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児童養護施設から編集プロダクションへ
夢を追って転職を決意
「子どもと図鑑を見て、これはペパーミント、こっちはレモングラスだね、なんて言いながら摘んだの」。インタビューが行われたのは大平さんのご自宅。前の住人が種をまいたのか、ふと庭を見たら育っていたというハーブにお湯を注いだだけ、という自家製ハーブティで迎えてくれた。部屋の中を見渡せば、手入れされた茶棚に箪笥、マガジンラックとして使われているのは昔の農機具とか。大平さんは現在主に、古い家具や生活用品を暮らしに取り入れている人々を追うノンフィクション・ライターだ。
学生時代は名古屋の短大で福祉について学んだ。文章を書くことが好きで、サークルは「文学研究会」に入り同人誌を作る日々。卒業後は児童養護施設に勤務するかたわら、細々と地元企業の社歌やCMソングの作詞を手がけた。その縁であるとき、東京の編集プロダクションに来ないかと声をかけられた。児童養護施設での仕事にもやりがいを感じてはいたが、やはり「書きたい」という気持ちが勝り、26才で上京を決意した。
「編集プロダクションに入ってからは、毎日とにかく仕事がおもしろくて。月〜金は終電近くまで会社の仕事をこなし、土日は会社に内緒でインタビュー原稿のアルバイトをしていたほど。週末クタクタになって『もうだめだー』って思っても、月曜の朝に目覚めるときにはワクワクしてる(笑)。今振り返ると、とんでもない生活ですけど、この期間でずいぶん鍛えられましたね」
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| 古い家具がしっくりとなじむ部屋の真ん中には、こちらも使い込んだ大きなちゃぶ台が。飾りたてられたよそよそしさはなく、あたたかな生活感が感じられるご自宅。 |
結婚、妊娠、そして独立
仕事をシャットダウンすべくハワイへ逃亡!
編集プロダクションに4年間勤務したのち、結婚・妊娠を機にフリーランスに転身。「大平一枝」を指名して仕事の依頼が来ることが嬉しくて、頼まれた仕事はすべて引き受ける覚悟で働いた。依頼はどんどん舞い込み、仕事はおもしろいほど波に乗っていた。「その頃、映画制作の仕事をしている夫も同じタイミングで独立して、ふたりともがむしゃらに働いていたんです。そしたらある日、子どもを預けている保育園の先生に、少し仕事をセーブしたらどうですか、と言われて……」。
理由を聞いて愕然とした。ある日、保育園のみんなで家族の話をしていたら、大平さんのお子さんだけ壁を向いて黙ってしまったそうだ。「ハッとしました。私も夫も目の前の仕事をこなすことに精一杯で、自分の子どもの口数が減っていることにも気づかなった。そこで、一旦すべてをゼロに戻そうって決めました」。次々にやってくる仕事から逃げるように、家族で1ヶ月間ハワイに滞在した。仕事で迷惑をかけることは百も承知だったが、「これからは、『それでも大平に頼みたい』と言ってもらえる仕事だけを引き受けようと思ったんです」。ほかの人でもできる仕事はもう充分やってきた。「自分にしかできない仕事で切磋していこう、と」。
フィリピンの島で出合った人々の
シンプルな暮らしぶりに一変した価値観
こんな言葉をご存知だろうか? 「ライスワークとライフワーク」。前者は、日々食べていくための仕事。後者は、一生追いかけていく、自分の役割としての仕事。「ライスワークだらけだったのを、まずは半々に。そして4:6、3:7と少しずつライフワークを増やしていき、いずれは1:9にするのが理想。きれいごとばかりは言っていられないけれど(笑)」。
では、大平さんのライフワークはというと……「たくさんのものを生産したり、消費したり、競い合ったりすることの反対側にいる人たちの生き方やライフスタイルを伝えること」。
たとえばそれは、木のさじを作って生計を立てている夫婦だったり、ボロボロの家を自分たちで改修して暮らす家族だったり。無理をしてでもお金をたくさん儲けようとか、価値もわからずデザイナーズ家具に囲まれて暮らそうとか、そういったところからは程遠い、自分ならではの価値観に基づいて工夫しながら生きる人々がいる。そんな人たちの暮らしぶりを綴った大平さんの本が、いま注目を集めている。
そもそも、大平さんがこのようなライフスタイルに興味をもつきっかけとなったのは、たまたま訪れたフィリピン・カオハガン島にある。「島には電気もなければ水道もない。台風でどうせすぐ壊れるからって、家も実に質素な造り。それに島の人々は必要最低限のものしか持っていない。服なんてずっと同じものを着ているから、ほつれて糸状態になっていたり……。けれど、決して貧しいわけではなく、みんな豊かで幸せそう。その姿を見ていたら、収納ひとつのメーカーにまでこだわって生活している自分がバカらしくなってきて……。幸せって、ものに執着することではないんだって思いました」。
その結果たどりついたのが、先で述べたようなライフスタイルだ。有名ブランドのものだから、流行っているから、みんなが「いい」と言うから……ではなく、ものの価値は自分で決める。見栄や体裁は気にせず、自分がいとおしいと思えば、古さもブランドもおかまいなし。使い方だって自分次第。欲しいものがなければ、いっそ自分で作ってしまえばいい!
そんな精神に基づいた生活様式を“ジャンク・スタイル”と呼ぶ。元々はイギリスで生まれた言葉だが、日本でもインテリアの世界ではひとつのカテゴリーとして成立している。
エコやロハスという考え方が浸透しつつある昨今、世の中はもはや大量生産、大量消費から脱却しようとしはじめている、と大平さんは言う。「何でも早くて便利だったらいいという時代はもうおしまい。古いものを磨いて自分なりの価値観を見出す楽しみだったり、作る喜びだったり、自分の手をわずらわせることで、なにか大切なものが見えてくるのだと思う」。
これからの目標はと聞くと「ありきたりですけど、おばあちゃんになっても書き続けること。今と同じように、お金中心の世の中とは反対の場所で生きる人々を追っていると思います」という答えが返ってきた。
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