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更新日:2008年1月29日 RSS

COOL!PEOPLE

文・写真 / 青木陽子(cafeglobe)

001

福岡伸一 さん

FUKUOKA SHINICHI

分子生物学者

001//福岡伸一さん(FUKUOKA SHINICHI)

IV.20年後、食費は倍になっているかも?
今、私たちは何を見て何をすべきか

科学が日常生活とどう繋がっているか、科学的思考をするためのコツ、科学の限界に来たときに人間はどんな判断をすべきか、といったことを見てきたこのインタビュー。最終回は、これらを踏まえ、人類史上最大の危機とも言われる地球温暖化の問題を中心に、私たちが今考えるべきこと・すべきことを伺いました。

あなたが吐いた二酸化炭素の炭素原子は
葉っぱになり虫になって地球を循環する

青木: 地球温暖化の問題はこの1年ほどで多くの人に知られるようになりました。北極の氷が溶けてなくなる、海面が上昇する、水不足が起こる、台風などが強烈になる……いろいろな危険が伝えられていますが、福岡さんは温暖化は実際のところどのくらいクリティカルで、そのために私たちは何をすべきだとお考えですか。


福岡: たとえば20年後に何かとんでもないことが起こるかどうかは、真のフェーズ、科学のレベルではよくわからないんです。でも、今何か考えるべきだし、何か行動を起こすべきだと思います。それが私の善のフェーズでの判断。何かすることは予防原則から考えて無駄ではないし、やっておいてよかったと思えることになる可能性が大きい。


  では何をすべきか。こんな風に考えてみてください。人間の体はしっかりした個体に見えますが、分子のレベルではものすごい速度で合成と分解をしているし、私たちもざっと計算しても日々1kgの二酸化炭素をはき出しています。それが生きるということです。


  この空気中に出て行った二酸化炭素を、植物が吸収して葉っぱや木の実になって、葉っぱを虫が食べて土壌を豊かにし、木の実を食べた鳥がした糞を小魚が食べて小魚は大きな魚に食べられて……という循環をしている。ある炭素の原子は、あるときは私の体だしあるときは岩石かもしれないし、あるときは海の中の……


青木: サンゴ礁の一部かもしれない。


福岡: そう、またあるときはミミズの体の一部かもしれない。炭素原子に限らず地球全体の原子の総和はおおまかに言うと一定で、それがグルグル循環している。人間の寿命が80年として、個人にとっては長い時間に思えるかもしれませんが、37億年の地球の歴史から見れば一瞬です。循環している原子がそこにたまたま淀んで命になっていることを考えると、私たちの体は個体というよりもガスのようなものなんです。


  そんな循環とバランスが、ここ何十年の間に乱れてきているのではないかというのが環境問題です。無限にあると思っていた化石燃料を燃やしすぎて、出した二酸化炭素を取り込んでくれるはずの植物の光合成活動が追いついていない。このバランスを取り戻す方法はたった2つしかないわけです。二酸化炭素の排出を減らすか、緑を増やして二酸化炭素の吸収を増やすか。排出するほうを減らすなら、消費を我慢したり快適さを手放したりするしかないわけです。緑を増やすなら自分で植えるのでもいいし、そういった活動に寄付をするとかでもいい。


  実質的に二酸化炭素を減らすために何かを我慢してでも行動するのが本当のエコロジーですよね。そのほかの一切の活動はじつはまがいものなわけです。二酸化炭素の排出権の売買なんてのはその最たるもので。二酸化炭素が貨幣のようになって、机上のやりとりで日本がハンガリーから買って、その分排出してもいいことになる。でも地球全体で二酸化炭素が実際に減ったのかというと減っていないわけです。減ることにつながると言ってはいますが。おまけに、そのお金は私たちの税金です。排出権取引で一山当てようとしている人もいますし、この新しい仕組みができることで、天からお金が降ってくるように儲かる人もいる。でも二酸化炭素は減らない。だったら何もしないほうが社会としてはマシなのかもしれませんね。

中国が穀物を大量に輸入するようになり
バイオ燃料人気で食糧不足が起きる

青木: 私は科学者ではないので言ってしまいますが、20年後、もしかしたら日本でさえも食費が倍くらいになっている可能性はあるんじゃないかと思っています。スーパーに並んでいる食品の種類も減ってきて、輸入品なんて相当なお金持ちでないと買えないような値段になっている……そんな社会になっているかもしれないと思っているんです。


福岡: ……間違いなくそうなっていると思いますよ(苦笑)。それは温暖化によって耕作地が減るということもあるけれど、世界の穀物の需給バランスが大きく変わってしまうということですね。中国が穀物輸入国になってきて、穀物の値段が上がっていく。そうすると日本の現在の食の構造だと、あらゆるものが上がりますよね。


青木: お肉系は、ほぼ輸入穀物で育てられていますから、いちばん値段が上がりそうですね。


福岡: そうそう。またバイオエタノールなど穀物から燃料を取り出す方法が注目されていますよね。この需要が増えれば、これでまた穀物の値段が上がる。でもバイオエタノールだってまやかしのひとつで、燃やせば二酸化炭素は出るわけです。育てているときに二酸化炭素を吸収しているから差し引きゼロね、と言っているわけですが、石油や石炭だって植物が体積してできたものです。単に時間が隔たっている化石燃料はダメで、今育てた植物ならいいのかと。


青木: そこにもそれで儲けようとしている人や企業の姿が見え隠れしているような。


  今回、温暖化や食の安全など、人類の未来を左右する重大な問題を考えていくためには科学のことを知っておく必要がある、という話ができればと思っていました。でも、そういった議論になっている問題にはじつは科学の限界にあるものが多く、いろいろな思惑が科学の皮をかぶっているだけだったりするというところがとても印象深く残りました。科学を丁寧に見極めた上で、最終的に判断するのは人間らしさを持った思考、まさに「善」「美」のフェーズなのですね。それは社会の中でもっと議論されていかなければいけないことにも、思いを新たにしました。


福岡: 社会と科学は切っても切れない間柄ですし、互いに都合のいいときだけ引っ張り出す傾向はありますね。少なくともそういった恣意的な関係にあるということを知った上で、科学を拒否するなり取り入れるなりしていっていただければいいと思います。

(終わり)



福岡伸一さん  分子生物学者

1959年東京生まれ。京都大学卒。ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学教授。専攻は分子生物学。『もう牛を食べても安心か』(文春新書)など著書、訳書多数。科学ジャンルとしては驚異的な45万部を記録した『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)では、第29回サントリー学芸賞を受賞。

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