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更新日:2002年9月18日 RSS

キャリアインタビュー
   
  vol.58
【メディカルアロマセラピスト】

生駒雅美さん

日本でも一般的になってきた
アロマセラピスト。
そんな中でも美容ではなく、
病気のケアとしてのアロマを目指す
生駒雅美さん。
あえて人の生死にも向き合う仕事を
選んだ彼女の思いは……?


パニックアタックになり
アロマセラピーの世界へ


  「人の体に触れるのが好き。マッサージをして触れられるだけでうれしいんです」

  こう話す生駒さんは、メディカルアロマセラピスト。美容としてのアロマセラピーではなく、病院で患者さんの病気のケアとしてアロマを施術している。

  生駒さんがアロマセラピーを勉強するようになったのには、きっかけがあった。それは自分自身がパニック症候群(パニックアタック)になったこと。

  英語の専門学校を卒業後、以前から憧れていた国を見たいと思って、イギリス・ロンドンに語学留学。ところが湾岸戦争のため、1年半で帰国した。帰国後は、またロンドンに行く資金を貯めるために就職し、3年間、水晶などの貴石を扱う仕事をしていた。

  「自分では楽しく働いているつもりだったのに、ストレスから心身のバランスを崩してしまったんです。満員電車の中や、人が多いところ、夜寝る前などに胸が締め付けられるようになってしまって。それがパニックアタックでした。今でこそ知られていますが、その頃はまだ情報がなく、心療内科もなかった。病名も分からなくて、治したかったけど精神科に行くのは敷居が高く、怖くて行けませんでした」

  いつ症状が出るのか分からないため、自分に自信がなくなり、外に出るのも怖くなった。今の明るく、元気いっぱいな生駒さんからは想像できない。

  「自分でもどうしちゃったんだろう、という感じで。それで、本当はもっと資金を貯めてから、と思っていたイギリス行きを早めに決行。その時は、まだアロマのことは頭になく、何か夢中になれるものが見つかればいいな、という思いでした」

  行ってみると、イギリスは代替療法の情報の天国だと気づいた。そこでアロマセラピーに出会い、4年半の滞在中、前半は語学の勉強、後半はアロマセラピーの勉強に費やした。

  「留学中もパニックアタックの症状は出ていました。でも、情報があるのとないのとでは違うし、まわりに私もそうなの、という人がいたことも大きかったですね。ハウツー本もあるから、対処法がわかり、自分でコントロールできるようになってきたんです」

  生駒さんの場合、症状がクセになってしまっていたので、今も完全には治っていない。

  「クセになったものは後引きます。私はすごく長引きましたから。今年で10周年くらいかな。今、もしそういう人がいたら、クセになる前に病院でちゃんと治すことをすすめますね。それで、ちょっと残った不安はアロマで取り除きます」

医師や看護師にできない
心のケアをするのが仕事


  そんな、自分自身を治したいという思いから、イギリス滞在の後半1年半は、アロマセラピーの学校に通った。

  「イギリスには有名なアロマセラピーの学校・団体もあるんですが、私が行ったのは、あまり知られていない、北欧の団体(I.P.T.I.)が提携する学校。宿題もみっちりあって大変でしたが、スウェディッシュマッサージやレイキなどもとり入れていて、おもしろかったです」

  その学校で、生駒さんの今の仕事につながるような出会いがあった。

  「生徒の中に大腸がんの人がいたんです。
彼は通院していたので、学校には週2回くらいしか来れなかったけど、いろんな代替療法を勉強したり、すごく意欲的で元気な人。アロマの勉強は、自分のためというより、病院で一緒に治療をしている、がんの友だちや人のためにやってあげたい、と言ってました 」

  そんな出会いがあったからこそ、生駒さんは今、病院でのアロマセラピーを行っている。その彼は今も元気にしているそうだ。

  学校を卒業し、帰国してもアロマセラピストで食べていけるとは夢にも思っていなかった。ところが、アロマセラピーに対する志が同じ先輩セラピストに出会い、病院で働くことがすんなり決まった。それが、今も続いている、埼玉県川越市にある愛和病院での妊婦さんへのアロマセラピー。

  「産後直後の妊婦さんにサービスとしてアロマセラピーを行い、心と体のトータルなリラクゼーションを実施しています。カウンセリングをして、好ましい香りを選び、マッサージを行うんです」

  出産は女性にとって一大イベント。マタニティブルーになったり、出産のストレスを抱える人も少なくない。生駒さんが行っているのは、医師や看護師ではできないケアだ。

  「中には死産の方もいますし、赤ちゃんが他の病院に転送されてしまうこともあります。すごくデリケートなことだから、ホルモンバランスに響くんです。中には、マッサージ中に泣き出したり、怒り出す人も。きっとそれまで我慢していた心のドアが開いちゃうんですね。でも、それを受け止めてあげるのが私たちの仕事。泣こうがわめこうがこちらは平常心で、笑顔で対応します」

  “もらい泣き女王”とあだ名がつくくらい感情の豊かな生駒さん。最初の頃は妊婦さんと一緒になって泣いてしまっていた。

  「でも、病院のカウンセラーの先生に、セラピストも一緒に泣いてもいいんだと聞きました。それから不思議と泣かなくなりましたね。今年で5年目ですが、今では“アロマセラピーがあるので、この病院にしました”という妊婦さんもいて、うれしいですね」

昏睡状態の患者さんに
最後のマッサージ


  もう1つ行っているのが、同じ埼玉県川越市にある、帯津三敬病院でのがん患者へのアロマセラピー。この病院は日本における代替療法のパイオニア的存在・帯津良一先生の思想に基づき、いろいろな代替療法が用いられ、特にがん治療において有名。

  「気功や呼吸法、ホメオパシーなどたくさんある代替療法の1つとしてアロマがあるんです。病院生活がより快適に、治療に前向きに取り組めるようにという願いをこめて行っています」

  アロマセラピーを受ける患者さんは、専門の審議の医師が判断する。末期の場合は、体に負担がかからないように、ホールディングという、手をあてて香りを嗅いでもらうだけの施術を行う。

  「アロマをやったことがないような、男性の方に意外と好評ですね。最初は半信半疑でも、1回試してみると、すごくいい、と実感していただけたり」

 これまでに施術した患者さんは、元気に退院した人もいれば、亡くなった人もいる。

  「アロマをずっと受けてくださってて、絶対続けてね、と言って亡くなった方もいました。その言葉を聞いて、私、絶対に辞めない! と思いました」

  これまでで印象に残っているのは、生駒さんと同年齢くらいの乳がんの女性。

  「長く患っている方で、肩のところにすごく大きな水泡ができて、その部分がもう壊死していたんです。手足もむくんで、体はつらそうだったけど、アロマが好きで、ずっと受けてくださっていたんです」

  生駒さんが病院に行くのは週に1回なので、セラピーは毎回予約制。先週、予約を入れたのに、1週間後に来てみると予約が線で消されていて、亡くなってしまっていた、ということもある。

  「彼女の場合も、毎週行くたびにああ、予約がちゃんと入ってた、とホッとするような状態。足のマッサージをさせていただいてたのですが、やっぱり見ていてかわいそうなくらい苦しそうで……。そんな状態になってもアロマを受けてくださって、私としては複雑な思いがありました」

  でも、ある日病院に行くと、彼女はもう昏睡状態。家族が最後のお別れに集まっている中、アロマが好きだったから、と生駒さんは最後となる足のマッサージをした。

  「意識はなくても足がだるいみたいで、細くなった足をバタバタさせているんです。マッサージをすると、そのバタバタが止まっておとなしくなって。よかったな、と思いました。それで最後のお別れをして出てきました」

アロマが必要な人が
もっとたくさんいる


  病院でのケア、特にがん患者への施術は、人の生死に向き合わなくてはならない、重い仕事だ。同じアロマセラピーでも、健康な人向けのものもあるのに、生駒さんはなぜ病院でのケアを選んだのだろう。

  「病院は、痛かったり、嗅ぎたくない匂いを嗅いだり、つらい思い出がつきまとうところ。それをちょっとでも緩和できたら、と思います。

  それに、私の考えでは、アロマセラピーは本当に必要な人が受けられるように、しかるべき施設の中にあるのがベスト。もちろん、サロンなどで健康な人が受けるのも素敵なことです。でも私が目指すのは、病気の治療に行き詰まった時、いろんな療法の中の1つとして、気持ちいいアロマが選べることなんです」

  そういう意味では、今の帯津三敬病院の環境は理想的。とはいえ、このように病院に専門のアロマセラピストがいるところはまだまだ少ない。今のところ、心療内科や産婦人科などに限られてしまうそう。

  「心療内科は、自分がパニックアタックの経験があるので、今後ぜひやってみたいですね。あとは、薬物・アルコール依存の患者さんも。でもそれには専門の勉強が必要ですし、アロマセラピスト歴10年くらいにならないと出来ないと思ってますけど」

 現在の生駒さんは、2つの病院での活動のほか、イギリスのエッセンシャルオイルを扱う“フレグラント・アース・ジャパン”でのアロマセラピー講座の講師や、各業界のワークショップの講師なども勤め、多忙な毎日。それでも“アロマが必要な人はもっといっぱいいる。望まれればどこへでも行きたい”と話す。

  「イギリスでは、パニックアタックになったら、お医者さんも“じゃあアロマで治したら”というくらいアロマが根付いているんですよね。日本もそうなったらいいな、と思います」

  一番うれしいのは、患者さんの顔に笑顔が出た時。それまで眉間にしわを寄せていた人でも、本当に表情が変わるという。

  「でも私は、人の体を触れるだけでもうれしい。マッサージで触れることは、日常で“がんばってね”と肩を叩いたり、“大変だったね”と手を握ることの延長線上にあると思ってます。気持ちこめてマッサージをして、それが伝わろうと伝わるまいと、すごく幸せなんです」



 ある1日のスケジュール

07:00 起床
10:00 病院に到着 準備
10:50 1人40分のカウンセリング&セラピーを2人行う
12:00 昼食 休憩
12:40 カウンセリング再開
18:00 終了
19:00 ケーススタディとして印象に残った患者さんの記録をつける
20:30 帰宅 夕食
24:00 就寝

プロフィール

高校卒業後、英語の専門学校を卒業し、アルバイトを経て英国・ロンドンに語学留学。1年半後に湾岸戦争が勃発したため、一時帰国。再渡英の資金を貯めるために就職し、3年間働く。

ところが、ストレスから心身のバランスを崩してパニックアタックになり、25歳の時予定より早く再び渡英。語学を学び、アロマセラピーの勉強を始める。

'98年に帰国し、現在は週に1回ずつ埼玉県川越市にある愛和病院、帯津三敬病院での施術を行っている。その他、フレグラント・アース・ジャパンでアロマセラピー講座の講師として活躍。

英国I.P.T.I.認定アロマセラピスト フレグラント・アース・ジャパン 教育マネージャー・講師

フレグラント・アース・ジャパンのサイトはこちら


オフの楽しみ方

仕事とはかけ離れたことをします。静かな仕事なので、その反動でうるさい音楽のライブに行ったり。音楽に癒されるタイプなので、気合を入れて仕事をしたいときは朝、パンクを聞いたりするんです。

あとは、お酒飲めないくせに朝まで飲んだり、踊りに行ったり。無性にワーッとはしゃぎたくなって、友だちに迷惑かけちゃうことも。本を読むにしても、癒し系のものは仕事で読むから、プライベートでは全然関係ない、おどろおどろしいものだったりしますね。


この仕事を目指す人への
アドバイス

人のいいところ、悪いところ、強さ、弱さ、すべて含めて好きだと思える人がいいですね。あとは、人の体に触るのが好き、触るだけでうれしい、と思える人だったら向いてると思います。手先って意外に気持ちが出るものだから、自分がハッピーじゃないと、マッサージをされている人にも伝わります。そんな状態でやってもらっても、気持ちよくない。だから、日々いろんなことがあるけど、プラスマイナスゼロならオッケー! と思えるくらいでないと。

あと、病院での施術では、鼻にチューブをつけていたり苦しそうな人もいます。その時に、この人はこういう状態だ、と冷静に見ることも大事ですが、苦しそう、かわいそう、という同情の気持ちも大事。その折り合いが難しいかもしれませんね。同情に転ばずに、癒しを与えられるスタンスを見つけなければならない。でもそれは現場で試行錯誤して、それぞれが悩んで見つけることだと思います。




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text / Gunji Maki
photos / Cafeglobe
 

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