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更新日:2006年10月15日
         


“マイクロクレジット”って知っていますか? 「大企業にしかお金を貸さない」日本の銀行に慣れてしまっている現状。マイクロクレジットとは、そんな私たちの発想にはなかった、“小額無担保融資”のことです。最も持続的で効果的な貧困削減の手段とされ、いま世界中から注目が集まっています。
この画期的な試みを2回にわたって紹介します。

(※この記事は2003年8月に掲載したものです。)

文/治部れんげ(『日経ビジネス アソシエ』記者)
写真提供/グラミン銀行


●vol.1●
21歳の女性が貧困から抜け出せた!
バングラデシュで成功したグラミン銀行

  21歳のソフィアの仕事は竹の椅子作り。1日働いて得られる利益は、わずか2セント(2.5円)だ。仕入れのお金を高利貸しから借りるため、1日10%もの利子を取られてしまうからだ。ソフィアの手元にはほんのわずかしか残らない。でも、貧しいソフィアに材料費を貸してくれる人はいなかった。これは1974年、バングラデシュのある村に実際にいた女性だ。

  ソフィアの生活はある日を境に変わった。毎日の儲けがこれまでの60倍以上の1ドル25セント(150円)に増えたのだ。椅子作りを機械化したわけでもなければ、援助金をもらったわけでもない。ただ1つ変わったのは、高利貸しからお金を借りなくてもよくなり、法外な利子を払う必要がなくなったことだ。

  彼女を助けたのは、バングラデシュのチッタゴン大学経済学部のムハマド・ユヌス教授。当時ユヌス教授は、自分が教えている経済学が「現実の人々を救う役に立っていないのでは」と疑問を抱いていた。実際に庶民の生活を見ようと考え、大学近くの村を調査に訪れた際、竹の椅子を作っていたソフィアに出会った。


たった3240円から始まった画期的な銀行

  大学の学生にソフィアと同じ境遇の人がその村に何人いるか調べさせたところ、42人いるということがわかった。しかも、必要額の合計はわずか27ドル(約3240円)。そこで、ユヌス教授は自分のポケットマネーから27ドルを貸した。

  国中にいる貧しい人を助けるには、妥当な利子でお金を貸す機関が必要だ――。ユヌス教授はそう考え、まず銀行に話を持ちかけた。ところが答えは「貧しい人はお金を返す能力がない。土地など担保がなくてはダメだ」。当時のバングラデシュの銀行の考え方は、今の日本と同じだった。大企業や金持ちには金を貸し、借金棒引きをしてやることもある。でも、土地担保がない人には貸さない、というものだった。

  既存の銀行に見切りをつけたユヌス教授は、ソフィアのような貧しい人向けに、83年に新しい銀行、グラミン(ベンガル語で「農民」の意味)銀行を作った。貧しい人々に対し少額のお金を無担保で貸す。


土地ではなく「信頼」が融資の決め手

  融資の仕組みは既存の銀行とはだいぶ違う。「借り手の返済能力」を土地ではなく「仲間からの信頼」で測るのだ。借り手は、5人で1組のグループを作る。それぞれが、竹細工や家畜の飼育、木細工など自分の仕事を持っている。それぞれが自分の仕事に必要なお金や収益性について計画を立て、それをグループ内でチェックする。

  グループのメンバーは同じ村に住んでいるので、お互いの性格や仕事ぶりをよく知っている。「この人の計画には無理がある」と気づくのも容易だ。お互いが励ましあい、アドバイスしあう構造が生まれるため、返済率は高くなる。

  グラミン銀行総裁となったユヌス教授は、「これは慈善事業ではなく、きちんとしたビジネス。利子を取って収益を上げています」と言う。実際に設立以来、約20年間で赤字は3期だけだ。2001年の最終利益は5900万タカ(約1億2000万円)で黒字。2001年8月から02年7月までに、143億タカ(約295億円)を貸した。返済率は98%、貸し倒れはわずか2%である。


規模は小さいが
役に立つ度合いはメガバンクより上

  日本人から見れば、グラミン銀行は小さな銀行だ。預金総額は71億タカ(約146億円)しかない。数十兆円の預金総額を誇るメガバンクの1000分の1の規模である。けれど「お金を貸して人の役に立つ」ことで利益を上げるという、本来銀行がやるべき仕事をきちんとやっている。このことは、私たち日本人にも2つの大事なことを教えてくれる。

  1つめは、金融システムの多様化だ。ユヌス教授は言う。「既存のシステムは大企業など巨額のカネだけのために動いている。でも、貧しい人にお金を貸してきちんと返済してもらい、彼らを経済的に強化することで、社会全体を強くできる」。1997年にインドネシアやタイが金融危機に陥ったのは、ヘッジファンドが一度に資金を引き上げたことが原因だった。普通の人の生活をよくするためには、グローバルな資金の流れとは切り離された、小規模で地域に密着した金融機関が必要なのだ。

  2つめは、貧困を減らすには「援助」でなく「融資」が有効ということだ。これまで主流だったのは、援助金や物資を送って貧困層を助けるという発想だ。でも、他国からモノやカネをもらえると期待していては、いつまでたっても自立できない。貧しい人々の生活を根本的に改善するには、自分の力で生活を支えられるように、起業の手助けや融資をするほうがいいのだ。

  グラミン銀行のように、貧しい人を助けるために、少額を無担保で融資する仕組みは「マイクロクレジット」と呼ばれ、アフリカやラテンアメリカなど各国に広がっている。次回はこうした動きを紹介していく。


マイクロクレジットvol.2
「世界に広がるマイクロクレジット
借り手の半数が貧困を脱出 」



text / Jibu Renge
photos / グラミン銀行



竹細工を仕事としているグラミン銀行の借り手女性。2002年8月の同行発表「GRAMEEN BANK AT A GLANCE」によれば、借り手は240万人に上り、そのうち95%は女性だった。「家庭内で女性が経済的な力をつければ、子どもの食事や教育が行き届くようになり、生活が向上する」という考えの下、女性に積極的に貸付をしている。


牛の世話をするグラミン銀行の借り手女性。乳牛の飼育は、借り手の中で最も多い仕事だ。2001年には41万人もの借り手女性が乳牛飼育をしていた。


木細工の仕事に従事するグラミン銀行の借り手。男女の借り手で仕事内容を比べてみると、それほど大きな違いはない。どちらも最も多い仕事は乳牛飼育。次に肉牛飼育、米の脱穀、食料品店運営と続く。


借り手は5人で1つのグループを作り、お互いに事業計画をチェックし合う。計画に無理がないと判断できたら、グラミン銀行に融資を申し込む。最初の2人が6週間以内に返済できたら、次の2人が借りられる。最後に、グループの代表が借りることになっている。


借り手は1週間に1度、グラミン銀行の支店が主催する集会に出席する。そこで決められた分の返済をしたり、事業計画について話し合う。銀行側は借り手の状況を知ると同時に、計画についてアドバイスする機会も得られる。

ムハマド・ユヌス教授
グラミン銀行総裁。1940年、バングラデシュのチッタゴン郊外生まれ。チッタゴン大学卒。米国バンダービルト大学で経済学の博士号を取得。72年に帰国し、政府経済局計画委員会副委員長に就任。その後、チッタゴン大学経済学部の学部長に就任。74年の大飢饉がきっかけで貧しい人の救済運動を始め、83年にグラミン銀行設立。功績が認められ、「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞。ほかにも受賞経歴は多数。ノーベル平和賞の有力候補とも言われている。


グラミン銀行について
グラミン銀行の特徴は、株主の93%が同行の借り手であること。残りの7%は政府が所有している。借り手と、株主=会社の所有者がほぼ同じであるため、「もっと儲けるために、貧しい人への貸付を減らせ」といった圧力は働かない仕組みになっている。バングラデシュ国内4万の村に1175の支店を持ち、約1万2000人のスタッフがいる。スタッフの目的は借り手にきちんと返済させることだけでなく、借り手の生活水準が向上することだ。子どもが学校に行っているか、貧困線から脱することができたかなどいくつか基準を設け、優良店は表彰している。貸付はいくつかの種類に分けられ、使途によって利子が異なる。事業資金のためのローンは20%、住宅ローンは8%、高等教育のためのローンは5%だ。

グラミン銀行のサイト

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