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予期していた出会いではなかった。狙いは他にあったのだ。けれど彼をひと目見た瞬間、運命は決まった。私は人混みを縫って彼の前にたどりつくと、ナスか洋梨を思わせるその優雅な腰の曲線に手をのばした。艶やかな身体を美しい3本の脚が支え、白鳥のようにほっそりと優美な首を挑戦するかのようにもたげている。突然「彼が欲しい」という欲望が胸骨のまん中に生まれ、紙を焼き尽くす炎のように全身に広がっていった。私は手を伸ばし、彼を引き寄せ胸に抱いた。 こうして、わが家に銀のコーヒーポットがやって来た。 いえね、本当は友人の誕生日プレゼントを探していたのです。近所のヴィンテージおよびヴィンテージ・レプリカ(*1)のアクセサリー&雑貨の店をちょくちょく覗いていると、冒頭のような胸ドキドキの出会いがけっこうある、というわけ。 フレーバーコーヒーかって? 否、これはコーヒー豆そのものの風味なのだ。ひと口含むと芳ばしさが口から鼻腔に広がる。それでいて喉ごしは水のようにさらさらして、凡庸なコーヒーにありがちな嫌な後味はみじんもない。 ポートランドに来て驚いたことのひとつは、コーヒーのおいしさだった。そもそも、街中にエスプレッソ・カフェがある。日本でもおなじみのスタバ(*2)はもちろん、地元ならではの独立系カフェがたくさんあって、あっちの角からもこっちの角からもあのなんとも芳ばしいコーヒーの香りが漂ってくるのだ。 英国下院初の女性議員ナンシー・アスター夫人(*4)とウィンストン・チャーチル首相の間には、こんな大人の機智に富んだやりとりがある。 アスター夫人「ウィンストン。もしもあなたが私の夫であったなら、あなたのコーヒーに毒を盛っているところだわ」 チャーチル「マダム。もしも私があなたの夫であったなら、そのコーヒーを飲み干しましょうとも」 ……とまあ、古今東西さまざまな形で愛されてきたコーヒー。けれどアメリカでおいしいコーヒーが飲めるようになったのは、つい最近のことなのだ。たとえばローマやパリでは、ごく普通のカフェやバールでもトロリと濃くてまろやかなエスプレッソが飲める。でもアメリカの食堂で出てくるコーヒーは、電動コーヒーメーカーで一日中ふつふつと煮込んだ“茶色くて焦げ臭い水”に過ぎなかった。そんなアメリカ人のコーヒー観に一大変化が訪れたのは、80年代のことだ。 ある取材で前述のスタンプタウンともうひとつのお気に入り「ワールドカップ・コーヒー」のオーナーに話を聞く機会があったので、「ポートランドやシアトルなど“環太平洋北西部(*5)”でコーヒーがおいしいのはなぜ?」と尋ねてみたら、ふたりとも「最初の変化はスターバックスだった」と言っていた。今では巨大チェーン化してしまい、スローライフ的感覚とは対極にある(*6)けれど、スタバは「一般アメリカ人においしいコーヒーとは何かを教えてくれた」のだ、と。 けれども今、ポートランドのカフェからは“ポスト・スタバの行方”とも言える傾向が見えてきたように私は思う。
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text & photos / Watanabe Yo design / Takeue Tomoko |

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