7月16日に発生した新潟県中越沖地震で緊急停止した柏崎刈羽原発。これをずっと止めるか、また動かすかで地元が“揺れて”います(いや、ふざけてる場合ではないのですが)。地震直後はよく報道されていたこの問題、実は電気を使う私たちみんなに関係する問題なのです。なになに、それってどういうこと?

地震の次の日の7月17日の原発の様子。写真は2号炉の玄関付近。路面が陥没しているのがわかる。他にも敷地内の道路が波打っていたり、手すりが崩れ落ちていたり、地震が地盤さえも動かす大きなものだったことがわかる。 (写真/原子力資料情報室) ■そもそも、どんな問題なの?
今回の地震で緊急停止した柏崎刈羽原発を、東京電力(東京電力株式会社)は「核分裂反応を止め、燃料を冷やし、放射能を閉じ込める機能がしっかり作動した」と評価。ただ、微量とは言われるものの放射能漏れがあったのも事実。今回は原発直下が震源地でなかったため運良く大きな被害は出なかったものの、もし7基の原子炉を持つ世界最大規模の柏崎刈羽原発で事故が起こっていたら、チェルノブイリ以上の被害が出ていたかもしれない、とも言われています。想像するだけで恐ろしいですね。
■科学者の立場から、再稼働に反対
大学教授や元原発設計者などの専門家が呼びかけ結成された「柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会」は、科学的な見地から再稼働に反対しています。その理由は2つ。1つは危険な場所に建てられているから。神戸大学の石橋克彦教授(地震学)によると「もし震源域がもう少し南西寄りだったり、マグニチュードが1964年新潟地震なみの7.5程度だったら、もっと激しい揺れが原発を襲い、大量の放射能が放出される原発震災になっていたかもしれない」とのこと。実際、今後同じ地域でもっと大きな地震が起こる可能性もあるとか。
もう1つの理由は、今回の地震で設計基準を超えた震動を受け傷ついた原発を修理して動かすのは危険だから。「登山用のロープは、一度大きな荷重がかかったものは、もう命綱としては使いません。規格通りに新しく作られたものと違い、傷んでいるかもしれないロープはどこまでの負荷に耐えられるか判断できないためです。それは原発でも同じこと。柏崎刈羽は、再稼働ではなく今後のための徹底的な調査に使われるべき」と事務局の菅波さんはおっしゃいます。

今年8月21日に新潟県庁記者クラブでおこなわれた記者会見では、地震学、金属材料学、元原発設計技術者、物理学という各分野のスペシャリストの呼びかけ人が集まり、再稼働の危険性を訴えた。
■原発を動かしている東京電力の意見は?
では、原発を運営している側の意見はどうなの?ということで、東京電力広報部の吉田薫さんに伺いました。吉田さんによると「現時点で再稼動について申し上げられる状況にはありません」とのこと。「原子力の必要性は感じているけれど、復旧のための調査に全力を挙げているところであり、国の審査などを経て、地元のみなさまにご理解をいただきたいと考えています」と語っていました。地元などの反対運動や世論の動きにはかなり気を配っている印象です。
ただ、今後のプランでは青森県に2基、福島県に2基、原発を新設する予定が。発電電力量の計画でも、今年全体の36%(見通し)の原子力は、2011年には41%、2016年には48%まで上がる予定となっています。たとえ柏崎刈羽は再稼働しないとしても、原発に頼る傾向は強まっていく。でも、そこまでして、なぜ原子力なの?
■原発を止めるとCO2が増える!?
原子力を推進する理由の1つは「原子力なら発電時にCO2を出さないから」(吉田さん)。地球温暖化を抑えるためにCO2削減が叫ばれている今、CO2を出す火力の代わりに原子力を、というわけです。例えば今回の柏崎の停止で火力発電に切り替えられたことで増えたとされるCO2排出量は2800万トン。京都議定書で定められた日本のCO2削減目標達成へ大きなダメージとなっています。しかし、ウランの採掘から精錬、使用済み燃料の処理までの課程で大量のCO2が出るという指摘もあります。
また、太陽、地熱、風力などの自然エネルギーなどCO2排出量がほとんどない発電方法もすでに実用段階に入ってきています。東京電力によると「風や太陽は安定供給が難しいという課題があるので大幅に増やすのは難しい」とのことですが、原子力に集中して注がれている技術革新予算を振り分ければ、自然エネルギーへのシフトももっと前向きに考えられるはず。環境エネルギー政策研究所(ISEP)のレポートによると、実効的な自然エネルギー普及政策を実行し、財政面、技術面での社会的インフラを整備すれば風力等の自然エネルギーの割合を2010年に10%まで引き上げることも可能だというシナリオもできています(詳しくはこちら)いますぐすべての原発を止めるのは難しいけれど、自然エネルギー利用の効率を上げていくこと、コ・ジェネなど火力発電の効率を上げていく政策をとっていけば、原子力の比率を下げることはできます。
■もう1つ、考えておきたいこと。
とはいえ、原発を推進すべきという意見も政府や産業界内にまだ多数あり、1つの方針になかなかまとまらないのがこの問題の難しいところ。だからこそ、私たち市民にとって大切なのはエネルギー問題を自分の問題として考えていく姿勢です。この記事を読んでいるアナタ! あなたのコンピュータを動かしている電力はどこから来たのか知っていますか? その3分の1は原子力。遠くの町やそこに暮らす人々に命のリスクを押し付けておいて、自分たちは都市で快適に電気を使っている。それっておかしくない?と思うところからスタートすべきではないでしょうか。
■私たちにできることは? でも、そんなこと言われても、なかなかやれることはないし……? そんなことはありません。今すぐできる方法もあります。まずは節電。また、東京電力の月々の電気料金の支払いの時に、1口月額500円からグリーン電力基金に寄付をする方法もあります。寄付金は太陽光や風力などの自然エネルギー助成に使われます。また、音楽家の坂本龍一さんや作家の村上龍さんなどが参加している任意団体Artists’ Power(略称AP)のメールでの意見交換から生まれた署名サイト「おやすみなさい、柏崎刈羽原発」に署名するのも、1分でできる意思表示。

『おやすみなさい、柏崎刈羽原発』 「取り除けない不安を無視して柏崎刈羽原発が再び稼動したら、社会不安が広まってしまう」と訴えている。英語版も作り、世界中の人たちが気軽に参加できるようにしている。特に言葉選びに工夫が。「反対!」ではなく「おやすみなさい(英語ではUNPLUG、スイッチオフの意)」というやわらかい表現を使っている。 私たちの日々の暮らしと密接に関わるエネルギー問題。これからもじっくり考えていきたいですね。次回は自然エネルギーや自宅でできる方法など、未来のエネルギーがどこまできているか、レポートします。
参考文献: 『新版 原発を考える50話』西尾漠著(岩波ジュニア新書) 『週刊ダイヤモンド 9/1号 原発大解剖』(ダイヤモンド社)
取材・文/阿久津美穂 (Slow Media Works) |