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日本でビッグイシューがスタート
「ホームレスに仕事を提供するなんて新しい!」
昨日と同じような今日。それは、2003年の9月のことだった。何気なくテレビを眺めていた池田さんは、映し出された映像に釘付けになる。それは、イギリスで始まったホームレス支援団体「ビッグイシュー」が、日本でもスタートしたというニュースだった。「ホームレスに仕事を提供するなんて、新しい!」。一体どんな団体なのか興味を持った池田さんは、番組を見終わるやいなや、ネットで検索。創立者であるジョン・バード氏の「チャリティではなく、セルフヘルプ。その人のやる気を引き出し、仕事を提供することが次の希望を生み出す」という言葉に感銘を受け、ビッグイシューで働くことを決意。翌日朝いちばんに、ビッグイシューへ電話をかけていた。
長野で生まれ育った池田さんには、不思議に思っていることがあった。冬になると、時々流れるニュース。「寒さにより、日雇い労働者(今で言うホームレス)が死亡」。寒さで人が死ぬなんて、本当に日本で起こっていることなのだろうか。そんな、モヤモヤした思いを抱えながら、高校卒業後に上京。そして、東京にきてまたあの疑問が甦ってくる。「なんで、こんなに路上で生活している人が多いんだろう……」。
道端で、無気力に横たわるホームレスの人々。そして、その横を何も見なかったように笑顔で通り過ぎる人たち。ホームレスの問題に関心はあったが、炊き出しなどのボランティアに参加したことは一度もない。そこに、解決の糸口を見出せなかったからだ。そして月日は流れ、ついにビッグイシューにめぐり合う。
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| 休みは不定期。「販売員は土日も街頭に立つので、朝、雑誌を渡すため私も出社します」。出勤時間は早く、休みも少ない。決してラクではない労働条件の中ひたむきに頑張る姿に、この仕事に対する彼女の本気さを感じた。
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念願のビッグイシューで働くことに
しかし両親は大反対!
見事、ビッグイシューに就職を果たした池田さんは、ホームレスをその場限りで救済するのではなく、自立を支援するという仕事内容にどんどんのめりこんでいった。しかし、彼女の仕事に両親は大反対。「特に父には、反対されました。当時、父の中でのホームレスは、“汚い”“危ない”“自業自得”という、マイナスイメージの塊。私も昔は、どこか怖くて暗いイメージがありました。でも、実際接してみると、全然怖くないし、働く意欲の高い人が多いことに驚いた」。
池田さんが従事する、ビッグイシューの仕組みはこうだ。最初、販売者は『ビッグイシュー』10冊を無料で受け取り、その売り上げ3,000円を元手に、以後は140円で仕入れ、300円で販売。うち160円が彼らの収入となる。こうしてホームレスに仕事を提供することで、彼らの自立を支援しているのだ。
現在、販売者に登録している人数は全国で669名。そのうち、この約4年間で、住むところを確保して販売員を卒業、つまり自立を果たした人は58名。販売者である彼らは、自分たちが接客業であるということを深く自覚しているという。ビッグイシューで取り決められたルールを守ることはもちろん、清潔さを心がけたり、手作りのプラカード片手に声を出して宣伝するなど、雑誌が売れるためにできる限りの工夫をしている。「雑誌は梱包される際、背表紙に汚れがついてしまうことがあるのですが、彼らはとても仕事に厳しい。“少しでも汚れているものを、お客様には提供できない!”と、交換するよう迫られることも多いんです(笑)」と、池田さんは少し誇らしげに微笑む。
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| ビッグイシューの東京オフィス。ここで雑誌を保管したり、パソコンなどの事務処理や、販売者希望のホームレスの面接を行なう。めでたく自立した元販売者が、ふらりと遊びにくることもあるとか。
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ホームレスを勧誘すべく
公園の寝床を訪ね歩く
そんな池田さんの毎日は、とても多忙だ。販売者となるホームレスを勧誘するため公園の寝床を訪ね歩いたり、炊き出しの現場でビラをまいたり。少しでも販売者を増やし、ホームレスの自立を支援できるよう、日々かけずり回っている。
普段、ホームレスの人々と接する機会が少ない私たちの感覚からすると、「寝床を訪ねるなんて怖い!」というのが率直な感想ではないだろうか。「確かに、私も初めてホームレスの方と接したときは緊張しました。相手は、身分証明書を持っているわけでもないし、どういう人間なのかを知るには、自分の目を信じるしかありません。寝床におじゃました際、悪徳業者と間違われて怒鳴られたこともあります(笑)。でも、何度か足を運んで顔を合わせるうちに、彼らも徐々に心を開いてくれるんです。そして、彼らが販売者に登録したら、次はどこで販売するかを一緒に探します。彼らは交通費を出せないので、移動手段は徒歩が基本。雑誌が売れそうな場所を求めて、何駅もまわることはしょっちゅうです。だけど、そうして新米販売者に初めてお客さんが現れるときが、この仕事をしていていちばん嬉しい瞬間ですね」。
そんな池田さんの頑張りもあって、ビッグイシューの知名度は今ではかなり高まった。しかし、世に知れ渡るほど、「ビッグイシューを売っている=自分はホームレス」と宣言しているのと同じ。それゆえ、販売者に登録することをためらう人も多いそう。傍から見ると、「自立できるチャンスなら、みんなもっと挑戦すればいいのに」なんて、偉そうに思ったりもする。しかし、もし自分がホームレスになったとき、果たしてひとりで街頭に立って雑誌を売る勇気があるだろうか? 行き交う人々に「ホームレスだ」という目で見られながら、なかなか買ってもらうこともできないまま1日中立ち続けることも。私なら、殻に閉じこもって自立を諦めてしまうかもしれない。しかし、道端に立つ彼らは見事やってのけている。それほど、彼らの働く意欲は高く、本気で自立を目指しているということだろう。
2007年9月には、「ビッグイシュー基金」が誕生し、職業訓練の一環として、NECの協力でパソコン教室も設立された。そこに通うホームレスたちは、「パソコンが出来るようになったら、事務の仕事がしたい!」「パソコン関連の職に就きたい」など、次々と希望を膨らませているという。これこそ、設立者のジョン・バード氏が唱える「その人のやる気を引き出し、仕事を提供することが、次の希望を生み出す」が形となったものだ。
しかし、まだまだ世間のホームレスに対する見方は厳しい。海外では、ある種のステイタスとして多くの有名人がビッグイシューの表紙を飾っているが、日本ではそれが根付かない。「貧困問題には企業も積極的ですが、ホームレス問題には反応が鈍い。結局“自己責任”で片付けられてしまうことが多いんです」。
そんな状況を打破するためには、「ビッグイシューを買うことはカッコイイ!と思ってもらえるような雑誌にしていくことが大切」と池田さんは語る。「お客様の中には、販売者に差し入れを持ってきてくださる方も。こんな温かい励ましをバネにして、ひとりでも多くのホームレスの方に自立してほしいですね」。
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