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更新日:2007年6月13日

Frill me, Thrill me!私たちが心躍るもの

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伊坂幸太郎さん
VOL. 24
作家 伊坂幸太郎さん
人気作家・伊坂幸太郎さんの傑作が映画化! 原作者として、作家としていま思うこと
伊坂幸太郎
千葉県出身。1971年生まれ。『オーデュボンの祈り』でデビュー。2003年『重力ピエロ』が70年代生まれとしては初の直木賞候補となる。『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を受賞。著書に『重力ピエロ』『グラスホッパー』『死神の精度』『魔王』『砂漠』などがある。



手作り感を残した仕上がりは
自分の作品世界と通じる気がする

  リズミカルに展開し、ときに読み手を裏切るストーリーのおもしろさ。一風変っているけれど魅力的なキャラクターたちと、彼らが交わすウィットに富んだ会話。爽快だがどこかザラリとした感触の残る読後感。多くの人を惹き付ける、作家・伊坂幸太郎さんの世界。そんな伊坂さんの著作『アヒルと鴨のコインロッカー』が映画化された。

 「この作品の原形は、デビューする以前にあったもの。作品自体も初期の頃の骨格をすごく残しています。この頃に書いたようなラストって、いまは書けなくなっているだけに、貴重な作品ではありますね。僕はもともと、日常的なものがだんだんサスペンスに溶け込み、不思議なできごとに巻き込まれていくような話が好きなんですが、そういう意味では、この小説は上手くいった気がします」

 ミステリーのスタイルをとりながらも、根底には静かで朴訥とした空気が漂うこの映画。原作者である伊坂さん自身も、「手作り感というか、素朴な雰囲気が感じられるところがいい」と絶賛。

 「凝ったことをせずに、じつにシンプルに描いて下さっていて、雰囲気のいい映画に仕上がっているのがすごくよかったですね。本当に僕の好きなタイプ、ストライクな感じです。僕の本ってよく、おしゃれだとかスタイリッシュと言われてしまうのですが、僕自身、おしゃれでもスタイリッシュでもないし、そういうつもりもないので、そう見られるのがちょっと不思議なんですよ。この映画でいいな思うのは、手作り感というか、素朴な雰囲気があるところ。自分が持っている世界と、通じ合う部分があるような気がしているんです」


喜怒哀楽だけでは言い表わせない
ラストシーンにしたかった


 伊坂作品には、どこかに音楽的要素を内包しているものが多い。この作品もそのひとつ。物語の重要なキーワードとして登場するのが、ボブ・ディランの名曲『風に吹かれて』。

 「小説はどこか理屈で人を説得するようなところがあるけれど、音楽には理屈はいらない。言葉がなくても人を納得させるだけの力があるんです。要は、音楽がうらやましいから、小説にもそれを持ち込みたくなるんです。ボブ・ディランを登場させたのは、ファンだったというよりも、あの声にすごく興味があったから。怒っているような気もするし、慰めてくれるような気もして。若い時の容貌がまたすごくかっこよくて、そういうところを作品に反映させたかったんです。この物語では、神様の代わりとして登場しますけれど、ぶっきらぼうな声や素っ気無い感じが神様っぽい感じだし、ちょっと見た目もイエス・キリストみたいじゃないですか?」

 淡々としたペースで物語が進行していくうち、思いもよらない真実が姿を現す。ボブ・ディランが流れ、切なくも心地よいラストシーンは爽快ですらある。

 「いまは照れ臭くてああいうラストシーンは書けないと思います。でも、悲しいのに爽快感がある、喜怒哀楽には分類できない複雑な気持ちを抱かせるものが好きなんですよ。映画でも小説でも。悲しいとかおもしろかったとか、それだけではない、なんだかわからない混乱したような気持ちになることってありますよね。そんな作品にしたいと、つねづね考えています。盛り上げて盛り上げてクライマックスが訪れる!というタイプの展開に対しては、照れみたいなものがあるんです。心地よい肩透かしで終わりたい、というか。それはいつもどこかで意識しているような気がします」

「おもしろかった」の後にある“何か”
小説がその触媒になってくれたら


 パズルのように組み立てられた物語や意外な展開は、いわゆるミステリー小説の体裁。ただ、トリックのおもしろさや謎解きだけを主眼に読ませるのとは違う、もっと人間臭いなにか、が伊坂作品の魅力。

 「エンターテインメントを書きたいとは思っています。でも、面白ければそれでいいではなくて、読んでくれた人に何かを残したい。感動とか涙とか、そういうのじゃなくてもよくて“明日も仕事頑張ろう!”とか、ささいなことでいいから、何かの“触媒”であってほしい。以前、会社に勤めていたときに、いい映画を観ると、“仕方ないから明日も会社に行こうか”って気にさせてくれた。フィクションの持つ力って、そういうものだと思うんです」

 そんな思いから生まれているのが、リアルとフィクションの境目にある世界。あと数年で終末を迎える世界の中での過ごす日常であったり(『終末のフール』)、人間の生活のなかに混じって行動する死神であったり(『死神の精度』)。伊坂さんは、「現実に上手に嘘を交えた話ほどおもしろい」と言う。

 「現実からかけ離れ過ぎてしまうと白けてしまう。とはいえ、正論ぽいこととか、真面目なことをストレートに言われても、聞く耳を持てなかったりする。ちゃんと受け取ってもらうには、現実をちょっとくだらない嘘で包んで出すのがいちばん。その微妙な隙間を上手く進んで行きたいなとは思っているんです。

 ちなみに、現在構想中の作品は、ハリウッド映画並のエンターテインメント作品(!!)とのこと。とはいえ、一筋縄ではいかない物語になることは間違いない。あっと言わされることを楽しみに、出版を心待ちにしていたい。


text / Mochizuki Lisa
photos / cafeglobe.com


アヒルと鴨のコインロッカー
あらすじ:物語は、晴れて大学生となった椎名(濱田岳)が、アパートの隣人である河崎(瑛太)から、本屋を襲う計画を持ちかけられるところから始まる。河崎は、椎名の隣人であるブータン人留学生・ドルジ(田中圭生)のために『広辞苑』を贈りたいという。嫌がる椎名だったが、河崎に強引に押し切られ、襲撃の片棒を担ぐことになってしまう。そんな河崎の突飛とも思える行動の裏には、過去の悲しい物語があって……。

アヒルと鴨のコインロッカー
『アヒルと鴨のコインロッカー』
監督:中村義洋
原作:伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』
出演:濱田岳、瑛太、関めぐみ、田村圭生、関暁夫(ハローバイバイ)、キムラ緑子、なぎら健壱、松田龍平、大塚寧々

(C)2006『アヒルと鴨のコインロッカー』

仙台・宮城にて先行上映中。
6月23日(土)恵比寿ガーデンシネマにてロードショー、全国順次拡大。

『アヒルと鴨のコインロッカー』のサイト

※6月23日(土)には出演者による舞台挨拶も。詳しくは映画館のサイトで確認を。
恵比寿ガーデンシネマのサイト








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