ミシュランの観光ガイドで「都心からわずか50kmにこれだけの自然が残っているのは奇跡的」と三ツ星を受け、一躍注目が集まった高尾山。国内で三ツ星がついた山は、他には富士山だけというからすごい。新宿から片道370円、自然が豊かな東京のオアシス。でも今、このオアシスのど真ん中にトンネルを通す計画が進んでいるとのこと。それってどういうこと? 高尾山でユニークな反対運動を続けるエコアクション「虔十の会(けんじゅうのかい)」を取材してきました。

高尾山は1300年前に霊山として開かれ、大切にされてきた。日本最小の国定公園でありながら、植物の種類は1320種と日本一多い。昆虫の数も5000種、日本三大昆虫生息地の1つだ。また、ハイキングコースは、ケーブルカーで行くルート以外にたくさんのコースがある。気軽にケーブルカーやリフトで行ったり、森を散策したり、滝を見たり、本格的な登山に挑戦したり……訪れる度に発見がある場所だ。(photo / Sano Kotaro) このトンネルは、「圏央道」のためのもの。東名や中央道など9本の高速道路を結ぶため、都心から半径50km圏に計画された全長300kmの環状道路です。1984年に計画が発表され、今も建設が進められています。高尾山にトンネルを通す計画は25年前に発表され、地元住民を中心とした反対運動が起こりました。「トンネル工事によって高尾山の豊富な地下水脈が破壊され、生態系に悪影響が及ぶのは必至。トンネルを一度掘ってしまったらとりかえしがつかない」と訴える反対派と国土交通省の対立は今も続いています。

反対派の人々は、トンネルを通さずに迂回路を検討すること、もう一度環境アセスメントをおこない環境への影響を検討することを署名や裁判で訴えている。しかし国土交通省は、あたかも裁判の結果が出る前に工事を進めてしまえとしているかのようだという。たとえ裁判で反対派が勝っても「もうあと一歩のところまで工事を進めてしまったから止められない」として無理矢理完成させてしまうのは国の常套手段なのだそうだ。(photo / Hirokawa Taishi) 虔十の会代表の坂田昌子さんによると「迂回路の可能性すら検討せず、専門家から見ると明らかに間違いがあり国にとって都合がいい20年前の環境アセスメントの結果を使って工事を続けるのはおかしい。トンネルに莫大な税金を使いたいからとしか思えない」とのこと。トンネル工事には1mにつき7000万円もかかるのだそうです。「テレビ局からの取材も来るのですが、なかなか放映してもらえません。これは建設会社などのスポンサーが報道しないように圧力をかけているのか、テレビ局が自主規制しているのか」。
この問題に対して、軽やかに楽しく「トンネルをやめようよ」と訴えているのが、2001年に結成された虔十の会。中心メンバーは20〜30代。まずはたくさんの人に五感で高尾山を感じてもらいたい、と樹齢70年のもみの木にツリーハウスを作ったり、「天狗フェスティバル」というライブイベントをおこなったり。めいめいが高尾山の好きなところを登る「1000人ハイク」、「高尾天狗トレイル大会」というトレイルランを開催するなど、思わず参加したくなるイベントがいっぱい!

ツリーハウスでは、月1回ライブやパーティなどのイベントを行っている。普段は原宿で遊んでいるような人が、ここに来てすっかり高尾山のファンになり「トンネルはおかしい」と思うようになることも多いとか。その気持ちが分かるくらい、文句なしに気持ちいい場所でした!(photo / エコアクション虔十の会) 一方で、トンネル問題は今重大な局面を迎えています。トンネル阻止のため地元や全国の人々が共同で買いとったトラスト地に対し、国は、公共の目的のためには強制収用ができるという土地収用法に基づき、今年の3月25日を期限に土地収用、明け渡しを要請。これに対して虔十の会は、工事現場の中にデッキを作り、そこで「座っていいとも!工事だヨ!全員集合」という一風変わった座りこみを続けています。

「座りこみ」としつつ、ヨガありフラダンスあり、ミニライブあり。悲壮感がなくて参加しやすい! DJやミュージシャン、アーティストが続々と集まっています。土日は訪れる人数が合計1000人を超えることもあるとか。(photo / エコアクション虔十の会)

でも、この一見ライブハウスのようなデッキの目の前は、工事現場なのだ……。国側とトラスト所有地の境界線で対立しており、国は自分の主張するところに一方的にフェンスを作った。このデッキからは、工事の音もよく聞こえる。(photo / Akutsu Miho) 今も座り込みを続けている坂田さんは、最後にこうもおっしゃっていました。「私たちも道路に全部反対というわけではありません。でも、自然と相談できているかちゃんと考えないといけないと思うんです。自然をできるだけ壊さず、人間もこのくらいならやらせてください、という感じが大事です」。いちばん怖いのは、人々が知らないうちにトンネルができて、世界の人も驚愕する高尾山の自然が失われること。
この問題の解決へのいちばんの近道は、世論の高まり。世論がまとまってものを申せば政治が変わり、行政も変わります。手遅れになる前に、アクションをおこすことが大切。参議院議員の川田龍平さんも視察に訪れ、国会でこの問題について質問しています。新聞も、座りこみアクションでようやくこの問題を大きく取り上げました。おかしいと思ったら、高尾山に行く、この問題をまわりの人たちと話す、虔十の会のイベントに参加してみるなど、できることから実行してみて。
(取材・文/阿久津美穂 Slow Media Works) |