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ピンクのキャリーケースをゴロゴロ転がし 悩める妊産婦宅へ「骨盤ケアの伝道師」が行く
助産師と聞いて、まだ妊娠・出産経験のない私がTVドラマやドキュメンタリーで観た限り想像すると、「今まで○○人(←ものすごい数)取り上げました」という肝っ玉母さん(お婆さん)風の女性。だから、出張整体にやってきた是枝さんの、ヨガウエアに足元は鮮やかなネイルアートという出で立ちには正直驚いた。しかし、時間が経つにつれ、その格好は彼女の仕事の大変さの裏返しであり、いつだって美しくありたいという思い、そしてちょっとした自分への癒しであることがよくわかった。
この取材日も午前9時から9人もの妊産婦さんにそれぞれ約1時間ずつ、整体を行ってきたという。夜8時、最後の出張訪問先はcafeglobe代表、矢野宅
。初回ということもあり、過去の事故歴、学生時代も含めたスポーツ歴、出産予定日、分娩する病院、病院での検診結果など、妊婦の体に関するエピソードを細かく問診、自作のカルテに書き込んでいく。立った状態で両腕を上げ、腕や肩の上がり方、肩の高さ、首の傾斜など体のゆがみもくまなくチェックする。そして、携帯型ドップラー(胎児の心音を聴取する機械)でお腹の赤ちゃんの心音を聞き、触診をし、赤ちゃんの姿勢を確認する。
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| 矢野のお腹(取材時で妊娠9ヶ月目)の中の心音をドップラーで確認。カルテにカラダの情報をくまなく記入していく。 |
「妊娠すると、特に初期には『リラキシン』というホルモンが多く分泌され、骨盤をつなぐじん帯を緩めていき、骨盤が広がり、結果赤ちゃんが産道を通ることができるようになるのです。しかし現代女性には、この『リラキシン』が効き過ぎてしまい、骨盤が広がりすぎて様々なトラブルを抱えてしまっている女性のなんと多いこと。お腹の中で赤ちゃんは、いちばん重い頭が下にくるのは自然なのに、逆子になってしまうのは、原因が子宮の周囲の硬さにある場合が多いんだとか。
「肉付」偏に「要」と書く「腰」は体の要。腰周囲とはヒップ、そこにある骨は骨盤。木で例えれば、骨盤は根っこ、背骨は木の幹。ゆがみながらゆるゆるに広がっている骨盤では、幹は倒れてしまうところですが、人体では筋肉が必死にがんばって支えます。それが、腰痛や肩こり、むくみ、冷え、といった妊婦特有のトラブルとして出てきてしまうんです。それに骨盤を正しくケアすると、産前の不調だけではなく、産後の体調やプロポーションの回復が早くなるというおまけまでつきます。妊娠・出産中の痛みや辛さは、仕方のないことと済まされることがほとんど。さら追い討ちをかけるように、周囲からは『妊娠は病気じゃない』と言われて、多くの女性たちは出口の見えないトンネルの中で苦しんでいるんです。残念ながら、骨盤の大切さはまだ広く知られていないので、もっと広めていきたい。それが私の仕事」
患者の死で固まり、母の死で不惑の決意
「私は人が誕生する瞬間に関わっていたい!」 「母が産婦人科の看護師だったんです。だから、その姿を見て小学校の高学年の頃には既に、将来は看護師になりたいと思っていました。お産に関わりたい、というイメージも漠然とありました。その思いが、強く揺ぎないものに変わったのは、患者さんの死がきっかけかもしれません。看護学校ではさまざまな科で実習を積みました。残り少ない命を必死で生き、最期まで輝いていた末期ガン患者の方が亡くなって、死生観が変わったんです。また、産科実習のお産の現場では、人の生が始まる瞬間ってなんて素敵なんだろう、その人の生のいちばん最初に立ち会えることの幸せといったら衝撃的なものでした。そうか、私は『生の始まり、家族の始まり、そんな幸せな瞬間のお手伝いをしたいんだ』と」
決意を揺ぎないものにした是枝さんは、看護学校卒業後、1年間助産師学校に通い、お産に関わる専門的な知識を深め、数多くの実習を経て地元・鹿児島での病院で助産師として勤務。初めの頃は先輩助産師についてお産の介助や学んだことを実践するので精一杯だったが、お産の経験も増え余裕が出てきた頃に気付いたのは、産前産後の女性たちの疲れた様子。そんな女性たちに何かしてあげることはないか、と始めたのが院内でのアロマトリートメント。
「腰に手をあてて痛みをこらえていたり、疲れきった様子で辛そうに歩いていたり……。そんなお母さんたちにアロマトリートメントをすると、『楽になった』と気持ちよさそうにしてくださり、喜ばれました。けれども数時間後には、また辛そうにしているのを目の当たりにし、根本的に癒してあげることはできないんだな、と実感。その頃あるセミナーに参加して、産後の体調回復を左右するのは骨盤であると聞きました。お母さんたちを癒してあげられる方法は、まさにこれだ!と目からウロコの思いでした」
是枝さんに衝撃を与えた、骨盤ケアの重要性をセミナーで話したのは渡部信子さん。現・NPO法人母子整体研究会の代表理事で、京大病院産科婦長のときに、妊婦の腰痛緩和のために『トコちゃんベルト』を考案した人だ。すぐにセミナーを受講し弟子入りを申し入れ、勤めていた病院を辞めて上京。渡部信子さんが開くカイロプラクティックサロン『健美サロン渡部』に住み込みで働き始める。「それまで九州を一度も出たことがなかったんですが、東京へ行って骨盤ケアの勉強をするなら今だ、と決断しました。迷いなんてなかったです」。
時同じくして、是枝さんは看護師の先輩でもある最愛の母を病気で亡くすことに。一人っ子のため、看病も全てひとりでやってきた。その落胆や喪失感は、想像してもしきれないだろう。「母は助産師になりたかったということもあって、母の看病を終えて寂しさを埋めるように、いっそう骨盤ケアを極めるために突き進み始めました」。
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| 骨盤の位置を確認しながら、ゆがみを正し、調整していく。 |
本当の痛みや辛さを知るためにも 私も早く出産を体験してみたい
整体を学んでからは、非常勤で病院での出産に立会いながら、「出張整体マミーサロン」を開業。産前・産後の女性の自宅へ出張整体を行っている。ホームページから問い合わせてくる人も多いが、是枝さんの整体を体験し、同じ痛みや辛さを持つ妊婦さんの間でその気持ちよさを共有しよう、とクチコミで広がっている。次の妊娠のために骨盤を整えたり、プロポーション維持のために来院している人も多いらしい。
cafeglobe Parentingでの政井さんと矢野の対談でもあったように、幾度もないであろう出産の機会を自分らしく迎えたいと考える女性が増え、ロハス志向などの広まりなどもあって、助産師への注目度の高まりからもますます多忙を極める是枝さん。ラインストーンでキラキラに飾られた携帯で、出産間近の妊婦さんからの体調の変化や不安への返事のメールも頻繁にしている。「骨盤美人はお産美人」が口癖で、産後のプロポーションも含めて、いつだって美しくありたいという気持ちを理解してくれる、同世代の助産師だ。仕事をする手にはできないが、ラインストーンが散りばめられたぺディキュアを欠かさなかったり、という彼女自身のいつだって美しくありたいとい表れも支持されている理由のひとつかもしれない。
「お母さんや赤ちゃんと触れ合っているのがうれしいから、忙しくても楽しいです。キラキラは、束の間の癒し(笑)。私はまだ出産を経験していないから、早く経験できたら本当の意味で妊婦さんの痛みとか辛さを理解できたり、助産師としても成長できるような気がします。実体験に基づいて説得力と安心感のある、今よりもっと的確なアドバイスを妊婦さんにできるようになりたいですね。自分の出産……想像はつきませんが、楽しみでもあり怖かったり」。
産婦人医不足と同様、助産師不足も厳しい現実にある。今は月にほんの数回だが、骨盤ケアの重要性を講師として医師や助産師、医療関係者などに広める機会にも携わり始めている彼女。これからも母親たちの幸せな出産を支えていくのであろう。
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| 是枝さんのお仕事アイテム。携帯型ドップラーとジェル(写真左)は、出張時に赤ちゃんの心音をかならず聞くため欠かせない。中央の穴に妊婦のおなかを入れ、うつ伏せになるためのクッション(写真右)。何か月も仰向けにしかなれない妊婦たちにとって、このクッションでうつ伏せに寝られるときはパラダイスなのだそう。 |
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