カフェグローブ 知的キャリアの高感度サイト cafeglobe

ニュース 政治・経済ネタも世界の旬情報もナナメ読み

更新日:2007年3月15日 RSS

日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.35 「ホワイトカラー・エグゼンプション」って何だった?
「残業代なし法案」というあだ名もついて評判の悪かった法案がお流れに。でもただ安心するのではなく、その意味はきちんと理解しておきましょう。先日、世界を駆けめぐった株価急落に対する浜さんの見方付きでお届け!

みんなが工場労働者だった19世紀は遠く。
労働慣習も見直すべき時代なのかも
Back Number

Cafeglobe(以下C) しばらく前から新聞などでチラチラと目にしていた「ホワイトカラー・エグゼンプション」とやらが廃案になったそうですね。「残業代なし法案」などのあだ名もついていましたが、残業代なしになるのが誰なのか、そもそも何を意味するのかもわからないうちに非難囂々に遭って消えていったという印象です。それにしても嫌な雰囲気のする言葉でした。

浜さん(以下H) 結局、言い出しっぺの経団連の下心が国民に見透かされてしまったということだと思いますよ。これに似ている顛末だったのが、このコラムでも以前ご紹介した、フランス全土がデモで麻痺するまでになったCPE(初期雇用契約)ですね(第14回参照)。これも提案内容そのものというより、政府の誠意のない説明態度や、しっかり国民のコンセンサスを得ないうちに強硬に押し通そうとしたあたりに学生や労働者が拒否反応を示してしまったという事件でした。

 CPEは、グローバリゼーションの中ではフランスにとってある程度必要なことだったのではないかというのが浜さんのご意見でしたが、今回のホワイトカラー云々も日本経済がグローバル化に対応するためにある程度意味はある提案なんですか?

 そうですねぇ、グローバル化に対応ということもさりながら、経済社会の変化に対応するために労働形態も変わっていく必要はあるでしょう。今の労働慣行は19世紀、世界が工業化に向かっている時代に作られた、マルクスが労働者の権利確立に向かって物を言っていたときのスタイルが踏襲されてきているものです。その意味ではすでに基礎的な問題が生じているので、労働者の権利を守ることは当然としつつ、ひとりひとりが伸び伸びと自分の能力を発揮できる雇用環境に改めていくという発想それ自体がおかしいとはいえないでしょう。

 そうか、会社の労働組合で、赤い旗を掲げて「シュプレヒコール!」なんて叫んでいてもどこか空しい気持ちになるのは、このあたりの根本的な変化なわけですね。時代に追いついて、新しい方法で労働者の権利を守らないと。たしかに、残業代カットというより、仕事の成果が上がれば就業時間は何時間でもいいということになるのなら--本当になるかが肝心ですが--創造性のある職種ならありえるとは思います。

「エグゼンプション」などの言葉を使うのは
知的怠惰か、まやかしのどちらか
Back Number

 でも、今回のホワイトカラー・エグゼンプションはやっぱり胡散臭かったと思いますよ。フレックスタイムや裁量労働制も浸透してきているというのに、今なぜこれを急ぐのか。やっぱり残業代を減らしたいのではないか。あるいは残業時間を気にせず存分に働いてほしいということではないか。失われた10年あるいは15年で日本経済がそもそもグローバル経済の舞台に上がっていなかったときには言いだしにくかっただけに、今こそコストを抑えて生産性を上げていかなければという焦りもあるのでしょう。安倍政権としても、「上げ潮」路線、「成長力底上げ」路線とメリットが一致しますから歓迎なわけで。それはどうしても労働者いじめにつながるというシナリオが見えてきますね。

 それにしても、ホワイトカラー・エグゼンプションっていう名前、なんとかならなかったんでしょうか。もっとアンダスタンダブルなネーミングならディスカッションもヒートアップしたポシビリティもあったのに。ってミスターみたいですね。

 パーフェクトな知的怠惰ですね。あるいは傲慢か。人々のアグリーメントを得たい、アンダスタンドして欲しいという説明のスピリットがトータリィ感じられない。そこもまた今回人々がリジェクションしたワンリーズンでしょう。わざとわかりにくくして何か下心を隠してるんじゃないか、と。

 最近、わかりにくいカタカナ用語が多いですよね。前々回話題になった「コンプライアンス」(第33回参照)しかり、「アカウンタビリティ」「コーポレート・ガバナンス」に「CSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)」に。なんじゃそりゃ! 経営用語にやけに多い気がします。「我が社もコーポレート・ガバナンスを」なんて口にすると、何か難しい先端トピックをわかっている人だという風に聞こえるんじゃないかって期待しているんですよね。カッコわる〜。

 ええ、これまた知的怠惰かまやかしか、あるいはその両方でしょうね。毎日新聞の川柳コーナーに先日秀逸なものがありましたよ、「イノベーション、エグゼンプション、クエスチョン」という(笑)。

 バッチリ韻も踏んでいますね!

世界がどよめいた
3月初旬の株価急落、その理由は?
Back Number
 さて、このところ株価がかなり話題ですのでそれについてもぜひお聞かせください。今回の急落の発端は何だったんですか?

 発端は2月28日の上海市場で、キャピタルゲイン税が急に導入されるかもしれないといった噂が主に個人投資家を中心にウワッと広がって、一気に9%くらい下がったんです。それが西回りに、「株はヤバいらしい、じゃあリスク度の高い資産もヤバいかもしれない」と飛び火していった。とくにいわゆる「円キャリートレード」、金利の低い日本で調達したお金でアメリカとか中国とかオーストラリアなどで投資していたものが一気に利益確定に入ったので、株安ばかりか円高も急速に進んだわけです。アメリカではグリーンスパンが意地悪にも「アメリカは今年後半景気後退局面に入るかもね」なんてコメントをしたりして。そういう連想ゲームが始まると、悪材料ばかりがみんなの頭の中をよぎってますます売りが進む。

 本当に気分なんですね、かなりの部分まで。

 気分ですけど、気分の背景には、やはりみんなが高リスク資産を買い持ちになっていた、レバレッジの効いた状態になっていたことがありますね。そうでなければ、上海ごとき駆け出しの市場で株が下がったくらいでみんなそんなに慌てませんよ。特に日本の場合には金利が低すぎるので、かえって皆さん、海外で高い利回りを追求するようになっている。金利は低ければいいわけではないということが今回のことでよく示されたと思います。

 リスクの高いところから崩れてくるって、なんとなく雪崩みたいなイメージですね。

 まさに雪崩ですから大きな犠牲を伴いますよ。山の高ーいところに大量に雪がたまっているわけですから、一気に落ちてきたら被害は相当なものです。

 プチ投資家として、世界が今そんな景色になっていることは承知しておかないといけませんね。

 まだまだ終わっていませんからね。

 まだまだ……ですか。

 今回の急落程度では雪崩は谷底まで達していないし、峰々にはまだまだ雪がたっぷりありますよ。まだまだまだまだ。
Back Number
『ビッグイシュー日本版』と連動中!
浜さんが、毎号cafeglobeと同じトピックで記事を連載しています。合わせて読んで、理解を深めよう。
ビッグイシュー日本版 最新号
最新号好評発売中! 目次、販売場所など詳しくはビッグイシュー日本版のサイトで。
>>ビッグイシュー日本版
浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
用語説明
Back Number
illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)