年経っていました。6年ぶりのカンボジアは、素朴で擦れていない人が多いという基本的な部分は変わらぬものの、車や大きな建造物の増加など、目に見える変化も少なくありません。

総務省統計局のレポートにもあるように、カンボジアの人口は年々増加していますし、経済も急速に成長しつつあることを考えれば、当然の変化とも言えるでしょう。また、同統計によれば、2008年から2013年の5年で、産業別人口の割合は、第1次産業(農林漁業)が減り、第2次産業(製造業、建設業など)と第3次産業(サービス業など)が増えています。

このことからも、カンボジア経済が発展傾向にあり、職種も多様化しているとわかります。

カンボジアでは、男女ともに働く比率はほとんど同じです。けれども、現地で聞いた話では、女性の職種は限られており、もっとも多いのが、農業や漁業など家業の手伝い。農閑期のプラスαで、小さな商店や食事処を営んだり、仕立物の内職をしたりというのが、基本的なパターンだということでした。

実際、2008年当時のOVTA(海外職業訓練協会)のまとめも、その話を裏づけるものです。

家業の手伝いだけでは、自分の自由になるお金は手に入りません。家長である男性に従う社会であるカンボジアで、自分の稼ぎを持たない女性は、何か問題があったときに逃げ場のない立場にいることになります。

女性が職と技術を磨ける場を

幸い、そんな農村部の女性を集めて職を与え、職業訓練を行う企業や団体も増えてきました。そのうちのひとつが、シェムリアップ郊外にあるSamatoa(サマトア)です。

サマトアでは、2003年の設立以来、パイナップル、バナナ、カポック、椰子、ココナッツ、絹などの自然素材による布づくりを進めてきました。ここで働く女性は、必然、糸作りから、染色、織り、裁縫の技術を身に付けることになります。サマトアを創業したのは、フランス人Awen Delaval(アウェン・ドゥラヴァル)氏

彼の当初の目的のひとつは、農村部で家に縛られる女性たちに、働く場と技術を与えるというものだったそうです。そのアウェンがいまもっとも力を入れているのが、蓮の茎の繊維でつくった布づくりです。

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蓮の茎のマイクロファイバーを見せてくれたアウェン氏

東南アジアの多くの国同様、カンボジアの沼では必ずと言っていいほど見かける蓮。花や実、根は使われるものの、茎は捨てられるだけの運命です。

年間100万トン廃棄されるという茎を何とか利用できないかと考えたアウェンは、いまではミャンマーの一部の地域にしか残らないという古代の蓮繊維製造技術を蘇らせようと思い立ち、5年がかりで製糸技術を改良し、試行錯誤の末、機織り法も確立させます。

電力の要らない「工場」

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人懐こい笑顔に、フランクな話し方のアウェンに案内してもらったのは、サマトアオフィスから少し南下した場所にある蓮ファームです。150ヘクタールの蓮池の上に建てられた風通しの良い場所で、女性たちの製糸作業を見学しました。

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水揚げした茎は、24時間以内に繊維を取らなければ、質が劣るそうで、静かにのんびりした空気のなかでも、女性たちの手は規則正しく、糸を縒っていきます。アウェンによれば、長くても2、3か月で、大抵みなこの作業をマスターするそうです。

サマトアでは、エコロジカルな製造法にこだわり、どの糸の染色にも、木の実や葉などの自然のものを使い、布も手作業による機織り機で仕上げています。

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「ごらんの通り、糸作りから布になるまで、どの段階も、電力は必要としないんだよ」(アウェンさん)

蓮ではありませんが、私はここでカポックの糸紡ぎに挑戦してみました。カポックは木の実の繊維を使うもので、羊毛より暖かく軽いのが特徴です。

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カンボジアではクッションの中詰めに使われるくらいの用法しかないそうですが、アウェンはこのカポックからも布を作っています。製糸作業はというと、なかなか簡単にはいかず、すぐ切れてしまいます。見かねたカンボジア女性と手を取り合うようにして、ようやく、なんとかわずかに紡げました。

見るは易し、為すは難し。

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蓮ファイバーに隠された秘密

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水揚げされたばかりの茎

ところで、驚いたことに、この100%手作業でできる蓮ファイバーには、最新テクノロジーも及ばない秘密が隠されていました。

というのは、蓮の茎に詰まっている繊維は、直径がマイクロメートル単位という細さのマイクロファイバーだったのです。マイクロファイバ―と聞いて最初に私の頭に浮かんだのは、メガネを拭くクロス。もちろん化学繊維です。

それもそのはず、巷でマイクロファイバーと言えば、普通は、化学的に組成されたものをイメージします。

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長々と縒られていく糸

フランステレビ局ARTEの番組にも写っていますが、アウェンの依頼を受けて蓮ファイバーを調べたフランス繊維研究所では、世界で初めての、自然マイクロファイバーの登場に色めき立ちました。

髪の毛の10~20分の1の細さで、しかもその内部はスポンジ状である蓮ファイバー。ほかに類を見ない通気性、吸水性をもち、これ以上望めないほどの着心地の良さを保証してくれます。しかも、この繊維にはシワがいっさいできないときています。

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できあがった糸

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良いところづくしのようですが、問題はその価格。いまの段階では、絹と比べても数倍の値段です。そこで、アウェンが目指したのは、ハイブランドへの供給ですが、これも、いま良い方向に進んでいます。

たとえば、2015年末には、Kering(ケリング)のCEO14人が1週間ロータスファームを訪れ、サマトアのビジネス戦略5か年計画を練る研修を行いました。ケリングは、LVMHと並ぶハイブランドの複合企業で『バレンシアガ』『ブシュロン』『イブ・サン=ローラン』『ボッテガ・ヴェネタ』『グッチ』などを所有しています。

発明の母は、もったいない精神と自然を愛する心

話していておもしろいなぁと思ったのは、アウェンの「無駄嫌い」が蓮ファイバーづくりに留まらないことです。繊維を取った後の茎の再利用も研究中だそうで、紙の製造、植物性建築材への利用、燃料となるバイオマスの作成など、そのアイディアは尽きるところがありません。

また、蓮の花を利用したお茶の製造ももうすぐスタートする予定だそうです。こちらも電力を使わず、天日で干して製造することにこだわっています。

アウェンの持つもったいない精神と、自然の力と手作業を重んじる考えは、いったいどこから来ているのかと尋ねてみると、

「魔女の伝統かな。生まれがブルターニュだからね」(アウェンさん)

と爽やかな笑いが返ってきました。

ブルターニュ地方は、もともとケルト人の土地で、フランスの他の地方とは異なる文化や因習が残ることで知られています。もちろん冗談ですが、なんだか妙に納得できる気分になりました。

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サマトアの現在のスタッフは30人。そのうち、マネージメントを含め、28人が女性という構成です。聞けば、どの仕事につくスタッフも、田舎ならひと月暮らせるだけの月収があり、いざとなれば、自立することも可能と言います。

生産性を向上させるためにも、アウェンが目指すのは、5年後の500人雇用。田舎の複数の村に蓮ファームができれば、それだけ多く田舎の女性の雇用も増えることになります。

また、彼の計画が実現すれば、近い将来、蓮ファイバーも、わたしたちの身近なものになるかもしれません。いずれにせよ、先が楽しみな蓮ビジネス。これからも見守りたいと思います。

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