「もしかすると自分では産まない」あなたに |
白人の両親が黒人の子どもを連れている姿も珍しくない欧米に比べると、 まだまだ養子に対してネガティブなイメージを持つ人の多い日本。 でも、子どもができなかったり、不幸な境遇の子どもを救いたいという気持ちから 養子という選択を考えている人が意外と多いのも事実。 Cafeglobeでは、この「養子」や「里子」について特集していきます。 今回は、養子縁組をあっせんしている現場の医師に聞きました。 文/川上澄江 |
「その赤ちゃん、紹介してもらえませんか?」 東京都内の警察病院に勤務していた鮫島 浩二医師(48)に、沖縄県のある夫婦から電話があったのは、いまから8年ほど前のことだ。風の噂に、鮫島医師の手がけた患者が出産することを聞きつけた、という。実母の事情で、生まれた子どもは施設に入れることになっていた。一方、沖縄県の夫婦はすでに2人の子どもと養子縁組していて、具体的な手続きはほとんど把握していた。 鮫島医師はそれまで、養子縁組に関わったことはなかった。しかし、この夫婦に教わりながらやってみると「1人でもできるんだ」と自信がついた。 以来、口コミでネットワークが広がった。いつの間にか、全国各地の産婦人科や養子縁組希望者から、現在は埼玉県熊谷市で働く鮫島医師に、連絡が入るようになった。 医師が手がけて成立した養子縁組はこれまでで10件。大きなあっ旋団体と比較すれば件数自体は少ないが、1人の医師がボランティアで動いていることを考えれば大きな数字だ。現在もさらに数件の話をすすめている、という。 |
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「実の親はどんな人ですか?」 という問いには一切答えない 鮫島医師のポリシーは、なんといっても子ども優先の縁組みだ。だから、母親が薬物を使っていた場合と明らかに遺伝的な問題が予測できる場合をのぞいて、「実の親はどんな人ですか?」という質問には、一切答えない。子どもの性別に関する希望も受けない。養子縁組後、子どもがある程度の年齢になるまでに、養子であるという事実を告知してもらうよう、指導する。 「人の子どもをもらってまで育てようというからには、それだけの覚悟が必要。こんな子どもがいい、あんな子どもがいい、とより好みしているようでは、まだまだだめ」と手厳しい。 正直なところ、この夫婦で大丈夫だろうか、と不安に思ったことも何度かはある。しかし、養子縁組に関わっていること自体を疑問に思ったことは一度もない、と鮫島医師は断言する。 クリスチャンの教えから、すべての子どもは親に愛されるべき、との信念がある。さらに、学生時代の養護施設でのボランティア、3人の子どもの父としての経験を通して、縁組みをするなら早い時機、できれば生まれた直後がいい、と確信した。 |
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「抱きたいだけ抱いてあげて欲しい。 それで離れられないなら、それも選択だ」 鮫島医師が気を遣うのは、子どもだけではない。手放す側の実母の気持ちは、「本当にこれでいいですか?」と、とことん追究する。不倫、離別、経済的な問題、親の国籍――。子どもを手放す側にはそれ相当の問題を抱えているだけあって、気持ちが揺れるのはむしろ当然のことだ。 生まれたばかりの赤ん坊を受け取りに行って、その場で実母と数時間語り合うこともある。手放す側の母親には赤ん坊の顔は見せない、抱かせない、というあっ旋団体は多いが、鮫島医師は「抱きたいだけ抱いてあげて欲しい。その結果どうしても離れられないのなら、それはそれでよい選択だ」と言う。 時には父親が介入してくることもある。未婚の日本人女性が中国に行き、中国人の男性の子どもを身ごもった。男性は妻子ある身だったが、「産んでくれ」と言った。しかし、妻や子と別れる様子が一向にないのを懸念して、女性の両親は無理矢理娘を日本に引き戻した。 ぎりぎりまで迷った結果、養子に出すことにした。が、土壇場になって男性が親権を放棄しないと言ってきた。実の父親が特定できる場合は、父親が親権を放棄しない限り、養子縁組は成立しない。このため、女性の親が中国に渡り説得にあたった、という。 「実親にも縁組希望者にも様々なドラマがあるが、いかに子どもがよい人生をスタートできるか、一緒に考えていきたい」と医師は言う。 |
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不妊治療をしながら迷っているうちに 養子を迎える時期を逃すカップルが多い 鮫島医師のところには多くの女性が不妊治療に通っている。その多くが40歳を超えている。が、どうしてもできなかったら養子をもらおうと思いながらも、なかなかふっきれずに治療に通っているうちに、時期を逃してしまうケースがかなり多い、と指摘する。 実際、家庭裁判所に申し立てを出すと、「この夫婦は46歳ですね」と暗にプレッシャーをかけられることもある、という。社会全体が高齢化している中で、「暗に年齢制限を設けるような体制は適切でない」と鮫島医師は訴える。 また、養子縁組希望者に対する宗教的な差別がある、という。実際、クリスチャンだというだけで、他のあっ旋団体にはねられたケースを、多数見てきた。医師は「行政側はもっと子ども優先に考える体制を整えていってほしい」と話している。 |
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by Sumie Kawakami illustration / Suge Mika |
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NUMBER 第7回 今でもそのことを思うと涙が あふれてくるけれど、今ここに 自分が存在することに感謝している 第6回 今でも覚えている、近所のおばさんの 「お兄ちゃんは元気?」の意味 第5回 不妊治療、夫との摩擦を乗り越えて 最愛の息子と出会った高橋さんの場合 第4回 養子を迎えるまでの 具体的な手続きや制限とは? 第3回 送る側の論理。 埼玉県の産婦人科医の話 第2回 もう施設に返そうか―― 迷った末に見つけた愛 第1回 「不妊治療を乗りこえ、2歳の女の子を 迎えた由美さん(仮名)夫婦の場合」 |
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