カフェグローブ

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更新日:2006年6月1日
日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話
vol.17 東京電力が、JRが外資になる(かもしれない)時代って
世界で大企業の大型合併や買収が進んでいる。日本の企業もいつ世界の
どこかの資本の「餌食に」なるか……なんて考えているようでは
グローバル化を乗りこなすことはできない。人の褌で相撲をとることを考えるべし!
湧き上がる経済ナショナリズム
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Cafeglobe(以下C) 今回のお題は、経済界でにわかにブームな言葉になってきているという「経済ナショナリズム」です。ナショナリズムなんて、このご時世にちょっと物騒な響きですね。

浜さん(以下H) 昨年12月、ロシアが西側寄りのスタンスを強めるウクライナへの天然ガス供給をストップしたことがありました。これをきっかけにとくにエネルギーの安全保障を確実なものにしようと、欧州で国境を越えた会社の買収合戦が始まりました。自国の基盤強化のために、一昔前なら攻め込んで植民地化したわけですが、今はそれが企業買収になっているわけです。ドイツのエネルギー会社イオンがスペインの同業者を買おうとしたり。そうかと思うと、インド資本の鉄鋼会社ミタルがフランス・ルクセンブルグ系の鉄鋼会社アルセロールの敵対的買収を仕掛けると、それに対しては両国政府が待ったをかけようとする。イオンの場合にも、やはりスペイン政府が邪魔に入りました。分捕り合戦と締め出し合戦の同時進行状態です。経済ナショナリズムの攻めの面と守りの面がいずれも華々しい昨今なのです。

 アルセロールは買収逃れにロシアの鉄鋼会社と合併することを決めたようですね。そこまでインドが嫌なのかなぁなんて素人は思ってしまいますが。

 ミタルさんがインド人だから人種差別しているということはみんな否定していますけれどね。やっぱりヨーロッパのものはヨーロッパにという感覚はあるのかもしれませんね。義理も何も感じない「外の人」なら、血も涙もなく大規模リストラされてしまうのではないかとか。 じゃあ、ロシアならいいのか、というのが不思議なところですが。プーチン政権の思惑も絡んでいそうですね。

 日本にあてはめるなら、新日鉄とか東電が買収されてしまうとか、そういう規模の話ですよね。たしかによく知らない外資になってしまったら、血も涙もなく利潤の最後の一滴まで吸い上げられそう〜と不安に思う気持ちも分からなくはないですが。電気代が高くなっちゃうかな、とか。

 そういう不安を盾にとって、経済ナショナリストたちは「やはり日本のものは日本で」というようなことを言うわけですね。日産がルノーに買収されたときも、けっこうそういう声は出ていましたよ。あの場合はゴーンさんがああいう人でしたし、ある意味弱者連合でしたからそれほどではありませんでしたけれど。あるいは外資でなくても、ホリエモンのような異質なものが出てくるとすぐさま「ああいうのが放送を牛耳ってもいいのか」と発言する政治家なんかが出てくるのも同じ守旧的な抵抗です。

グローバル時代は、いかに人の褌で相撲をとるか
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 ふだんはグローバル化はヒト・モノ・カネの移動に制限がないことがメリットだ、なんてお題目を並べている人たちが、いざとなると安全保障という建前を前面に出してバリアのない世界にバリアを立てようとしている。この矛盾した行動をどう評価するかですね。

 でも評価されがちなわけですよね……。

 そうなんですよね。でも、たとえばアイルランドのような外資導入で大成功している国が経済ナショナリズムを振りかざしたら、突然干上がるわけです。もともと何も産業がない北の農村国家、20世紀初頭でも、いえ1960年代初頭だって本当に貧しくて、食べられない人たちがアメリカに大勢移民していたわけです。そのアイルランドに、ITブームでアメリカを中心に外資が来るようになって、いまやEUの中でもリッチなほうの国になってきた。グローバル化にはそういう状況をもたらす一面があるわけです。

 それはたしかに魅力的です。

 グローバル時代というのは、いかに人の褌(ふんどし)で相撲をとるか、それが問われる時代だと思うんですね。

 その褌とは?

 カネと頭。それをすごく上手にやったのがサッチャー改革だったわけです。英国病とまで言われるほど停滞していた経済に、当時世界の経済界の花形だった日本の製造業をどんどん呼び込んだ。それによって瀕死の重病人と思われていたイギリスが、ヨーロッパでいちばん元気な経済に大変身したわけです。ウィンブルドン現象とも言われましたね。

 テニスのウィンブルドンですか。

 ウィンブルドンは、テニスプレーヤー憧れの世界の舞台ですよね。でもそこで優勝する選手にイギリス人がいたためしがない。でもそれでいーんだ、と。イギリス人が活躍しなくても、世界中からトップクラスの選手が集まってきて華麗なプレイを競ってくれる限り、イギリスはウィンブルドンを世界に誇れるわけです。場所貸しで繁栄を手にできる。

経済ナショ政治家をどう評価するか、が肝

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 スタジアムを整備して、ルールを作っているだけですもんね。

 もちろん外資という名のプレイヤーがあまりにも乱暴に大量リストラをするとか、攻撃的な企業行動を取りすぎるということがないように、そこはきちんと監視する必要はあります。それが政策というものが持つ重要な役割です。このグローバル化時代に国というものに役割があるとすれば、ルール作りですね。ウィンブルドン式で行くと決めたら、圧倒的な責任と権限を持ってモニターし、必要なときには対策を講じる。

 レッドカードを出す、と。

 そういうことですね。

 ほんとうに、国って何だろう?と思う時代になってきているのを感じます。

 そうですね。国というのはイコール政策と言ってもいいと思います。政策が果たす役割を、政策担当者たちが責任を持ってもういちど考え直す必要がある。企業活動のボーダーレス化に対応することも必要だし、広がりつつある格差の問題に対応するのもそうです。安易に経済ナショナリズムを振り上げ、安全保障だと騒ぐのは知恵がない。政策の古い役割に固執しているからそうなるのだと思います。新しい知恵が出ていないから古い知恵で凌ごうとしている姿ということです。

 私たちはそういう政治家をどう評価するかということですね。

 ナショナリズムの旗を振る政治家を「頼りになる」と思ってしまうのか。世界のカネと頭を呼び込んで仕切れる、あなどりがたい政策を作れる国を目指すのか。しっかり考える必要がありますね。


■次回予告:(6月15日更新予定)
数字にご用心。いろいろ発表される数字、
わかりやすいほど、何かあるなと睨むべし

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
用語説明

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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)

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