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「君がいなくても会社は困らない」 この一言で、紅茶のプロになることを決意 学生時代から飲食業に興味があった鈴木さん。両親の希望から、いったん薬品会社の秘書として働き出すが、半年もたたないうちに転職活動を開始する。 海外やファッション、インテリアにも興味があった鈴木さんが選んだのは「サザビー」だった。「当時はまだ小さな会社でしたが、“衣食住をメインとした新しいライフスタイルの提案”という理念に惹かれたんです」 『アフタヌーンティールーム』の店舗へ配属され、毎月10品のフードメニューを提案。ところが、3年たってもアイディアが採用されない。「アフタヌーンティーの原点をこの目で見て、心に響くものがなければ会社を辞めよう」と、ケジメをつけるつもりでその後行ったイギリス旅行が吉と出る。現地で触れた紅茶の歴史や文化をまとめ、自主レポートを提出。これが役員の目に止まり、企画スタッフへと引き抜かれたのだ。 社員が少ないため、企画といってもプランニングから販売促進、広報業務まで1人3役をこなす。多忙を支えたのは、自分で作ったものを自分の責任で売れる面白さだった。そのうち、会社の成長とともに社員が増え、フードメニュー開発の仕事に専念。仕事の充実ぶりを感じ始めていた頃、転機となる事件が起きる。 「パティシエが、私の考えたメニューを実現できないと言い、口論になったんですね。そのとき『君が明日いなくなったとしても、会社は困らないんだからね』と言われたんです。ショックでしたが、素人ならではのアイディアを売りにすることだけに甘んじていたと、ようやく気がつきました」 この会社に必要な人材とは。自分にしかできないこととは。考え抜いて鈴木さんが出した結論は「紅茶のプロになろう」ということだった。 「そもそも料理や食べ歩きより、考えた料理をどうディスプレイしたり、PRしたりするか、という“組み立て”が好きだったんですね。フードに関してはやるだけやったので、次はお茶だなと。実は、『アフタヌーンティールーム』と名乗りながら、私もスタッフも茶葉を何分蒸らせばいいかさえ知らなかったんです。一から紅茶を勉強し直す心づもりでした」 紅茶の世界をもっと極めたい! 管理職の座を捨て3ヶ月の世界放浪の旅へ さっそく、日本紅茶協会が主催するティーインストラクター養成講座の受講申請書を上司に提出。即却下されたがめげることなく、安価でおいしい茶葉に変えたときのコスト削減率、予想売上書まで添えて、申請書を出し続けること1年。ある日、「君も本当にしつこいね」と上司に返された申請書には、ついに受講を認めるハンコが押されていた。 「粘り勝ちですね(笑)。講習後は、全店舗の茶葉を変えて、コストを削減しつつ、味のクオリティを上げました。さらに、全国のショップスタッフにセミナーを開いて、正しい紅茶の入れ方も指導しました」 「アフタヌーンティー」というオリジナルブレンドティーも開発。まさに『アフタヌーンティールーム』の基礎を作るうえで、“会社に必要な人材”になった。その功績が認められ、30歳という若さで、しかも女性では貴重な管理職のポストに就くが……。 「組織の運営にはまったく興味が持てませんでした。かといって、もう現場でもやることはない。ならば、紅茶を極めるために、世界の紅茶の現場を見て回りたいと思うようになっていましたね」 安定した給料か、自由な時間か。悩みを相談した取締役には「戻りたくなったら、いつでも戻ってくればいいじゃないか」と言われ、背中を押された。次の職はまったく未定のまま、退社。33歳だった。 退社後すぐに、紅茶を訪ねる世界放浪の旅に出る。期限なし、行き先なし。気が済むまで紅茶に触れようと、まずはスリランカへ旅立ったが、最初の気負いとは裏腹に、わずか1週間で極度のホームシックに。 「泣きながら夫に電話したら、『絶対に後悔するから、今帰ってきちゃダメだ』と言われたんです。怒りとショックで、気を失ってしまったほど。恨みましたね〜(笑)。でも、その一言で腹が据わりました」 そもそも、紅茶の紀行本を出版するというのも、旅の目的のひとつだった。「教科書のような本ではなく、自分が産地に行って茶葉を選んだり、海外のカフェで紅茶を飲んでる気分を味わえるような、楽しい本が作りたかったんです」 結局、紅茶を訪ねる放浪は計7ヶ国、3ヶ月間に及んだ。紀行は、雑誌の連載という形で実現させた。 紅茶の新スタイル“ティープレッソ”に 異例の出店依頼が! 帰国後は、フリーのプランナーとして働きながら、 “実験”と称して、旅先で入手した茶葉を使って紅茶の新しいスタイルの研究に没頭した。 そうして生まれたのが、紅茶のエスプレッソ、「ティープレッソ」だ。エスプレッソマシンで紅茶を抽出したティープレッソは、紅茶の豊かな香りを残しつつ、しっかりしたコクも楽しめる。「コーヒーのように気軽に飲めて、女性にも男性にも飲んでもらえる紅茶ドリンクを作りたい」という思いで開発した執念の一品だった。 新しい紅茶のスタイルを発表するなら『スターバックス』の発祥地であり、カフェやサロン文化も発達しているアメリカ・シアトルしかない。そう思い、会社を設立して店舗を決定。スタッフの採用も終えて、オープンまで2週間を切った頃、あの「9.11」が起きた。レストランといい、ホテルといい、人が集まりそうな場所はすべて「9.11」の影響でクローズ。結局、開店を延期し、アメリカには会社だけを残して、日本で起業・出店に切り替えた。プレゼンから半年後、ルミネ新宿店への出店が決定する。店舗実績がない会社が駅ビルに進出するのは、異例中の異例だ。 「プレゼンで実際にティープレッソを味わってもらい、味を知ってもらったのが効いたのだと思います。店を開けてみると、女性はもちろん、男性でも毎日通ってくれる方がいたことに感激しました。“かっこいい紅茶”は受け入れられる、と報われた思いでしたね」 さらに、今年10月にはミニストップと共同開発した「達人の紅茶 Teapresso Latte」を発売。「まだまだ改良点はある」と言うものの、売れ行きは好調だ。 「次の目標は、サロンを開くこと。クリエイターが集まってカルチャーが生まれた欧米のカフェやサロンのように、新しい文化を発信する場を作りたいです」 次々にアイディアを出すのは、「紅茶を通じて、新たな楽しみ方を提案したい」という思いがあるから。「新しい紅茶のスタイルを考えるのは楽しいですが、それを飲んだ人に、ライフスタイルに楽しみが増えたと思ってもらえる方が、もっとうれしいですね」 ささやかだけれど気分を盛り上げてくれる。ティープレッソが、そんな日常のハッピーアイテムのひとつになる日も遠くないかも!? |
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text / Tomoi Eri photos / cafeglobe |

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