
“いのち”が軽んじられている現状に
居ても立ってもいられなかった |
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薬害エイズ訴訟(東京HIV訴訟)での勇気ある実名公表から12年。常に熱い注目を集めてきた川田龍平さんは、今年7月、参議院議員選挙に初出馬。68万票余りを勝ち取り、見事当選を果たした。東京選挙区で政党の支持もなく無所属で当選というのは、実に42年ぶりの快挙。『人権アクティビストの会』(※)代表としての活動や大学講師という道から、政治の世界に進んだ理由は何だったのだろう。
「薬害エイズ訴訟では和解を勝ち取りましたが、その後もC型肝炎、タミフルなど、薬害問題は一向に無くならない。さらには医療費を削減しようという動きまでもが強くなってきていて、難病治療の医療費がどんどん削減されているという現状もある。医療制度や仕組みが改善されるどころか、ひどくなっていく現状に居ても立ってもいられなくなったんです。また、医療だけでなく福祉や年金など、当たり前に享受できるべきな公的制度がどんどん切り捨てられているんですね。つまり、人の“いのち”(※)が守られなくなってきているということ。僕は大学でも生命倫理、いのちの大切さを教えてきました。もちろん教育というアプローチも重要ですが、国政の中で、その大切さを伝えていかなければと強く思ったのが立候補したきっかけです」
当選は大きく報じられ、これまで以上に注目されるようになった今、医療問題にとどまらず、環境問題、格差社会の是正と多方面にわたり積極的に活動している。プレッシャーも多く、忙しい日々なのではと聞くと、ふと31歳らしい素顔をのぞかせてくれた。
「正直なところ、ここまで取り上げられるとは思わなかったです(笑)。実は、議員としての時間よりも、取材されている時間のほうが多いくらいなんです。とはいえ、注目されるということは、問題に目を向けてもらう機会を広げることでもあるので大切にしなくてはと思っています。同じ議員の方々にも、まだ若いということで大目に見て頂けることもあるんですよ(笑)。プレッシャーというより、期待されてるんだなと思うようにしています」 |
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動けば社会は変わるんだ、という実感
ひとりひとりの力は大きい |
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選挙中の川田さんのスローガンは「動けば変わる」。さらにマニフェストとして「生きるって楽しい、と思える日本へ」を掲げた。シンプルな言葉だが、これには川田さんが経験し、実感したことがギュッと詰まっている。
「ひとりひとりの力なんて小さい。自分の力で社会なんて到底変えられない、と多くの人は思いがちです。僕もそうでした。10歳でHIV感染を告知されたとき、“どうせ長く生きられないんだから何をやったってムダだ”と思っていた。だけど裁判に参加し、少しずつ何かが変わっていったんです。実名を公表したことで問題に関心を寄せてくれた人たちが3500人も集まって、人間の鎖(くさり)となって厚生労働省(当時の厚生省)を取り囲んだ(※)。それが大きな話題となり、世論を動かし、結果的に裁判を和解まで導くことができたんです。あの体験は大きかったですね」
問題に関心を寄せ、集まってくれた仲間たちと固く手をつないで勝ち取った“和解”。ひとりひとりが考えて行動することで、社会を変えることができるという手応えを、確かに感じたという。すでにあるものに従うのではなく、自分たちの手で制度やルールを作っていく、という意識。それは1998年から2年間留学していたドイツでも実感したことだった。
「成績だけを重視しがちで、学生たちの目的意識もあいまいという日本の教育と違い、ドイツの学校では、自分が何を学ぶのかということを自分で選択します。大学でも“自治”、つまり学生たち自身が大学をつくっていこうという姿勢がある。民主主義の基本である、自分たちが何かを選び取っていく、という意識が高いんですね。生き方は自分で選ぶもの、社会は自分たちでつくるもの。そういう当たり前の意識がひとりひとりに根付いているのが本当の意味での豊かさであり、“生きるって楽しい”と思える社会なんだと思います」
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立ち止まり、想像すること
諦めなければ、できることがある |
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では、「生きるって楽しい、と思える社会」を実現するうえで、政治家でもない私たちができることって何だろうか。川田さんはこんな答えをくれた。
「想像力をもつこと、かな。例えば環境問題でいうと、自分が使ったものや捨てたもの。それらが今後どんなふうに環境に影響を及ぼしていくかということを想像してみて下さい。自分の周りだけじゃなく、日本はどうなるのか、世界はどうなるか。そして、自分の子どもたちの世代にはどうなっているのか。自分だけの幸せでなく、みんなが幸せを共有できるようにするにはどうしたらいいだろう、と。忙しく余裕がない生活を送っていると、立ち止まって考えることを忘れてしまうと思うんですが、そういうことを少しでもいいので意識してもらえたら」
さらに、消費者として、自分がどう貢献できるかも考えてみて欲しいと川田さんは言う。「商品を買うときにきちんと自分の意志で選択する、ということが大事。もちろん“買わない”ということも選択のひとつです。商品を選ぶことを通して企業を選んでいく。ひとりひとりがそう意識すれば企業の姿勢も変わってくるはず。そうすることで社会も世界も変わるんです。何もしないで諦めてしまうのではなく、諦めなければできることがある。そう信じてもらいたい」
複雑な社会問題も、遠い世界だと思っていた政治のことも、川田さんの等身大の言葉だとスッと耳に入ってくる。そして、自分にもできることがあるんだ、と力が湧いてくる。それはきっと川田さん自身が、数々の困難を乗り越え、『生きるって楽しい』と、心から感じてきた人だからに違いない。
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text / Shibata Mari
photos / cafeglobe
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『川田龍平 いのちを語る』
薬害エイズ裁判から12年を経て、平和と環境問題へ視野を広げる川田龍平さんの新書。表紙の写真はcafeglobeの連載コンテンツ『環境とか未来とか……大切にしたいね通信』でもご紹介した志葉玲さんによるもの。 |
※『人権アクティビストの会』とは。内部告発者の処遇の問題とその保護を訴える活動や、教育基本法改正・有事法制への反対活動、反戦・平和運動などを行っている市民団体。
※「いのち」という言葉について。川田龍平さんは、環境問題などにも取り組むようになって、人間の権利という意味の「人権」ではなく、自然や動物なども含めた広い意味での「いのち」という言葉を使っている。
※「人間の鎖」とは。1995年、薬害エイズ訴訟(東京HIV訴訟)において川田龍平さんを含む原告側を支援する3500人もの人々が集まり、厚生労働省(当時の厚生省)を囲んだ。このことがきっかけとなり、全国で支援集会が開かれるなど世論が動き、最終的には画期的和解を勝ち取った。薬害裁判において国が謝罪したのは初めてのこと。 |
川田龍平さんが代表を務める『人権アクティビストの会』のシンポジウムが開催されます。cafeglobeの公式ブログ『吉村峰子のアフリカに遊びにおいで!』でもおなじみの吉村峰子さんも講演を行います。
【エイズ問題学習会〜エイズの「いま」を考える】
■日時: 12月15日(土)夜18:00〜21:00
■会場: 豊島区立生活産業プラザ(池袋駅東口より徒歩7分)
■出演者:
吉村峰子(南アフリカ在住)「南アフリカのエイズをめぐる現状」
保田行雄(弁護士)「日本のエイズをめぐる現状」
金子由美子(公立中学校養護教諭)「性教育の今」
川田龍平(参議院議員)「国会から」
※司会:岩辺泰吏
■参加費: 500円 ※会場整理費
■主催: 人権アクティビストの会(代表・川田龍平、事務局長・岩辺泰吏)
■参加申し込み: 直接会場へお越しください。 |
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