
藤田宜永の原作小説を大胆に再編
笑いと切なさと「ダメ」な感じを |
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深夜枠ながらも高視聴率をマークしたドラマ『時効警察』。時効になった事件を“趣味で”捜査する警察官・霧山修一郎という、これまでの刑事ドラマではありえない、力の抜けた設定と、セリフやセットにさりげなく仕掛けられた、笑える“小ネタ”の数々が、人気の理由。この脚本・監督を担当したのが三木聡さんだ。
彼の最新作が映画『転々』。借金を抱える大学8年生の文哉が、返済期限の前日に、借金取りの福原から「一緒に霞ヶ関まで歩けば借金を帳消しにして、現金100万円をやる」と提案され、男2人で都内を散歩するというストーリー。原作は直木賞作家の藤田宜永さんの同名小説だ。
「プロデューサーに勧められて原作を読んだのが、この映画を撮った直接のきっかけ。僕自身子どもの頃、親父によく散歩に連れて行かれた思い出があるし、今も待ち合わせ場所に早めに着くと、近くを回ってみる“小散歩”のようなことが好きなので、散歩というテーマは面白いなと思ったんです。ただし、僕が撮ると作品に小ネタが入って様相が変わってくる。それで、原作者の藤田さんにお話しに行ったら『嫁に出すつもりで任せる』と言ってもらえた。メディアの違いによる表現の差を受け入れて下さる方だったので、スタートできたんです」
なるほど、原作を読むと、大筋は同じだが使われているエピソードはかなり違っている。原作をなぞるだけではなく、大胆に手を加えて三木ワールドを展開。それが、小説とはまた違った魅力をかもしている。
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ロックっぽさとコントのセンス
オダギリジョーさんと三浦友和さん |
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主人公の文哉を演じるのは、オダギリジョーさん。文哉に散歩の話を持ちかける借金取り・福原役は三浦友和さん。オダギリさんと言えば三木監督とは『時効警察』コンビのイメージが定着しているが、三浦さんの配役はちょっと意外な気も。
「オダギリさんには、なんというか同じ場所にとどまっていないような雰囲気がある。三浦さんにもそういうものがあるということと、2人とも『ダメな演技』をしなければいけないので、そのセンスを持ってるかどうかということも重要でした。この映画はどこかロックっぽいんです。社会にはまらない、どんな組織にもはまらないアナーキーさっていうのか。それを嫌味にならずに表現できる方で、と考えて、オダギリさんと三浦さんかなと。三浦さんって、実はRCサクセション以前の忌野清志郎さんのバンドのバックをやっていらした。そういうロックな部分がある方なんですよね」
そんな経緯で決まった2人のやりとりがこの作品の最大の見どころ。今まで観たことのない「ダメな」三浦さんの演技に驚くはず。キャストはほかに小泉今日子さん、岸部一徳さん。また、『時効警察』でもおなじみ、三木作品常連の、ふせえりさん、岩松了さん、松重豊さんが脇を固める。
「ひとことで言えば、みなさんコントのセンスがある方ですね。たとえば、岸部さんにはご本人の『岸部一徳』役で出ていただいているんですが、こちらが用意した衣装を見て『もっと不用意な感じにしたほうがいいんじゃないか』と逆に提案されて。ご自分の佇まいのえも言われぬおかしさを観客に伝える俳優としての技術と、コントに対する心構えがすごい。モニターを見て思わず笑っちゃいましたからね。この作品はこのキャストじゃなかったら、実現しなかったと思います」
「岸部一徳を見ると幸せになれる」だとか、聞くだけでも笑えるエピソードが、スクリーンでは岸部さんの演技によって、さらにおかしさを増している。 |
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日常の中に潜む笑える“小ネタ”
そのルーツはなんと幼稚園時代 |
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三木作品の楽しみ方のひとつが、作品中に散りばめられた、ぷっと笑える(ときに切ない)小ネタを探すこと。『転々』にも笑えるエピソードがたくさんある。この膨大なネタは、どうやってストックしているものなのか。
「特に探しているつもりはないんです。たとえば建築家はビルの設計が、自動販売機を売っている人は店頭での置き方とかが気になるんだと思う。それと同じで、僕の場合は、日常のなかに潜む“笑えるエピソード”が、他の人より気になるんでしょうね」
小ネタリサーチについて、いちばん最初の記憶として教えてくれたのが、幼稚園の頃のエピソード。
「僕の前に立っている女の子が木琴を弾いているんですけど、途中で棒の先の玉が取れるんですよ。で、女の子は玉のついていない棒でそのまま叩いている……。音が出てないんだから、虚しいじゃないですか。それが、なんかおかしいんですよ(笑)。小ネタ的な出来事でいちばん古い記憶ってそれじゃないかと」 |
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ロードムービー的な要素も魅力
「今だけの雑多な東京を切り取った」 |
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その、切なくダメな感じこそが三木作品の魅力。さらに『転々』には、東京の街を歩くというロードムービー的な要素が加わっている。井の頭公園をスタートして、阿佐ヶ谷、新宿、浅草を通って霞ヶ関まで、休憩したり思い出の場所に立ち寄ったりしながら、2人は東京の街を歩き続ける。画面に映るのは、青山や銀座、お台場といった華やかな街とは違い、しみじみとした味わいや、雑多で猥雑な感じのある東京の風景ばかり。
「いつかドラマや映画で使いたいと思っていた坂道、といった場所のストックを使いながら撮ったので、自分の中の『東京感』が出てると思います。今って、街を区画整理してイメージを統一しようとするじゃないですか。でも、東京ってもともと雑多なんだから、雑多なまま残っていてもいいと思うんです」
「映画の中で月光仮面がで出てくる屋上のシーンがあるんですが、そこから見える超高層ビルと高速道路を挟んだ風景は、もうマンションが建ってしまって見られない。そんな、今しか映せない東京を切り取れればいいなあと思いながら撮りました」
全体を通して、作りこまれた笑いと、どこかノスタルジックな気分にさせる東京の風景と、2人が散歩の途中で出会う人たちとの交流がバランスよく描かれている。「景色を観ても楽しいし、グダグダしゃべってるのを観るのも楽しい。こう観なきゃという映画ではないんですよね」とのこと。散歩のようにゆっくりしたペースで楽しみたい作品だ。 |
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text / Miyamoto Hiromi photos / cafeglobe.com
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あらすじ
84万円の借金を抱えた大学8年生・文哉のアパートに、突然やってきた取立て屋の男・福原。返済の期限は残り3日だと宣告される。ところが返済期限の前日、ある条件をのめば借金を帳消しにして、さらに現金百万円をくれると福原に提案される。その条件というのは、福原と2人で霞ヶ関まで歩くこと。 ほかに選択肢のない文哉は、福原の話に乗ることに。そうして男2人の東京散歩の旅が始まった……。 |
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『転々』
監督・脚本:三木聡
原作:『転々』(新潮社刊)/藤田宜永
出演:オダギリジョー、三浦友和、小泉今日子、吉高由里子、岩松了、ふせえり、松重豊、笹野高史
11月10日(土)より アミューズCQN、テアトル新宿にて“和道(なごみち)”ロードショー
『転々』公式サイト
tokyosanpo.jp
(C)2007『転々』フィルムパートナーズ |
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