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更新日:2009年4月7日

Frill me, Thrill me!私たちが心躍るもの

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楽真琴さん
Vol. 67
映画監督・プロデューサー
楽真琴さん
この人のやさしい微笑みに出会ったとき、
私の役割はこれを映画にすることだ、
と確信した
楽真琴 (ささまこと)
1973年東京生まれ。幼少期にテレビで観たチベットの僧侶や美しい山々に憧れ、興味をもつ。慶応大卒業後、97年に渡米。建築スタジオ勤務を経て、自主映画制作を始める。その後、ダライ・ラマ14世をモチーフにした『カーラチャクラ』など短編ドキュメンタリーを発表。05年より『雪の下の炎』撮影スタート、09年4月11日封切。



孤独なNY生活のなか、出合った一冊の本
想像を絶する苦しみを生き抜いた人がいる

  平和的手法のデモを行ったことを“罪”と見なされ、中国政府によって投獄され、33年間に及ぶ拷問を受け続けながら獄中生活を生き抜いたチベット僧、パルデン・ギャツォ。楽真琴さんは70歳を超えても静かに闘い続ける彼を知り、彼に惹かれた。会いに行き、そのドキュメンタリー映画を作った。楽さんの思いの集大成となった『雪の下の炎』は、彼の半生を通して、チベット問題の本質を問うとともに、人間がもつ計りしれない強さと豊かさを私たちに考えさせる。

 「日本人である私がチベットの映画を撮ることになったきっかけは、孤独や無力感に潰されそうだったN.Y.生活のなかで出合った、パルデンの自伝『雪の下の炎』でした。彼が33年間受けてきた苦難に比べれば私の孤独なんて大したものじゃない、と思いました。後で知ったことですがこれは自分がつらいときや苦しいときに、もっとつらく苦しい立場にいる人たちのことを考えて、その人たちが救われるように祈り、そして行動をすることで、自分も苦しみからから解放されていく、というチベット仏教の教えでもあるんです」

 幼い頃からチベットに興味を持っていたこともあり、ダライ・ラマ14世の講話を聴きに行ったり、仏教の本を読んだりと、楽さんはその後チベットの深遠な世界にどんどん魅せられていく。そのうち、ずっと考えてきたことに自分なりの答えが見つかった。「自分は何のために生まれてきたのか、という問いには答えなどない。だから自分が幸せだと感じることを大切にしていけばいい」そして、自分が幸せを感じるのは「人の助けになることをしたときなんだ」と。

「パルデンに初めて会いに行って、彼の顔を見た途端、『生きていてくれてありがとう』って思って涙が止まらなかったんです。それと同時にこれは映画にしなきゃだめだと思った。この人の存在を多くの人に伝えなければと。だから、できなかったらどうしようなんて全く考えなかった。私の役割はこの映画を作ることだ、そのとき確信しました」


命を懸け、非暴力で闘うパルデンの姿
怒りや憎しみを越え、希望を失わずにいること

 とはいえ、予想を超える出来事を前に無力感に苛まれることもあった。撮影を開始して一年後の2006年2月、トリノ冬季五輪の際にパルデンさんは次回五輪(北京大会)への抗議のため、トリノで無期限のハンガーストライキを始める。

 「彼は死ぬ覚悟でやってるんですね。非業の死を遂げた獄中の仲間やチベットのために。最初の数日だけ、一緒にテントに泊まっていましたが、パルデンの寝息を聞いていると泣けてくるんです。こうして命を懸けて訴えようとしている問題があるのに、メディアや世間はどうして聞いてくれないんだろうって。だから、なんとしてもこれを撮影しなければならないと思った。泣きながら撮った日もありました」

 非暴力で静かに闘うパルデンさん。怒りや憎しみを、慈しみややさしさに昇華していけるその強さに、観客の誰もが胸を打たれずにいられないだろう。

 「人生の大半を獄中で過ごし、拷問を受けてきたのに、彼は希望を失っていない。私もこの映画の制作過程で何度もいろんな問題に遭遇したのにあきらめないでいられたのは、パルデンのそういう強さややさしさを目の当たりにしていたからだと思う。彼はそれが信仰の力だって言うんですよ。でも生まれながらの強さもあると私は思うんです。身体は小さくて細いんだけど、心の筋肉が強くてしなやかで。しなやかだから、苦難を受け入れた上での闘い方になるんだと思う。70歳過ぎても、少年のようにあどけなく笑って、ときには私をからかったりもする。人間味あふれるチャーミングな人なんです」


楽真琴さん

“伝える人”としてのスタンスや心の平静を保つことにも苦労した、と楽さん。「心配だったけれど、ストの途中でテントを出ました」



自信が持てたのは、心を開けるようになったから
映画制作を通して成長したと思う

 楽さんは当初、N.Y.で建築を学ぶつもりだったが、「物理ができないことに気付いて」方向転換。メディア・映像制作の道を選んだ。英語も満足に喋れない、友人もいない状態から長編ドキュメンタリーを完成させるほどの強さと自信をもてるようになったのは、「人間はみんな同じ」という当たり前のことに気付いたからだという。

 「いろんな国の人たちが集まるN.Y.で、みんな悩んだり傷ついたり、やさしくしたりされたりしながら、なんとかやっている。そういうのを見ていて、どんな人種であっても、どこで育っても、喜びや悲しみとかっていう人間の基本的な感情はみんな変わらないんだな、と思った。だったら、私も自分をさらけ出して喜んだり怒ったりしてもいいのかなと。そうやって自分を認められるようになると、周囲の人をもっと信じられるようになって。それでまた自分に自信がつく、といういい循環が生まれたんです」

 いいスパイラルが生まれると、目の前の扉がどんどん開いていく。積極的に自分の関心のある方面へ足を運ぶようになると、人やチャンスも呼び寄せる。楽さんは自分の殻に閉じこもりそうになる時期をそうやって乗り越えた。映画が完成し、自身が成長したと感じる部分はどこだろう。

 「うーん、地味で面倒な仕事の処理ですかね(笑)煩わしいなと思いながらやるのと、そういうな気持ちを一旦、脇に置いて無心になって作業するのでは、後者のほうが全然ラクなんですよね。いちいち自分の感情に執着しない。N.Y.生活と、この映画制作を通して を通して学んだテクニックです」

 今後も映画を撮り続けていきたいという楽さん。チベットをテーマにしたものはもちろん、それ以外にも、と目を輝かせる。

「映画作りって体力使うから、私は自分の心が動いたものしか撮れない。やっぱり人間って、自分が気持ちいいと感じることをやってるときに大きな力を発揮できる。だから自分が『これだ!』って思ったら、自信をもって、それを信じ続けようと思っています」


text / Shibata Mari
photos / Hanawa Hiromi
 
『投獄、33年にわたる拷問。チベット僧パルデン・ギャツォの不屈の精神を描いたドキュメンタリー』
『雪の下の炎』
監督:楽 真琴 出演:パルデン・ギャツォ、ダライ・ラマ14世他 プロデューサー:楽 真琴
『雪の下の炎』公式サイト
楽 真琴さんブログ

投獄、33年にわたる拷問。チベット僧パルデン・ギャツォの不屈の精神を描いたドキュメンタリー
第1回チベタン・フリーダム・コンサートで、ビースティ・ボーイズ、ビョーク、ヨーコ・オノら豪華ミュージシャンとともに一人のチベット僧が平和を訴えた。中国軍の侵攻に対しチベット民族が蜂起した1959年に、平和的な手法であったにも関わらずデモを行ったという「罪」で投獄されたチベット僧パルデン・ギャツォである。想像を絶するむごい拷問を受けながら33年間を耐え抜き、非業の死を遂げた同胞のため、現在も闘い続ける。自身の生い立ち、理不尽な投獄の背景、そして苦痛の日々を、パルデンは淡々と語り出す。
2009年4月11日より渋谷アップリンク他、全国順次ロードショー



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