カフェグローブ10月 その1 ポートランドの料理好きの必須行事!?秋の夜長にコトコトと作業するわけ - 渡辺葉のポートランド通信

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更新日:2005年10月12日

渡辺葉のポートランド通信

文・写真/渡辺 葉



10月 その1

ポートランドの料理好きの必須行事!?
秋の夜長にコトコトと作業するわけ


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 本日はみなさまに、告白しなければなりません。ワタクシは……ワタクシは……カンニングをしてしまいましたっ!

 なーんちゃって。カンニングと言ってもテストのカンニング――cunning(*1)ではござらぬ。私が「した」のはcanning(*2)、つまり“保存食作り”なのであります。

 夏の終わりになると、ポートランドのキッチン用品店では“canning goods sale”をやる。いろいろな大きさ、形のガラス瓶が一斉に半額になるのだ。どうやら人々は、この豊潤な土地で穫れる夏の味覚をガラス瓶に閉じ込めて、秋冬も楽しんでいるらしい。「それなら私も!」とやってみたのが、今回のカンニング、というわけ。

 さてここで、フランス革命直後、1804年のパリに寄り道してみたい。
 時の政権を握っていたナポレオン皇帝は、遠征のとき兵士たちの栄養バランスが悪くなるのを心配して、食品を長期保存できるような発明のコンクールを開いた。そこに応募したのがパリ近郊の菓子職人、ニコラ・アペール。アペールは、ガラス瓶に食べ物を入れてコルクで軽く蓋をしてから熱湯の中で煮沸すると、中身が悪くならないことを発見した。それがなぜなのかはアペールにもわからなかったけれど、「とにかくそうなる」ということだけは確信があった。アペールの発明はめでたく実証され、皇帝から1万2000フラン(*3)の賞金が贈られたという。

 その後、イギリスのピーター・デュランドが割れやすいガラス瓶の代わりに金属の缶を発明し、続いてフランスのルイ・パストゥールが腐敗の原因は細菌(*4)によることを突き止めた。細菌を殺すには、酸や熱などが有効なことがわかり、アペールの発明の秘密は解け、人々は夏に収穫した野菜や果物を真冬にも楽しめるようになりましたとさ……。
 現在では圧力鍋を使った“プレッシャー・キャニング”法というのもあるけれど、これには専用の巨大圧力鍋が必要だ。ほとんどの家庭はアペールが考案した“ホットウォーター・バス(熱湯風呂、ということですな)”法を用いているらしい。この方法の基本は熱した食べ物をガラス瓶に詰め、軽く蓋(*5)をして熱湯で茹でること。この過程で、蓋のごく小さな隙間から瓶の中の空気が逃げていく。瓶の中が真空化すると内蓋が凹み、常温でも保存できるようになるのだ。

 どうせ作るならおいしいものを作りたい。さまざまな攻略本を読破し、秋の一日を“カンニング・デー”(“キャニング”だってば)と定めて、こんなものを作ってみました。
・ローストした赤&黄ピーマンのマリネ
・エシャロットとカシスの“マーマレード”(*6
・トマトソース

 料理はなんでもそうだけれど、美味の半分は素材のよさで決まる。ファーマーズ・マーケットで仕入れた赤と黄がまぶしいピーマンは、鼻を近づけると太陽の光を閉じ込めたようないい香り。試しにひとつ切って生かじりしてみたら、じゅわっとジューシーで甘い。このおいしさをガラス瓶に閉じ込めれば、数ヶ月後にも味わえるのだ……なぜかおとぎ話に出てくる魔女になったような気分で、いそいそとオーブンの火をつける。

 それからの数時間はいやはや、大忙しだった。オーブンでピーマンをローストしながら、小鍋でマリネ液を煮て、その横で大鍋にグラグラと湯を沸かす……。



次のページでは……

葉さん大推薦!のカンニング・レシピ、続々登場しますよ>>
ポートランド


“カンニング”の道具&攻略本(!)……
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正しいカンニング用の瓶……
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指先だけ使って閉める……
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つやつやなお姿の美しい……
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皮をきれいに剥くコツ……
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赤&黄ピーマンのマリネ……
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ズッキーニのオムレツ……
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*1
これは実は和製英語。「彼はテストでカンニングをした」を英語で言うなら、「He cheated on his exams.」のように“cheat”という動詞を使って表現する。だから、名詞としての「カンニング」は“cheating”。ところがどういうわけか日本では「ずるい、狡猾な」を意味する形容詞“cunning”が“cheating”の代わりに定着してしまったらしい。

*2
こちらは缶詰の“can”(というか、もともと「缶」は英語のcanに当て字をしたもの)で、もちろん実際に金属の缶に食品をパッキングすることも指すけれど、広義には瓶詰めなどの保存食品を作ることを“canning”という。発音はどっちかというと「キャニング」に近い。

*3
これを現在の通貨価値に換算するのは実はなかなか難しいのだけれど、1880年頃でも1フラン=約1000円、1930年頃には1フラン=約100円だった、という説がある。50年間に1フランの価値が10分の1になったと考えると、ごく単純に逆算すると1830年ごろには1フラン=1万円ということになり、アペールのもらった1万2000フランは1億2000万円(でも1830年より26年前のことだから、もっとすごい価値だったかも)ということに……!? たとえ1880年の比率で計算しても1200万円だから、どっちにしてもかなりのお金……と、100万円以上はすべて“大金”に見える私は口をあーんぐりしているのであった。

*4
もっと詳しくいうと、雑菌や酵母による変質や空気に触れて起こる酸化、水分の損失による“萎れ”も食品劣化に含まれる。

*5
アペールはコルク栓を使ったけれど、現在では「スクリュートップ」と呼ばれる二重構造の蓋が一般的。瓶の口にぴったりはまるような内蓋をのせ、輪になった外蓋を「指の先を使って」閉める(ここで手の平全体を使ってぎゅっと閉めてしまうと、熱湯に入れたときに中の空気が逃げる隙間がなくなってしまう)。

*6
これ、実は拙訳『アマンダの恋のお料理ノート』(集英社文庫)に出ていたレシピ。柔らかめのチーズと合わせると、思わず立ち上がって部屋中を歩きまわってしまうほどのおいしさなのです。
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Profile
エッセイスト・翻訳家 渡辺 葉
渡辺 葉
ニューヨーク生活を経て、'04年春からオレゴン州ポートランドに移住。Cafeglobeでの人気連載2シリーズは『ニューヨークで見つけた気持ちのいい生活』『ニューヨークで見つけた気持ちのいい「ふたり生活」』として単行本化されている。


text & photos / Watanabe Yo
design / Takeue Tomoko


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