
周囲132km、面積500平方kmの屋久島。世界遺産に登録されている地域は、総面積の約20%にのぼります。主に、西海岸の海辺から宮之浦岳、永田岳、黒味岳をはじめとする山々がそのエリア。
亜熱帯性気候の海岸には、ガジュマルやアコウのような南国特有の植物の根が奇妙な格好で絡み合っています。標高100mくらいになるとシイやカシなどの広葉樹林が広がり、標高500mを超えるとスギやツガなどの針葉樹林が現われ始めます。標高1600mにもなるとヤマシャクナゲなどの高山植物が見られます。また、九州地区でも屈指の高さを誇る屋久島の山々の山頂部分には、北海道の釧路湿原のような高層湿原もあるのです。このように変化に富んだ地形から、日本列島の自然がこの島に凝縮されている、と言われています。
私が屋久島を訪ねたのは3月上旬のこと。宮之浦港辺りは大雨、白谷雲水郷ではヒョウまで降っていたというのに、島の南にある平内海中温泉や湯泊(ゆどまり)温泉では青空も見え、青々とした南国の植物が生えていました。さまざまな植物や天候の変化……、実にバリエーションに富んだ表情を見せてくれ、決して旅人を飽きさせないのが“屋久島”なのです。

私が屋久島に魅せられたきっかけは、白谷雲水峡の美しさでした。もともとは、写真家・三好和義さんによる屋久島の写真集で白谷雲水峡の魅力を知ったのですが、その後、『もののけ姫』に登場する森がこの白谷雲水峡だったこともあり、憧れて憧れて、ようやく訪れることができたのです。
屋久島と聞いて、屋久杉を想像する人も多いのでは。しかし、屋久島にあるスギがすべて「屋久杉」なのではなく、樹齢が1000年よりも若いスギは「小杉(コスギ)」と呼ばれます。天然で、かつ樹齢1000年以上のものを初めて「屋久杉」と呼び、それ以上の特に樹齢の高い長老級のものは「紀元杉(キゲンスギ)」、「縄文杉(ジョウモンスギ)」と呼ばれます。
確かに、屋久島の魅力は屋久杉にもありますが、白谷雲水峡に流れる白谷川の清流や苔、照葉樹林は私の憧れた屋久島の森の想像通り。いいえ、想像以上の森なのです。
案内してくれたタクシーのドライバーが、「屋久島は、1年間のうち400日が雨だから」と笑っていました。たっぷりと雨が降り、川を潤し森の木々を潤す、そして島全体を潤す。それが屋久島なのです。車で走ると滝の多さに気がつくはず。そんな屋久島で、いちばん水が美しく見えるのがここ白谷雲水峡でしょう。清流が流れ、そして雨が降る。そしてできる「苔」や「照葉樹林」が、こんなにも青々としている様子はここ以外では見ることができません。
さて、実践編。どんなに簡単なコースでもこの準備だけはお忘れなく!
長袖、長ズボン、スニーカー、リュック、軍手、帽子、雨具、そして飲み水。基本的に、毎日のように雨に降られることを想定しておいたほうがいいでしょう。雨のおかげで、苔などが美しく見えるのが屋久島なのです。
●ひりゅうコース(30分・1.7km)
渓流脇を歩いてゆるやかな坂道を登ります。水辺を歩き、ひりゅう橋を渡ります。ぐるりと散策、といった軽いコースではありますが、最初からずっと水際の美しさに目を奪われます。
時折、水しぶきが飛び、歩いてほてった頬を冷やしてくれます。そして立ち止まり川を見渡すと、轟々と流れる川の姿がなんとも涼しげ。こんな清々しい気持ちにさせてくれる場所には、天然のマイナスイオンがたっぷりあるんでしょうね。
●弥生杉コース(60分・2km)
ひりゅうコースのひりゅう橋を渡らずに、そのまま雲水歩道を歩きます。ひりゅう橋を過ぎたあたりから、森に来たという雰囲気がぐっと増します。あまり山歩きに慣れてない人におすすめのコース。白谷雲水峡の魅力を垣間見るにはぴったりです。
●原生林コース(2時間半・4.8km)
いちばんのおすすめはこの原生林コース。奥に入るにつれ、空気が深いグリーンに見えてきます。頭上を屋久杉などの照葉樹が覆っているからでしょう。さらに、そんなグリーンのカーテンのすきまから陽が差し込むと、まるで森全体が神秘的な雰囲気に包まれたような気になります。
原生林コースに入ると、枯れたスギの上から新しいスギが芽吹いている姿をいたるところで見かけます。これは二代杉と呼ばれ、初めて目にしたときは、脈々と受け継がれ続けるその生命の尊さにしばらく立ち尽くしてしまいました。スギの命が太古から息づいているという事実を体感させられます。
屋久島でのエコの旅は、もちろん白谷雲水峡だけではありません。ヤクスギランドでの散策や九州地区最高峰の宮之浦岳の登山など、魅力的な場所が数多くあります。ただ、もしも屋久島にエコの旅に出るのなら、自分で散策するのではなく、必ずプロのエコガイドにお願いすることをおすすめします。
ガイドによる丁寧な説明を聞くことで、自分が五感で感じていることを知識で裏づけることができ、いっそう屋久島の自然のすばらしさに納得できるのです。

現地でも情報収集しようと、屋久島環境文化村センターを訪ねてみたところ、「マナーガイド」や「カントリーコード」について書かれた冊子を見かけました。
マナーガイドとは、屋久島の自然を訪れる人への心構えやルールがまとめられたもの。ここには、登山上の注意や宿泊、縄文杉の保全のことなどがわかりやすく書かれています。事実、縄文杉は、多くの登山者や観光客に周囲を踏まれ、土壌が流れてしまっています。その結果、根が露出し、樹そのものが傷んできているのです。このため現在は、周囲への立ち入り禁止や展望デッキの設置など、縄文杉を守るための対策がとられています。
カントリーコードとは、屋久島で生きる人、また屋久島へ旅をしに来た人が守るルールのこと。ごみは捨てずに持ち帰る、野生動物にえさをやらない、動植物を採らない。当然のことばかりですが、住んでいる人たちだけでなく、訪れる人も必ず心に留めておきたい、大切な心がけです。
最後に、山を歩く場合の注意をひとつ。水場周辺で用を足すことは、付近の水を汚すもと。くれぐれも慎みましょう。山中でのたき火は山火事にもつながるので、絶対にやめましょう。また、山や森での宿泊は避難小屋で。屋久島には6ヶ所の避難小屋があります。すべては山や森のルールに従いましょう。あくまでも自然の中に“お邪魔する”という気持ちを忘れずに。
エコツアーは、身体も心も根底からリフレッシュできる旅のスタイル。自然の中では、人間の存在など本当に小さな存在であることをあらためて感じずにはいられません。ニュースで取りざたされる環境破壊は、すべて私たち人間の日々の生活レベルから始まったこと。エコツアーは、森の中にいようが都会にいようが、自然の中で生活しているという事実を思い出させてくれるのです。
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Text / Yamazaki Mayumi
Photos / Yamazaki Mayumi |
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| 「1年をとおして毎日雨が降っているような気になるよ」と定食屋のおかみさん。けれど、その降水量こそが森を潤おしています。 |
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| 白谷雲水郷の植物はたくましい。岩の割れ目からもスギの芽が出ていました。 |
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| 二代大杉。切り株(一代目)に落ちた種子が芽を出し、成長したスギ(二代目)。真ん中の空洞は、切り株が腐ったことにより、できたもの。 |
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| 千尋(せんぴろ)の滝と一枚岩。宮之浦港から車で50分。大岩の美しさでも知られる屋久島ですが、一枚の巨大な岩の横を滝が流れる景観は圧巻です。 |
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| 屋久島でなければこんなに野性味あふれる露天風呂はありません! 湯泊温泉の野天風呂。近くには、できたばかりの脱衣所もありますからご安心を。 |
屋久島までのアクセス
空の交通/鹿児島空港から屋久島空港まで日本エアコミューターで約40分(1日5往復)。
海の交通/鹿児島港からジェットフォイルで約2時間。フェリーで約4時間。
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エコツアーのアレンジについて
エコツアーには、旅行会社が企画する大都市発のツアーと、現地でガイドをアレンジする方法とがあります。正確な知識を身につけるためにも、また安全確保のためにも必ずガイドと一緒に回りましょう。現地のエコツアーに参加したい、ガイドをお願いしたい、という場合は、屋久島観光協会に問い合わせを。サイトにも情報が掲載されています。
●屋久島観光協会のサイト
Tel:0997-49-4010 |

屋久島のことはここで勉強しよう!
●屋久島環境文化村センター
住所:鹿児島県熊毛郡上屋久町宮之浦823-1
Tel:09974-2-2900
●屋久杉自然館
住所:鹿児島県熊毛郡屋久町安房2739-343
Tel:0997-46-3113
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山崎まゆみ
国内外問わず幅広く活躍するトラベルライター。アウトドア雑誌『BE-PAL』で混浴露天風呂めぐりの連載をやっていたため、大の自然愛好家に。 |
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