世界の主要先進8ヶ国が集まり、その時々の国際問題について話し合うG8(サミット)。日本が議長国になった今年の洞爺湖サミットが、7月9日に終わりました。テレビや新聞でもたくさん報道はされていたけれど、何か成果はあった? 地球温暖化対策の進展は? 専門家やNGOの方々に伺いました。

洞爺湖に集まったG8首脳(左からイタリア、カナダ、ロシア、アメリカ、日本、フランス、ドイツ、イギリス、EC委員長)。洞爺湖サミットでは、地球温暖化問題の他にも、原油や食糧価格の上昇、アフリカの貧困問題等について話し合われた。サミット終了後の福田首相はニコニコだったけれど、成果は……? photo / 外務省 ■最大の目標は、去年のドイツからほとんど進歩なし
最も注目が集まったのが、2012年に終了する京都議定書の次の枠組みである「ポスト京都議定書」について、CO2などの排出削減目標を首脳たちがどう約束するか。2009年末までに決めることになっているので、残り時間はギリギリ。
具体的には、「2020〜2030年までの中期目標」と「2050年までの長期目標」の2つが必要とされています。中期目標については、EUは「2020年に20%減」と数値まで明らかに宣言したけれど、アメリカや日本はウヤムヤなまま。また、途上国は「先進国が数値目標を言うまで動かない」と言っています。
少しは動きがあったのが長期目標。去年のハイリゲンダム・サミット(ドイツ)では、「2050年の50%減を“真剣に検討”する」と合意しました。今回はそれを進めてG8とその他の主要な温室効果ガスの排出国で「2050年の50%減に“合意”する」ことが目標とされていました。洞爺湖サミット最終日に、中国・インドなど主要排出国を加えた世界の主要経済国首脳会議(MEM)が開かれたのは、この合意のためです。しかし結果は「2050年の50%減を“真剣に考慮”する」のまま……。真剣に考慮するのがG8だけでなくMEM諸国に広がったのがわずかな成果と言えるでしょうか。

MEMには、G8に加え、ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカなどが参加。これら急成長中の国は、CO2などの排出量も急成長している。だが、国民1人当たりの排出量で見れば、まだ日本やアメリカなどの1/20〜1/3であり、「これまでさんざん温室効果ガスを出してきた先進国が先に削減するべきだ」という主張は当然とも言える。photo / 外務省 ■日本の指導力がイマイチだった理由は……積極性不足!
国際環境政治が専門の浜中裕徳氏によると、今回の成果は「不十分だけれども、半歩前進」。「今回のG8とMEMに期待された長期目標への合意は、“国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の野心的な複数のシナリオを真剣に考慮する”というフレーズで表現されました。これでは目標に具体性がなく、漠然とした表現にとどまった」。

浜中裕徳氏(慶応大学環境情報学部教授)は、財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の理事長も務めている国際環境政治の専門家。IGESは、地球環境問題について実際の政策に反映できるような成果を目指した政策研究をおこなっており、温暖化対策についても多数の研究成果を上げているという。photo / 阿久津美穂 浜中氏によると、「真剣に考慮」にとどまった原因は、各国の相違をまとめきれなかった議長国日本の準備不足とか。「福田首相は、温暖化問題を重要課題とし、国内では『地球温暖化問題に関する懇談会』を立ち上げ討議を重ね、6月には『低炭素社会・日本を目指して』と題する演説を行いました。国内ではかなり思い切った政策を打ち出したと思います。しかし演説はサミットのわずか1ヶ月前で、メッセージの国際社会への発信力も弱く、浸透が不十分でした」。
「中国やインドが入らなければ意味がない」と主張するアメリカと、「先進国が先に大幅削減目標を出さないと合意できない」という中国・インドなどの意見が対立した時も、議長としてまとめることができなかった。議長としての指導力は、たとえば日本の積極的な姿勢をアピールして国際社会の信頼を得るといったことで発揮できる。「その点で準備が十分だったとは言えず、結局、期待されたほどの成果を上げられなかった」(浜中氏)。
■手厳しい、各NGOの評価
地球温暖化対策のために活動している3つの環境NGOにも、今回のサミットについて評価を聞きました。
札幌の国際メディアセンターで交渉プロセスを監視していた「気候ネットワーク」。今回の結果は「昨年に比べ長期目標に関する表現が少し強まったものの、国連の議論を強く後押しするものにはなりませんでした。後退しなくてよかったともいえますが“2050年にはG8の国々で80%削減、2020年には25〜40%削減”と明記できなかったのは大きな課題です」(京都事務所 田浦健朗氏)とのこと。やはり数値目標を具体的に打ち出せなかったのが大きいようです。
国際的な自然保護NGO「WWF」のグローバル気候変動イニシアティブ・ディレクター、キム・カーステンセン氏の評価はもっと厳しい! 「MEMは全く中身のない結果で終了した。G8首脳陣は途上国に対して多くのことを要求しながら、自分たちはろくに対策をとる気がないわけだから当然の結果だ。インドや中国など新興5ヶ国が、“先進国が野心的な排出削減目標を約束すれば、自分たちも排出削減行動をとる”と表明しているにもかかわらず、先進国は自らの責任から逃げた」と発表しています。

サミットのために来日したキム・カーステンセン氏は、アメリカの責任についても言及。「アメリカがしていることは、過去に温室効果ガスを大量に排出し、しかも今も1人当たりの排出量が世界で最も高いことから世界の目をそらそうとする恥知らずの行為である」とコメントしている。 photo / WWFジャパン やはり世界的な環境NGOの「グリーンピース」も、「結局、よくも悪くも何も決まらない会議で現状維持か、むしろ後退」(気候変動/エネルギー問題担当 鈴木真奈美さん)と、厳しい評価。
「グリーンピースはG8サミットNGOフォーラムの一員として参加しました。日本政府はサミット前の環境大臣会合では、私たち市民と環境大臣が同じテーブルを囲んで意見交換する場を設けるなど、開けたサミットにする努力は見られました。しかしその一方で、アフリカや韓国などのNGOの入国を空港で拒否したり、ビザを発給しなかったりということもあり、政府にとって都合の悪いNGOにはフィルターをかけた気がします。温暖化については、環境NGOが強く求めていた2020年の中間削減目標は、経団連や米国の圧力が強かったのか、明確な数値を出すことができませんでした」。

グリーンピースのダニエル・ミットラー気候変動政策担当は「事態は切迫しているというのに、世界は3日間を無駄にしてしまった。G8は気候変動を回避するのに必要な行動は棚上げにした」と述べた。photo/ Greenpeace/CANJ ■アメリカ大統領が変わったら、日本は置いてけぼりも
……どうやらガッカリな結果で終わってしまった今回のサミット。では、今後の動きで鍵となるのは? 浜中氏は、今秋に新大統領が選出されるアメリカだと指摘。共和党のマケイン候補は2050年に60%削減、民主党のオバマ候補は80%削減を表明していて、どちらが大統領に就任しても、大幅削減を約束する可能性が高いのだそうです。気候ネットワークの田浦氏も同意見で、「EUは温暖化対策に積極的なので、米国が変化すれば日本だけ取り残されてしまう」と心配しています。
確かに日本は、目の前の京都議定書の目標である6%削減の見込みすら立たない状況で、世界からも消極的な国だと見られています。早急に下記にあげるような取り組みを進めるべきでしょう。
●今すぐに6%削減のための施策を打ち出し、実行すること。 ●中期目標(2020年)数値を明らかにすること。 数字は、具体的な取り組みを策定するスタート地点に立つために不可欠な指針。これが決まらなければ途上国も納得しないし、長期目標(2050年)で50%減!と訴えたところで、説得力がありません。 ●数値目標を明らかにしたら、すぐにそれにもとづき、具体的な政策を実行していくこと。
「日本は、今年いっぱいはサミット議長国です。リカバリーショットを打つ意気込みで、来年イタリアでのサミットに向けて、G8とMEMの両方の場で議論がさらに進むよう力を尽くすべきですし、同時に低炭素社会の実現に向かって精力的に取り組んでいくべきです」(浜中氏)、「温暖化対策は、これから10年のうちに温室効果ガスの排出削減のための技術と行動を実行し、実際に減少へと向かわせなければなりません。20年後、30年後に可能になる技術では間に合わない。その切迫感を伝えて行くための行動が重要」(鈴木氏)とおふたりがおっしゃっていたように、今後、日本が温暖化対策のためにより具体的に動けるよう、市民である私たちも働きかけていきたいと思います。
(取材・文/阿久津美穂 Slow Media Works)
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