これまでも何度かCOOL!カテゴリでお伝えしてきた、ファションのエコシフトのお話。これまではロンドンの「estethica」や、ニューヨークの「フューチャー・ファッション」など海外の話題が多かったけれど、9月に行われた2009S/S東京コレクション・ウィークでも“COOL!”の兆しが見えてきた。
■東京コレクションでも、エコがテーマに!
オーガニックコットンをはじめとする環境にやさしい素材の種類と数が増え、デザイナーにとってもエコが身近になってきたのだろう。印象的だったのは、サプライヤーとして長年オーガニックコットンの普及に尽力してきた株式会社アバンティが「第26回毎日ファッション大賞」を受賞したこと。日本でもようやく、環境へのこだわりがファッションの表舞台で評価されるようになったのだ。
東京コレのスペシャルイベントでも「ECO×FASHION」をテーマにしたトークイベント(主催:毎日新聞社/協賛:伊藤忠商事)が行われた。司会はいとうせいこうさん、ゲストはモデルの富永愛さん、デザイナーの信國大志さんと豪華な顔ぶれ。そしてメインゲストはなんとキャサリン・ハムネット! つい先シーズン、筆者は「東京じゃエコファッションの盛り上がりを実感できない!」と、わざわざロンドンの「estethica」に行き、キャサリン・ハムネットのトークイベントにも参加してきたのだ……これならロンドンに行く必要なかったじゃないですか!!(嬉)

会場エントランスにて。キャサリン・ハムネットがこれまで作ってきた歴代のスローガンTシャツ「CHOOSE LIFE」「LOVE」「SAVE THE WORLD」が並ぶ。
■「どう生きるかはあなた次第」
キャサリン・ハムネットはいわずとしれたロンドンを代表する社会派デザイナー。1979年に「KATHARINE HAMNETT」を立ち上げ、スローガンTシャツで、環境保全、戦争と平和、政治、人権、エイズ問題など、ファッションで「Choose Life」(どう生きるか)を訴えてきた。
「1989年頃から『自分自身は正しい生活をしているのか?』と考えるようになり、世界中で10億人以上に雇用をもたらす繊維業界の実態についてリサーチを始めました」。90年からコットンの栽培に使われる農薬に関する教育プログラム「Environmental Cotton 2000」を立ち上げ、現地での調査も行いながら、コットン栽培に関わる生産者の農薬による健康被害や貧困、人権問題についての講演を行うなど精力的に活動を続け、2005年A/Wからは「KATHARINE E HAMNETT( 編集部注:Eがついていることに注目!)」として、フェアトレードで100%オーガニックコットンを使用したコレクションを発表している。
「現在の綿の流通では、収穫した綿を売っても農家に利益は残らないし、むしろ農薬が購入できずに20万人が自殺しているんです。『オーガニックコットンは高い』というけれど、オーガニックコットンの生産に切り替えれば、農家は利益を50%増やすことができるし、それによって貧困問題も解決できる」
エコファッションブームを牽引する彼女のこうした発言は、消費者だけでなく、その他のデザイナーやイギリスの大手小売店にまでも大きな影響を与えている。今後はエネルギー問題に関するキャンペーンを行い、2010年S/Sには、環境にやさしくファッション性を重視したデニム、ジュエリー、ジーンズ、そしてインテリア、スキンケア、食品まで幅広い分野でのコレクションを展開していく計画があるそう。

「これからはお話することは、多くの人にとってショックなことかもしれませんが…」と、話を始めたキャサリン・ハムネット。

貧困問題や社会問題への関心を形にした「KATHARINE E HAMNETT」のイメージビジュアル。オーガニックコットンを使うだけでなく、製造工程ではできる限り化学物質を使わず、輸送においても二酸化炭素の排出量が少ない手段を選んでいるという。
■「世界はそんなに変わらなかった」って?
今回のイベントで一番驚いたのは、キャサリン・ハムネットのこんな言葉。「80年代から『世界はきっと変わるはず』という信念を持って活動してきました。でも残念ながら、世界を変えることはできなかった」。えぇっ! まさか過激なまでに活動をしてきた彼女が、こんな弱気とも取れる発言をするとは!だけどこの言葉にこそ、高い理想を求める彼女の強いメッセージが込められている。
「ファッション業界の内側からだけでは、世界を変えることはできないし、限界がある。もっと消費者の力が必要なんです。イギリスでは消費者の30%が『環境に優しくなければ商品を買わない』と考えるようになりました。まずは行動すること。アナログだけど政府や企業に手紙を書くことは効果的です。実際『環境にやさしい服を買えない限り買いません』と企業に手紙を書くキャンペーンは大きな反響がありました」。
「BOTANIKA taishi nobukuni」デザイナーの信國大志(のぶくに たいし)さんも「環境に配慮したくても、企業は利益が出ないと動けないこともある。エコファッションをより浸透させていくために、『私たち消費者がエコな生産者を支えている』という意識をもってほしい」と語った。

15歳の時にキャサリンがデザインした「Choose Life」Tシャツを大切に着ていたという信國大志さん。「ファッションは楽しいこと。だからこそ、その過程で何が起こっているのか、ひとり一人が考える必要がありますね」。 そうか! 今までは「東京でエコファッションが盛り上がるためには、もっといろいろな企業が取り組んでくれないと始まらない」「環境にやさしい服を着たくても売ってない」「エコでおしゃれな服が見つからない」と思っていたけれど、できることは私たちのほうにあったんだ。
ファッションは私たちを楽しい気分にさせてくれるものだし、服を着ない人はいない。だからこそ、消費者の声の力を信じて行動する。これが大切なんですね。

キャサリンの熱のこもったスピーチを聞き「すごくショックだった。少しずつでも、やれることをやっていきたい」と、富永愛さん。いとうせいこうさんも「『消費とファッションが両立するか?』を議論するのではなく、消費者が意識を持って問題に取り組むことが大切なんですね」と語った。
文・写真/佐久間 成美 |