
聴いている人に世界を託すことができる
ラジオドラマの持つ“余地”が素敵
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もしもあの時、いまとは違う選択をしたらどうなっていたか? 人生に立ち止まったとき、誰しもが考える疑問。それが仮想世界のなかで実現するとしたら……。瀬名秀明さんが書いた小説『エヴリブレス』は、パソコンの中の仮想世界で、現実とは別の人生を歩む主人公・杏子の物語。
「物理の世界では、並行するいくつかの世界、つまりパラレルワールドの存在を認めないと解明できない問題というものがあるらしいんです。私自身、以前から量子論のような物理学に興味を持っていたこともあって、パラレルワールドは身近に感じていた世界。ですから、この作品はとても面白く読ませていただくことができました」
そう話してくれたのは、この作品のラジオドラマで杏子役を演じた女優の中嶋朋子さん。
「ラジオドラマは、声だけで伝えなければいけないものですから、演じ過ぎるとトゥーマッチに感じてしまうし、演じ足りなければ伝わらないという難しさがあります。でも、原作者の瀬名さんご自身が、キャラクターの息遣いや語り口のテンションを大事にされて書かれているのか、不思議とそこに乗っかってみたら自然と役に入っていけた気がしています」
同一人物のようでいて微妙に違う、現実世界の杏子と仮想世界の杏子。映像のように具体的な描写ができないラジオドラマのなかで、役を演じ分ける難しさはある。それでも、中嶋さんにとってこれは刺激的で楽しい仕事だったという。
「文字で書かれた世界をすべて作り上げて説明しきってしまうよりも、聴いている人に託してイメージを膨らませてもらうのって素敵だと思うんです。空想の余地がある分だけ、誰かの手に渡って物語の世界が育っていくのかと思うとワクワクしませんか?」
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ひっそりとひとつのことに没頭する毎日
そんな職人の生き方に憧れを感じる | |
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名作ドラマ『北の国から』の蛍役など、子役時代からずっと女優として生きてきた中嶋さん。もしこの物語の杏子のように仮想世界のなかで別の人生を生きることができるとしたら、どんな選択をするのだろう。
「もしも女優になっていなかったら……ですか? 実はそのことは、これまでにも何度も考えたことがあるんです。ある意味、女優という職業はどんな人にもなれる仕事ですけれど、もし別の人生が用意されていたら、職人のようにひっそりとひとつの事に没頭する毎日を送ってみたい。やるならば……パン屋さんでしょうか(笑)。実際の私はパンを作ったりはしませんけれど、食べたら消えてしまうような、後に残らないものを極めることができるのってすごいと思うし、そんな生き方に憧れを感じたりします」
「でも、実際にパラレルワールドがこの世に存在しているのかもしれない、そう思うだけでも今の自分が変われる気がするんです。仮想で別の人生を経験できる可能性があるならば、じゃあこの現実で自分はどう生きていくのか、考え直すきっかけにもなるんじゃないかな」
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本を読む時には感じたことをノートに記す
その瞬間の感覚を思い出すことができるから
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そんな中嶋さんも、いまあるセカンドライフのようなインターネット上の仮想世界は未体験。「自分探究で精一杯で」と言う。その自分探究のなかでも、多くを占めるのが読書。時間を問わず、場所を問わず、本は昔から好きだったそう。
「いろんなジャンルの本をいっぺんに買ってきて、並行して読んでいたりします。今はやっぱり量子論に関する本が多いかな。簡単に書いてある本を探すのがなかなか大変だし、難しい内容なので一気にはとても読み切れないんですよ。少し読んだら、一旦止まって考える時間が必要なんです」
ただ読み流すだけではなく、気になる記述があれば、ページを折ったり書き込むこともしょっちゅう。最近は、ノートを別に用意し、そこに何ページのどこで何を感じたのかをメモするようにしているそう。そのノートは、いつどんな場所にでも、本と共に持っていくのだとか。
「これが日記だと、その時の感情に走り過ぎちゃう。それってもったいないな、と思ったんです。でも感想ノートのようなものなら、客観的に読み返せる。それに様々な視点や考え方は、役作りにも応用できたりするんです」
何気ない日常のなかでも、どうしたって演技のことを考えてしまう。中嶋さんは、どうしたってやっぱり女優なんだな、と改めて再認識させられる時間だった。
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text / Mochizuki Lisa
photo / Hirano Tetsuro
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