
カナオのやさしさは、夫婦ならば当たり前
心から信用しているから全身で受け止められる
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作家、イラストレーター、また、ミュージシャンなどさまざまな顔をもつリリー・フランキーさん。『東京タワー オカンと僕と、時々、オトン』はベストセラーとなり、作家として世間の熱い注目が注がれたが、そのリリーさんが映画に初主演する。『ぐるりのこと。』は夫婦の絆を描くラブストーリー。監督は、6年前『ハッシュ!』でカンヌ国際映画祭ほか国内外でも絶賛を浴びた橋口亮輔氏だというから、ワクワクせずにはいられない。その期待どおり、この作品は、役者としてのリリー・フランキーの魅力が存分に発揮されている。
「橋口監督とはもともとの知り合いで、前作『ハッシュ!』のときに、劇場で一緒にトークショーをしたこともあり、たまにごはんを食べに行ったりする仲でした。今回のお話をいただいたときは、正直ちょっとためらいましたが、橋口さんが誘ってくれるということは、何か確信めいたものがあるんだろうな、と。全て橋口演出にお任せするつもりでお受けしました」
リリーさんの全裸シーン(!)まである本作。情けないけれど本人は飄々として、慈愛にみちた夫・カナオは、リリーさん自身とも思えるほど、とてもナチュラル。カナオは、一見だらしなく見えるけれど、うつになった妻・翔子から決して目を背けず、常に淡々と、そして優しく寄り添っている。そんなカナオは、女性の目から見ると、ある種、理想的な夫にも見える。
「カナオって、特別なことはしてないと思うんですよ。ごく当たり前のことをしてるだけ。だって、子どもが亡くなって奥さんがうつになっちゃったら、いくら浮気性の男でもそりゃあ家帰ろうって思いますよ。だけどそれはカナオが、翔子という人を深いところで信用しているからなんでしょう。翔子は、自分の美意識や価値観がしっかりしていて、世間や他人の言うことでふらついたりしない人。でもそういう人って、もろさや弱さも抱えてるんだよね。そういう相反するところが翔子の魅力だし、だからこそカナオは翔子を守りたい、受け止めたいと思うんじゃないかな」
翔子は魅力的な女性、というリリーさん。でも翔子って、週3回、「(セックス)する日」をカレンダーに記していて、その日は必ず実行する!という律儀な性分。それって男性からするとちょっと困惑というか……ウザくないのだろうか?
「僕は全然大丈夫。そういう真面目さ、大歓迎です(笑)」
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夫婦ふたりのリアルな感情のぶつけあい
そんなつながりの中に、希望がある | |
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同作品の最大の見どころは、夫婦ふたりの長い会話シーン。2箇所あり、ひとつは冒頭、まだふたりを悲劇が襲う前。今日セックスするかどうかを、漫才のかけあいのようにコミカルに話すシーンだ。もうひとつは、翔子のうつ状態が深刻さを増す後半部分。翔子が、溜まりに溜まっていた思いをカナオにぶつけるシーンだ。どちらとも夫婦ふたりのリアルな日常が感じ取れるが、とくに後者は、ヒリヒリとした緊張感とドキュメンタリーのような生々しさがスクリーンから伝わってきて、見ているこちら側の感情を、激しく揺さぶる。
「最初のコミカルな会話シーンは、リハーサルを1週間もやったんです。あの小気味いいリズムが体に染み込んだ頃に撮ったので、自然にできましたね。アドリブは一切ナシ。ほとんど台本通りに演じました。対して、後半のシリアスなシーンは一発撮りでした。木村さんが激しく泣くシーンだったので“2回はできない”、という緊張感がありました。木村さんはすごく役に入ってましたよ。僕はいつもと変わらない感じでやってましたが。でもあのシーンはこの映画のキモ。このシーンがうまくいけば作品全体が成功すると思っていたので、僕にとっても重要なシーンでしたね」
この映画のもうひとつの注目点は、法廷シーン。法廷画家としてのキャリアをスタートするカナオの視点で、90年代後半から2000年初頭にかけて起きた実際の事件(宮崎勤による連続幼女誘拐殺人事件、オウム地下鉄サリン事件、音羽幼女殺害事件など)の裁判が描かれていく。カナオは、バブル崩壊とともにじわじわと破綻していく日本社会の負の側面を、ただ静かに見つめている。
「激動していく社会の状況と、妻のうつ。そのどちらの“不安”もカナオにとっては、当たり前のように対峙していかなければいけない現実。カナオはその現実を、ただ、静かに生きているんです。みんな、不安や絶望を抱えていて、その出口をここではないどこかに求めている。だけど不安って、目の前にいる自分の大切な人としっかりつながっていくことでしか解消されないと思う。希望はどこか遠いところにあるのではなく、ここにあるんです。僕自身、ずっとそう思ってます」
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多くの人から好かれるよりも
本当に好きな人に好きになってもらいたい |
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人とのつながりを大切にしているというリリーさん。多方面で活躍しているだけに、いつも大勢の人に囲まれ、人付き合いが上手。そんなイメージをリリーさんに抱いていたが、実は少人数でひっそり、が好きなのだという。
「普段付き合っているのは3人くらいで、いつも同じ人とばっかり飲んでますね。パーティとか飲み会の類はまず行かない。苦手なんです。もともと、たくさんの人から好かれようなんて思ってないんですよ。どうでもいい人はどうでもよくて、本当に好きな人からたくさん好いてもらうほうが断然いい」
とは言え、リリーさんのような「だらしなさそうに見えるけど(失礼!)、実は優しい」男性は、きっとモテるはず。モテモテ、なのに、独身。そんなリリーさんにとって、理想の夫婦像とは。
「僕は、自分に対してはあんまり興味がなくて、相手にとって価値ある存在でありたいんです。自分の存在価値を相手によって確認したいというか。どちらかというと、相手を守ってあげたいタイプなので、カナオと翔子みたいな夫婦がいいですね。あんなふうに長く深く付き合ってると、物質的な豊かさや社会的地位なんてどうでもよくなるよね。帰るところがあるんだ、ってふたりとも思ってて、その絆がしっかりしてれば、小さな不安や失望で相手を責めたりする必要もない。相手が心から言っている本当の言葉と、上辺だけて言っているニセモノの言葉の区別も分かってくるし。そういうところで信頼し合って、つながり合っている関係が理想です」
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text / Shibata Mari
photos / Hirano Tetsuro
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映画『ぐるりのこと。』のあらすじ
小さな出版社で女性編集者として働く妻・翔子(木村多江)と、靴修理屋を辞め、戸惑いながらも法廷画家の仕事を始める夫・カナオ(リリー・フランキー)。週に3回の夫婦の「する日」を決めているしっかり者の翔子と、浮気っぽくどこか頼りないカナオだったが、そんなふたりに小さな命が宿る。だが、幸せを噛み締める間もなく、大きな不幸が訪れる。翔子は、精神的に追い詰められ、うつに陥ってしまう。そんな翔子をカナオは全身で受け止めようとする。翔子とカナオは困難に直面しながらも、泣いたり笑ったりしながら現実を乗り越えていく――。90年代初頭からの社会の激変のなかで実際に起きた様々な社会的事件を背景に、一組の夫婦の10年間を優しく見つめる物語。
2008年6月7日(土)、シネマライズ、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
(c)2008『ぐるりのこと。』プロデューサーズ
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『ぐるりのこと。』
原作・脚本・編集・監督:橋口亮輔
出演:リリー・フランキー、木村多江、倍賞美津子、寺島進、安藤玉恵、柄本明
●『ぐるりのこと。』Webサイト
(c)2008『ぐるりのこと。』プロデューサーズ
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