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21歳のソフィアの仕事は竹の椅子作り。1日働いて得られる利益は、わずか2セント(2.5円)だ。仕入れのお金を高利貸しから借りるため、1日10%もの利子を取られてしまうからだ。ソフィアの手元にはほんのわずかしか残らない。でも、貧しいソフィアに材料費を貸してくれる人はいなかった。これは1974年、バングラデシュのある村に実際にいた女性だ。 ソフィアの生活はある日を境に変わった。毎日の儲けがこれまでの60倍以上の1ドル25セント(150円)に増えたのだ。椅子作りを機械化したわけでもなければ、援助金をもらったわけでもない。ただ1つ変わったのは、高利貸しからお金を借りなくてもよくなり、法外な利子を払う必要がなくなったことだ。 彼女を助けたのは、バングラデシュのチッタゴン大学経済学部のムハマド・ユヌス教授。当時ユヌス教授は、自分が教えている経済学が「現実の人々を救う役に立っていないのでは」と疑問を抱いていた。実際に庶民の生活を見ようと考え、大学近くの村を調査に訪れた際、竹の椅子を作っていたソフィアに出会った。
大学の学生にソフィアと同じ境遇の人がその村に何人いるか調べさせたところ、42人いるということがわかった。しかも、必要額の合計はわずか27ドル(約3240円)。そこで、ユヌス教授は自分のポケットマネーから27ドルを貸した。 国中にいる貧しい人を助けるには、妥当な利子でお金を貸す機関が必要だ――。ユヌス教授はそう考え、まず銀行に話を持ちかけた。ところが答えは「貧しい人はお金を返す能力がない。土地など担保がなくてはダメだ」。当時のバングラデシュの銀行の考え方は、今の日本と同じだった。大企業や金持ちには金を貸し、借金棒引きをしてやることもある。でも、土地担保がない人には貸さない、というものだった。 既存の銀行に見切りをつけたユヌス教授は、ソフィアのような貧しい人向けに、83年に新しい銀行、グラミン(ベンガル語で「農民」の意味)銀行を作った。貧しい人々に対し少額のお金を無担保で貸す。
融資の仕組みは既存の銀行とはだいぶ違う。「借り手の返済能力」を土地ではなく「仲間からの信頼」で測るのだ。借り手は、5人で1組のグループを作る。それぞれが、竹細工や家畜の飼育、木細工など自分の仕事を持っている。それぞれが自分の仕事に必要なお金や収益性について計画を立て、それをグループ内でチェックする。 グループのメンバーは同じ村に住んでいるので、お互いの性格や仕事ぶりをよく知っている。「この人の計画には無理がある」と気づくのも容易だ。お互いが励ましあい、アドバイスしあう構造が生まれるため、返済率は高くなる。 グラミン銀行総裁となったユヌス教授は、「これは慈善事業ではなく、きちんとしたビジネス。利子を取って収益を上げています」と言う。実際に設立以来、約20年間で赤字は3期だけだ。2001年の最終利益は5900万タカ(約1億2000万円)で黒字。2001年8月から02年7月までに、143億タカ(約295億円)を貸した。返済率は98%、貸し倒れはわずか2%である。
日本人から見れば、グラミン銀行は小さな銀行だ。預金総額は71億タカ(約146億円)しかない。数十兆円の預金総額を誇るメガバンクの1000分の1の規模である。けれど「お金を貸して人の役に立つ」ことで利益を上げるという、本来銀行がやるべき仕事をきちんとやっている。このことは、私たち日本人にも2つの大事なことを教えてくれる。 1つめは、金融システムの多様化だ。ユヌス教授は言う。「既存のシステムは大企業など巨額のカネだけのために動いている。でも、貧しい人にお金を貸してきちんと返済してもらい、彼らを経済的に強化することで、社会全体を強くできる」。1997年にインドネシアやタイが金融危機に陥ったのは、ヘッジファンドが一度に資金を引き上げたことが原因だった。普通の人の生活をよくするためには、グローバルな資金の流れとは切り離された、小規模で地域に密着した金融機関が必要なのだ。 2つめは、貧困を減らすには「援助」でなく「融資」が有効ということだ。これまで主流だったのは、援助金や物資を送って貧困層を助けるという発想だ。でも、他国からモノやカネをもらえると期待していては、いつまでたっても自立できない。貧しい人々の生活を根本的に改善するには、自分の力で生活を支えられるように、起業の手助けや融資をするほうがいいのだ。 グラミン銀行のように、貧しい人を助けるために、少額を無担保で融資する仕組みは「マイクロクレジット」と呼ばれ、アフリカやラテンアメリカなど各国に広がっている。次回はこうした動きを紹介していく。 ●マイクロクレジットvol.2 「世界に広がるマイクロクレジット 借り手の半数が貧困を脱出 」 text / Jibu Renge photos / グラミン銀行 |
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