
本音で人と向き合いたいという熱い気持ち
築地の“匂い”は、それを思い出させてくれた
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『解夏』『世界の中心で、愛をさけぶ』『ミッドナイトイーグル』と常に話題作に出演。繊細なラブストーリーから大胆なサスペンスアクションまで幅広い役柄をこなし、いまや日本映画界を支える俳優のひとりとして高い評価を得ている大沢たかおさん。最新作『築地魚河岸三代目』は、これまでの作品とはひと味違った、人情と活気があふれる築地市場が舞台。昔ながらの下町・築地に、大沢さんはどんなことを感じただろうか。
「この作品はそもそも“築地に生きる人々”が物語のモチーフであり、そこを描くことがテーマでもあったので、僕も撮影前から何度も築地に足を運んで、いろんな面で影響を受けましたね。まず大事にしたいなと思ったのは、築地独特の“匂い”。現代社会って、なんだか妙に清潔で“無臭”であることを良しとする、みたいなところがあると思うんだけど、それって本当は不自然なことですよね。築地にはいつも魚の匂いが充満していて、その匂いが、本来の人間らしさを思い出させてくれるような気がしました。映画で匂いを表現することはなかなかできないけれど、せめて演じる自分だけでも、と思って、スタジオ撮影のときも必ず築地に寄って、匂いの実感を忘れないようにしてましたね」
魚河岸で働く人たちのストレートでシンプルなコミュニケーションにも、ハッとさせられたと言う。腹が立てば怒り、嬉しければ喜ぶ。正直で矛盾のない感情表現をする築地の人たちが、大沢さんには輝いて見えた。
「現代の都会に暮らす僕らって、メールやネットで相手の顔を見ないコミュニケーションも当たり前になってるし、なるべく他人とぶつかったりしないようにして生きてる。そうしていれば確かに傷つくことはないんだけど、だんだん他人に無関心になっていきますよね。築地の人たちは、ぶつかりあったり怒鳴りあったりすることで、互いに分かり合ってつながり合っているんです。困っている人を放っておけないとか、理不尽なことを理不尽と言うとか、誰もが本当は持っているのに、心の奥にしまいこんでいる人間らしさが築地では表に出ているなあと思いましたね」
現代人が忘れてしまいそうな優しさや温かさ。それはこの作品のテーマになっているとともに、主人公・旬太郎そのものでもある。
「なんのてらいもなく自分の気持ちに正直に、一本気に行動する旬太郎の生き方は、クールに生きる現代人からすると、ちょっと気恥ずかしい。実際にいたらかなり暑苦しいヤツだし、完全に“KY”でしょう(笑)。だけどなぜか彼のことを全否定できないところがあるんですよ。それは、彼の行動のベースに、本音で人と向き合いたい、つながりたいと思う熱い気持ちがあるからだと思う。彼のそういうところは、僕の中にもあるし、見てくれるお客さんの中にもきっとある部分なんです。そう思って演じてましたね」
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ベテランから個性派まで、いわば異種格闘技戦!
プロ集団の現場には緊張感がみなぎっていた
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今回の作品の見どころは、築地の空気だけでなく、旬太郎を中心としてさまざまな個性的なキャラクターが鮮やかに表現される群像劇でもあるという点。他の出演陣もベテランから個性派まで超豪華だ。ひとりひとりのキャラクターを見ているだけでも充分楽しめる。
「ほんと異種格闘技戦とでも言えそうな(笑)、いろんな人物が活き活きと描かれていて。それはこの映画の大きな魅力ですね。現場での監督の演出も見事で、ひとりひとりの性格づけを細かくやっていくんですが、それによって、人物がどんどん立体的になっていくんです。例えば、みんなのたまり場になっている喫茶店のシーンでの掛け合いも、一見、何でもないように見えるかもしれませんが、息が合うまで何度も何度もリハーサルを重ねてる。コメディとか笑いの要素もある作品なんだけど、現場は真剣そのものでした。私語も少なくて緊張感がみなぎってましたよ。監督も役者もスタッフも、プロ集団の現場だったなと、今改めて思います」
ストーリーも人物も、見どころ満載のこの作品。シリーズ化されることも決まり、すでに続編が動き始めているとか。今後、旬太郎とそれを取り巻く築地の人々がどんな展開になるのかが見逃せないところだ。
「よく考えるなあ、そんなストーリーっていうくらい(笑)、また新たな展開になってますよ。ただ、この作品で大切にしていきたい核の部分は、今後も変わらないと思う。この先、何作続くとかそういうことにはとらわれず、ただ、お客さんに喜ばれ、愛される作品にしていきたいと思います」
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俳優という仕事は、自分を豊かにしてくれる
仕事の価値は自分で見出していくしかない
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今年3月に、40歳になった大沢さん。そんな時期に、息の長くなりそうな良い作品とも出会い、「40代は、俳優として輝ける10年になりそう」と語る。大沢さんは、俳優という職業をどう捉えているのだろうか。
「俳優という仕事は、いろんな捉え方ができると思うんですよ。作品の中で違う人物になれるという面もあるし、映画に参加するために俳優をやるという見方もできる。僕は、自分の中に眠っている何かを、役柄や映画をフィルターにしてアウトプットしている感じ……かな。それによって、新しい自分に気付くし、その発見の連続がさらに自分を豊かにしてくれるような。そういう意味では俳優はすごく面白い仕事だと思ってます」
内なる自分と深いところで対話する作業ゆえに、精神的に辛くなることもある。しかし、どんな仕事にも、光の部分があれば影の部分もあるのだから、「それはしゃあないこと」と大沢さんはおおらかに笑う。
「俳優にかぎらず、この仕事は自分に合っているんだろうかって悩んでいるうちは、そこに価値は見出せないと思う。大事なのは、仕事の種類や内容ではなくて、それに向かう気持ちなんじゃないかな。夢や目標を自分で設定して、それにどう臨んでいくか。そしてその毎日に喜びを感じるかどうか。そこに仕事の価値があると思ってます。僕は俳優という仕事をやるチャンスをたまたま与えられた。だからやるしかないし、それをやることに自分で価値を見出していくしかないんです」
誰からも求められなくなっても俺は演じ続ける、なんて思わない。趣味で俳優やってるわけじゃないから。きっぱりとそう答える大沢さんの言葉からは、きれいごとのない潔さと、俳優であることへの高いプロ意識が感じられた。
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text / Shibata Mari
photos / Hirano Tetsuro
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映画『築地魚河岸三代目』のあらすじ
都内の総合商社に勤務するエリート・サラリーマン、赤木旬太郎(大沢たかお)。人事課長に抜擢され、恋人の明日香(田中麗奈)との結婚を考え、公私共に順風満帆の人生を送っていたが、ひょんなことから、明日香の実家である築地魚河岸の仲卸店「魚辰」を手伝うことになる。魚の匂いと多くの人々が行き交い、活気に満ちあふれる、日本の台所、築地市場。そんな世界で、ド素人の旬太郎は悪戦苦闘しながらも、さまざまな人々に出会い、築地で生きていきたいと決心するが……。
2008年6月7日(土)より丸の内ピカデリー2ほか全国にて公開
(C)2008「築地魚河岸三代目」製作委員会
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