001
福岡伸一 さん
FUKUOKA SHINICHI
分子生物学者

文・写真 / 青木陽子(cafeglobe)
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福岡伸一 さん
FUKUOKA SHINICHI
分子生物学者

温暖化をみんなで止めていくためにも、本当にからだにいいものを口にするためにも、アンチエイジングに精を出すにしても、科学のことを少しでも知っているとすごーく効率がよくなります。自分が何をしているのかが腑に落ちるので、俄然面白くもなってきます。そう、科学は生活の知恵。オトナの女の強い味方。いちおう生物学専攻だったCOOL!カテゴリ責任編集の私アオキ、『生物と無生物のあいだ』が科学の本としては異例の45万部を記録してメディアからひっぱりだこの分子生物学者・福岡伸一さんに、科学がどうして面白いか、私たちに必要か、がっつり伺ってきました!
青木: 最近、科学を謳った話が世の中に本当に多いなぁと思います。「酵素」に「イオン」くらいならまぁそんなものかと思っていたのですが、「ビタミンナントカ前駆体」とか「阻害剤」「ナノ」などと来ると、大学の分子生物学の講義を思い出すような内容で、こんなのみんな本当にわかってるのかな?と。そんなのが体に入ったらよくないのでは、というようなものが売られているのも見かけたり。ずばり、その最前線で研究をなさっているお立場から、科学を囓る程度でも知っておくことがどう私たちの生活にプラスになるか、お聞かせください。
福岡: そうですね、私たちは常に何かが不足しているかもしれないという強迫観念下にあると思うんです。体調が悪いのはビタミンが足りてないからじゃないかとか、お肌の調子が悪いのは、関節が痛いのは、と。たとえばわかりやすいものにコラーゲン食品があると思います。
青木: 肌の張りが落ちてきたらコラーゲンと聞きますよね。つい先日焼き鳥の「とり皮」を一気に数本食べてみました。
福岡: 肌の張りが落ちてきているのは、もしかしたらそこにあるコラーゲンが減ってきたからなのかもしれない。でも、今あなたが食べたコラーゲンが顔のそのお悩みの場所に到達してコラーゲンを補うということはまず絶対にないのです(笑)。
青木: 絶対に?
福岡: コラーゲンをたくさん食べれば肌がツヤツヤになるということは絶対にありません。科学リテラシーをどう考えたらいいかという糸口になるかもしれませんが、消化吸収の仕組みをちょっとでも知っていれば、そういうまやかしに騙されないで済むわけです。
福岡: コラーゲンはタンパク質の一種です。食品のタンパク質は牛や豚など他の生物の体の一部で、その生物の体の情報が書き込まれているものです。それが私たちの体に入ってくれば、その動物の情報が私たちの体の持っている情報と衝突していろいろな問題を起こします。食品アレルギーやアトピーがその例です。
青木: 移植した臓器が免疫反応で拒絶されてしまうのもそれですね。人間同士でも他人の体の一部がそのまま入ってくることはなかなか受け付けない。
福岡: そういうことが起こらないように、まずは消化をするわけです。消化は、大きい分子は吸収しにくいから小さくするというより、他の生物が持っている情報を解体することに意味があります。タンパク質は、普通はアミノ酸という比較的小さな分子まで分解されて初めて、消化管の粘膜を通過して体内に吸収されます。タンパク質が文章なら、アミノ酸はアルファベットです。邪魔な意味を持っていた文章をバラバラにしてアルファベットとして吸収し、そのアルファベットで私たちは自分たちの体用の文章(タンパク質)をもういちどゼロから紡ぎ上げるのです。
青木: そのアルファベットが肌のコラーゲンの材料に使われることはないんですか。
福岡: コラーゲン由来のアミノ酸も、普通のアミノ酸として体の中をグルグル回り、いろんな組織のさまざまなタンパク質の材料になります。一方で体内のコラーゲンは、どんな食品由来のアミノ酸からでも合成できます。つまり、食べたコラーゲン由来のアミノ酸が、直接、体内のコラーゲン合成の材料となる確率は、一分子もないとはいえませんが、極めて小さいものとなります。
これはあくまでも一例です。科学の問題を考えるためには、理想的にはいろんな知識やロジックを知っていることですが、じつはいくつか簡単なヒントを押さえていれば、足を掬われないですむと思うんですよ。
ーー科学を理解する便利なヒントとは? 次回(1月15日)の更新記事でお届けします!

青山学院大学の研究室前に貼ってあった「動的平衡」という篆刻印。ベストセラーになった著書『生物と無生物のあいだ』の中でも、この動的平衡という概念が「生きているもの」ならではの特性として紹介されている。
福岡伸一さん 分子生物学者
1959年東京生まれ。京都大学卒。ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学教授。専攻は分子生物学。『もう牛を食べても安心か』(文春新書)など著書、訳書多数。科学ジャンルとしては驚異的な45万部を記録した『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)では、第29回サントリー学芸賞を受賞。
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