カフェグローブ財団法人 世界平和研究所 主任研究員/西垣淳子さん - キャリアインタビュー

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更新日:2006年6月19日


財団法人 世界平和研究所 主任研究員
西垣淳子さん

この国をより良くするために、国家のデザインを考える。それが経済産業省からシンクタンクに出向し、研究員として憲法改正案作りに取り組む西垣淳子さんの仕事。彼女にはふたご+末っ子の3人のママというもうひとつの顔がある。

日本という国のおおもととなるもの、憲法
途方もないこの仕事に取り組む原動力は……

 だれもが一度は学校の授業で読んだことがあるだろう日本国憲法。60年前につくられた日本の根本的なルールを定める法律を、変えるとしたらどうしたらいいのか。西垣さんが取り組んでいるのは、この途方もない仕事だ。この国を良くするため、憲法改正が悲願である元首相とも、臆することなく議論を交わす。分厚い専門書を読み込み、国家のデザインについて想いをめぐらす。そのときにもきっと、彼女のもうひとつの顔、3児の母……が役に立っているに違いない。子どもたちが生きる未来のためにも、この国を良くするにはどうしたらいいだろう、と。

 西垣さんはもともと経済産業省のいわゆるキャリア官僚。やはり官僚だった父親の助言もあり、可能性を広げようと法学部へ。サークル活動やアルバイトなど、学生生活も楽しみながら、就職の選択肢も広げるべく、勉強して公務員試験に合格。就職活動の時にはほかの省庁もまわったし、一般企業も受けたけれど、いちばん、一緒に働きたいと思った人が多かったのが通産省だった。「他省庁や企業では組織の型にはまる人が多かったなかで、通産省はいちばん視野が広く、自分が磨けるという感じだったので」。

西垣さんが日々取り組むのが、この「憲法改正試案」。昨年の1月20日、日本記者クラブにて全条文よりなる『世界平和研究所 憲法改正試案』を発表した。

入省2年目にして、責任ある仕事に
各国と渉り合いこの仕事の醍醐味を知った

 ところが。1年目の生活は「自分を磨く」どころの話ではなかった。朝から晩までとにかくめまぐるしく、ハードな日々。ひたすらパソコンを打って資料をつくり、コピーしてホッチキスでとめて省内のあらゆる部署に配る。その合間にも会議の日程調整や資料の問い合わせが入る。とにかく考えるいとまもなく、次から次へと雨あられのごとく降ってくる雑用をこなす毎日。午前様は当たり前、土曜日も出勤、日曜はぐったりと寝て、目が覚める時間は夕方。のろのろ起き出してごはんを食べて寝る。起きたらまた1週間の始まりだ。

 だが2年目からは仕事が劇的に変わった。輸出検査や基準認証の仕事の担当になった西垣さんは、APEC(※1)ウルグアイラウンド(※2)の会議に出席。日本を代表して各国と交渉する面白さを味わう。「いきなり責任ある仕事を任されて、この仕事の醍醐味を知りました。官僚という仕事は、自分が関与できるものごとのスケールが大きく、達成したときの喜びは何ものにも代え難いものでした」。

 
(※1)APEC 
アジア太平洋経済協力会議

(※2)ウルグアイラウンド 
1986 年に南米ウルグアイで始まった、GATT(関税貿易一般協定)の多角的貿易交渉。農業、関税、知的所有権、サービスなど14分野が個別に協議され、1993年12月に決着した。

 
惚れ込んでいた「バイオ」から
泣く泣く身をひくことになった、ある事件

 その後、米大学院への留学をへて1998年に政府が推進するバイオテクノロジー戦略の担当に。当時、「バイオ」はまだ創生期。西垣さんは政府一体となって日本のバイオ技術を推進させていくエンジンの役割を担う。仕事は充実していたが、役所の廊下にバスタオルを敷いて寝泊まりするような激務の日々。

 そんななかで、西垣さんは流産してしまう。この経験が西垣さんをいったん立ち止まって考えさせた。仕事はしたい。仕事のない自分は考えられない。でも、子どもも欲しい。それは結婚当初からずうっと願っていたことだ。さてどうする。

 出した結論は、バイオの仕事から退くことだった。「自分で異動の希望を出したのに、異動当日にはわんわん泣きました」。比較的余裕のある職場に移り、その後妊娠、2002年5月に男女のふたごを無事出産。復帰してから現在のシンクタンクに出向、憲法改正案づくりに携わることになる。毎日6時半に帰ってふたごの世話をし、寝かしつけ、気合いで再び起きて洗濯物を干す。その後は、午前3時までひたすら憲法の勉強をし続けた。

研究室の書棚には、憲法に関する書籍が並ぶ。「重要なものはやはり何度も読み込みます。憲法改正案づくりに携わり、かつてないほど集中して研究にうちこみました」。

「出産が、憲法改正案発表と重なる!」
苦悩する彼女を救った夫のひとこと


そしてまた妊娠。「今度はびっくり。事故でした(笑)」。しかも今回は出産直後の時期が、仕事のピークである憲法改正案発表に重なることがわかった。前の経験から、妊娠中でも仕事を続けることはできる、と思った。でも、生まれたばかりの赤ちゃんとふたごを育てながら仕事をするのはどう考えても難しい……。

 頭を悩ませていたとき、夫が「俺が育休をとればいいじゃん」と言い出したのである。

 その言葉通り、夫、山田正人さんは産後即職場復帰した西垣さんからバトンタッチ、1年間の育児休暇をとったのだった。その経験は、仕事一辺倒だった山田さんの暮らしを大きく変えた。

 いま、西垣さんは夫と分担しながら、実家に頼ることもなく、仕事と子育てを両立している。ベビーシッターの手は借りてはいるが、すべておまかせにはせず、7時前後には必ずどちらかが帰ることにしている。「こどもが小さくて、成長の激しい時だからこそ一緒に過ごして日々の変化を感じたいんです」。

 仕事と子育て、両方というのは大変では? キャリアアップに不安になることはないのだろうか?

「両方とも自分にとって不可欠なものだから。公務員という仕事で国のために、というのなら、自分の出世よりも、自分の生き方でロールモデルを見せるほうが少子化対策になるのではと。時間は有限だけれど、緊張感をもってやれば、能率は落ちません」

 あくまでも片ひじをはらずしなやかに、でもやることはぴしっと。ふたごちゃんたちが大人になるころには、西垣さん、そして山田さんの生き方がごくあたりまえのことになっているのかもしれない。


西垣淳子さん プロフィール
 
東大法学部から経産省へ。入省2年目の5月に同省の同期、山田正人さんと結婚。米デューク大、シカゴ大への留学を経て、環境汚染物質の排出を規制するPRTR法案づくりや、ゲノム解析プロジェクトといったバイオ推進政策などの仕事に携わる。2002年5月に男女の双子を出産、育児休暇の後2003年に復帰後、シンクタンクの世界平和研究所に出向。会長である中曽根康弘元首相のもと憲法改正案作りに取り組む。2004年月に男児を出産し、翌月に復帰。現在も育児と仕事を両立。月、火、木は 3人の子どもたちのお迎えのため7時前には退社する日々。


ある日のスケジュール
 
06:30 末っ子と一緒に起床
07:30 ふたごと夫が起床
08:00

家族5人で朝食

08:40 出勤
09:00 ふたごを保育園に
09:45 出勤 自室で研究
10:00 会議など
12:00 打ち合わせを兼ねたランチ
13:00 論文執筆、打ち合わせ
18:45 ふたごのお迎えのため保育園へ
19:15 末っ子のお迎えのため保育園へ
19:30 帰宅
19:45 夕食
21:00 子どもたちを寝かした後家事
22:30 読書、新聞・メールチェック
24:00 就寝
 

西垣さんが、仕事のピークと出産が重なる、と悩んでいたのを見て夫、山田さんは育児休暇を取得することを決意。しかも、どうせとるなら、と1年間にした。おそらく、キャリア官僚で最長育休取得だろう。その日々をつづったのが『経産省の山田課長補佐 ただ今育休中』。赤ちゃんと向き合った、楽しくあったかな、でも迷い悩んだ1年間が率直に語られている。役所で深夜2時、3 時までの残業は当たり前、の世界からいきなり24時間家庭のなかへ。おっかなびっくり赤ちゃんに接するところから、孤独感にさいなまれ、ママともや保育園の先生たちの視線を気にしながら、試行錯誤しつつやがて子育ての醍醐味を知る。こどもの成長とともに自身も変化していく様子がおもしろい。官僚ならではの少子化への考察や、政策提言、これまでとは逆の立場からみたお役所仕事への疑問なども。子育ての素晴らしさと楽しさを実感した山田さんは今も水、金は定時の6時に退社、保育園にお迎えに行き、子どもたちの世話をしている。

子どもを持つこととキャリアを両立したい人へのアドバイス
 
「そもそも、仕事と子どもは天秤にかけて比べるものではないと思います。仕事なしの人生は考えられないし、誰にでも生活があるのはあたりまえ。私は楽観的なのか、悩むより先に、一歩前に踏み出してしまうんですよね」(西垣さん)。育児と仕事を両立させたいなら、やはり夫の理解は不可欠。「長い視点で見れば、父親が育児に参加することで、夫婦も子どももハッピーになれる。育児のことにかかわらず、パートナーと日ごろから話し合い、価値観を共有することが大切なのではないでしょうか」。



text / Angel Atsumi
photos / Cafeglobe

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