カフェグローブvol.30 日本は世界舞台でドン・キホーテになるべし! +今年の総括も - 浜矩子のお金の正体の話

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更新日:2006年12月15日
日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.30 FTAってよく聞くけど何? +今年の話題総括スペシャル
今年もあと2週間! ああなんて1年が早いんでしょ……と嘆いているみなさん、経済の世界は今年も激動でした。2007年は時代にしっかりついていくためにも、今年のおさらいをしておきましょう。読まないと、損しますよ〜。

「あなただけ特別ヨ」とエコヒイキして
貿易をしやすくするFTAに潜むマイナス点
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Cafeglobe(以下C) 今回のお題はFTA(※1)です。何か貿易関係のコトというイメージはありますが……具体的にはどういう取り決めなんでしょうか?

浜さん(以下H) 相手を特定した自由貿易協定ということになっています。相手を選び、たとえば「あなたA国さんとの間では関税ゼロで取引します」という約束です。でもこれは裏を返せば、B国やC国には壁を設けるよというエコヒイキ協定でもあるわけです。相手を特定した地域限定排他協定ですね。

 日本はどんな国と結んでいるんですか?

 メキシコとシンガポール、マレーシアなどアジアの国々が多くなっています。タイも先日決まりましたね。ASEANというグループとも交渉をしていますし、韓国とも交渉を始めています。

 でも、FTAを結んだといっても、相手の国の全品目について関税ゼロというわけではないようですね。品目が決まっていて。

 そう、それもちょっと問題。WTOの基本理念は関税の一括引き下げによって自由化効果を上げていくことです。でも、各国ともそこまで自分の市場を開くのは怖いから、相手はここだけ、品目はこれだけと特定するつまみ食い式のFTAを乱発するようになってきているわけです。

 それでも協定がまったくないよりはよさそうな気がしますが。

 ひとつひとつはうまく働いているように見えても、いわゆる合成の誤謬といいますか、結んでいる双方とも得をしているはずが、結果的に損をしているということになりかねない。というのが、今回の『ビッグイシュー』のコラムでご紹介したバグワッティさんなどの経済学者が疑問を投げかけているところなんです。相手も特定しないで、一括でバーンと開いたほうが効率的でしょ、と。

日本は通商の世界のドン・キホーテになるべし!
グローバル時代だからこそ、門戸を開くのだ
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  日本も個別の国とチマチマ交渉しているべきではない?

  日本ひとりだけでも、「WTOにみんな戻ろうよ」と声をあげるべきでしょうね。世界でいちばんリッチな国なんですから。通商の世界におけるドン・キホーテを気取るのもいいと思いますよ。

 でも、日本だけ門戸をパーッと開いたら、たとえば日本のネギ農家などが打撃を受けてしまうのでは……と心配が頭をもたげてきます。

 でも、それによって中国の人々がリッチになれば、日本の高いけれどおいしい深谷ネギを買ってくれるようになるわけです。我々は中国の安いネギで焼き鳥を食べる。

 それができたら……いいんですが。

 それができないわけがないんです。「比較優位の理論」と言うんですが、アダム・スミスらの時代にデヴィッド・リカードによって、すでに深谷ネギと中国の安いネギのことが数字的に証明されているんですよ。Aという国とBという国がオープンであれば、それぞれの国で競争力があるものに特化して貿易をすると、双方ともより多くの経済効果を得ることができると証明されているんです。

 そういう姿を地平線上に見て前進しなければいけないわけですね。

 深谷ネギだって、大分のどんこシイタケだって、中国で興隆しているニューリッチ層の人々が実際に買ってくれるようになれば、今の生産量じゃ追いつかなくなる可能性は高いと思いますよ。

 我々日本の庶民はいまよりぐっと安い中国のネギをたくさん食べられる。フードマイルは少し気になるものの、残留農薬の問題が解決すれば、悪い話じゃないですね。

 農薬の問題なども、日本から技術移転をするといいですよね。日中の農家の交流が深まり、日本の農家は技術移転でもうける時代になるのかもしれない。

 すき焼きにネギの炭火塩焼き……食べたくなってきました!

今年はどんな年だった?
2006年の経済出来事ミニ総括スペシャル!
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 では今回が2006年の最後の回となりますので、「2006年のミニ総括スペシャル」をお願いします。今年この欄で話題に上った出来事について振り返って、あるいはその後の経過の分析をお願いします!

 はいはい、さっそく行きましょう。

【ライブドアと村上ファンド】
 時流に乗った風な時代のヒーローをやっつけようという守旧派の巻き返しという部分はあったと思いますが、その程度のことで簡単に足をとられてしまうあたりに節度無視型の欲の破綻があったんだろうと思います。彼らを時代の寵児にしていたマスコミの論調をどう受け止めるかなどを含めて、我々の見極めの眼力の必要性が印象づけられた事件でもありました。
(関連バックナンバー)
●2月15日「ライブドアショックから何を学ぶか」

【FRB議長にバーナンキ氏就任】
 就任して10ヵ月。結局評価が定まらないまま来た……というよりは浮き足だったままの状態で一年を閉じようとしているというところでしょう。グリーンスパンという狸オヤジの跡継ぎ役、純な理論家にはご苦労だったと思います。とくに世界的な資金の流れが大きく変わりそうなタイミングに就任してしまって、お気の毒という気もします。いずれにしても、アメリカドルから資金が逃げ始めている現状です。一触即発の為替/金融市場にはこれからますます苦難が待ち受けているでしょう。要注目です。
(関連バックナンバー)
●3月1日「前FRB議長が“愛された理由”と、今後の米国経済」

【イラク泥沼】
 経済から見ると2つの側面があります。1つはアメリカの財政赤字の拡大要因としての側面。アメリカ経済の不均衡をさらに助長する要因です。もう1つはドルに対する信任の低下要因になっているということ。双子の赤字を抱えたアメリカに関してはただでさえドル暴落の不安がつきまとっているわけですが、それに加えてのイラク泥沼化懸念が、ますますドル離れを加速する要因になっています。

【中国経済絶好調!】
 日本の対中貿易が対米を抜いて1位になったというニュースもありました。つまり日中経済はいろいろな意味で一蓮托生であるということを大前提にしていかなければいけないということです。一蓮托生なのだから、少しは日本の言い分も聞いてくれと主張し、また同時に相手が言うことにも耳を傾ける。それによって政治外交上もバランスがとれてくるでしょう。我々も、中国経済の先行きを自分の問題という感覚でとらえていくことが絶対必要ということですね。
(関連バックナンバー)
●5月1日「外貨準備高で中国に負けた!? ……いやいや違う見方をすれば」

【いざなぎ超え・安倍政権】
 以前の回でもお話しましたが、期間でいざなぎを超えたということよりも、中身が大切なわけです。今の景気拡大はいざなぎ時代とは対照的に「非」全員参加型。格差拡大の問題に直結しています。安倍政権は「成長路線で、上げ潮の経済で行く」とか言っていますが、荒唐無稽であると思いますね。もっと現実直視型の政策運営をしていかないと、国民としては納得しがたいのではないでしょうか。
(関連バックナンバー)
●9月15日「“いざなぎ景気超え”に惑わされちゃ、ダメ!」

【グローバリゼーション】
 私は「格差なき拡大はありうるか、平等なき繁栄はありうるか」という問いかけを、経済を見る上での自分のテーマとしてきたのですが、今、改めてこのテーマが本当に大切なポイントであることを実感しています。競争はたしかに拡大の原動力にはなりますが、実際は競争があれば格差はどうしても出てきてしまう。格差をほったらかしにしていけば、貧困や社会崩壊などの問題が出てきて結局全体の繁栄も止まってしまう。格差と平等の綱引きの中でいかに絶妙なポイントを見つけるか、それがますます厳しく問われている時代です。グローバル時代とはそういう時代なのだと思います。排他的にグローバリズムを押し進めてしまえば、推進者本人もダメージを受けるでしょう。ぬけがけなどはグローバリズムの時代にはまったく通用しないのです。まさに「情けは人のためならず」。
(関連バックナンバー)
●4月17日「学生デモが政府を動かした! でも前途多難なフランス事情」
●5月15日「平等と競争の間で漂流する欧州、すんなり抜けた日本」
●6月1日「東京電力が、JRが外資になる(かもしれない)時代って」

 ありがとうございました。本当に、宇宙船地球号の小ささを痛感する一年でした。そんなことを胸に、来年はもっといい年にしたいですね。

 年越しそばのだしはおいしい中国のシイタケでとってね(笑)。


■次回予告:(1月4日更新予定)
ヒタヒタと進行中のドル安が、
イタリアのユーロ脱落を引き起こす!?

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
用語説明


(※1)
【FTA(自由貿易協定)】
自由貿易協定(Free Trade Agreement)は、2国間あるいは地域間において、関税や量的制限・労働者の移動などの貿易障壁を撤廃・低減させようと決める協定。日本は現在シンガポール、マレーシア、メキシコ、タイなどと締結している。
●よくある質問集:国際経済(外務省)

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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)

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