カフェグローブvol.42 ノリノリかと思いきや、ガクっと転げ落ちちゃう組織の問題 - 浜矩子のお金の正体の話

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更新日:2007年7月2日
日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.42 ノリノリかと思いきや、ガクっと転げ落ちちゃう組織の問題
ニュース見てるとノリノリに見えた企業のトップが、頭を下げてる映像多くないですか? 会社がうまくいかなくなる理由、組織がうまくいかなくなる理由、こんなところにあるみたいです。あと、ガールフレンドえこひいき問題で辞めちゃったあの人の話も。

1000年続く長寿企業もあれば
無理を重ねてダメになる会社もある
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Cafeglobe(以下C) 渋谷の温泉施設の爆発事故にコムスンの問題。英会話のNOVAも一部業務停止命令を受けましたし、ブックオフの不正会計問題もありました。このところ、急成長していた企業が突如ガクっと転落……というニュースが多い気がします。やはり何らかの無理を重ねてしまっているんでしょうか。

浜さん(以下H) 無理は確かにあるでしょうね。それも、爪に火をともして細々と必死で頑張るというような無理の仕方ではなくて、起業やベンチャー流行りで、奇をてらう傾向が強まっているなかでの「無理」ですよね。まさに爆発的な無理、とでもいいましょうか。ホリエモンとか村上ファンドとかあの人たちもそうでしょう。事業創造とか、ベンチャーだとかいった言葉がある昨今、それがあだ花的なものに走る傾向につながる面が出て来ている感じがします。起業におけるちょいワル指向とでもいいますか。

 ちょ、ちょいワルですか。聞いているだけでなんだか動悸がしてきました(はぁはぁ)。

 例えば、一昔前は財テク(※1)、なんていう言葉をよく聞きました。当時は、株を買ったり土地を転がしたり、あれこれやってるのが、時代の波に乗っている、かっこいい、とされていた。今は新規事業をやっているということが人々の関心を集め、憧れの対象になる。そこで地に足がついていないようなことを追求し始めると、必ず無理やズルが出てきてしまう。

 先日NHKの番組で『長寿企業大国にっぽん』というのを見ました。なんでも日本には100年を超える歴史を持つ長寿企業が数万社あるのだそうです。創業1400年余という社寺建築を行う企業をはじめ、いろんな長寿企業を紹介しているのですが、どこも確固たる企業理念を持っていて、息が長い。昔は「地に足がついた経営」ができてたのに、最近はどうしちゃったんだろう、と思いました。

 ひょっとすると、ビジネススクールのようなところが「地に足がつかない」傾向をあおっているという側面もあるのかもしれませんね! 時代が変わるときには、新しいものが生まれてくるのはある意味当然なんですが「これしかない」と思い込んでしまう人が多くなってくると、問題が出てきます。あぶく銭でそれで儲けては決していけないということではありませんが、やはり無理とズルはまずいでしょう。1000年続くには無理とズルではなくて気構えと良識が必要ということだと思います。やってはいけないことはしない、というのがあるから、存続可能なわけです。それは本当に身についたCSR(※2)ですよね。

 身についたCSR! 番組を見終えてそういうことを考えました。長寿企業に共通の特徴は--「決して“本業”をはずれない」「世の中が変わったら、“本業”からはずれない中で、社会のニーズに合わせていく」「危機は何十年かに一度襲ってくるもの。そこから逃げずに企業そのものを変革する」--だそうです。

 CSRという言葉が陰もかたちもないころから、ズルをしない、無理をしない、でやってきたわけですよね。社保庁などもそのあたりが抜け落ちているのではないでしょうか。

総裁が愛人問題で辞任!の世界銀行
一体どうしてこうなっちゃったの?
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 話題は変わりますが、ビッグイシューでは世界銀行(※3)元総裁ウォルフォウィッツ氏の辞任の話を書いていらっしゃいます。私は「国際機関のエラい人のスキャンダル。私たちにはあんまり関係ない」と思ってました。でも、調べると、今や日本は世銀にとって第2位の資金供与国。となると、私が納めた税金がウォルフィーの愛人の給料になってた可能性もあるかもっ!と、フツフツと疑問が沸いてきました。

 世銀にしてもIMF(※4)にしてもWTOの前身のGATT(※5)にしても、みんな戦後復興期の始まりに作られたもの。そのときの時代感覚が色濃く出ているわけです。当時、世銀が出す援助資金を誰が主にまかなうかといえば、何はともあれアメリカだった。IMFはドルを軸にする通貨体制の番人だった。GATTが標榜する貿易自由化も、まずはアメリカが率先して市場開放を進めなければ実効は上がらない……と、要するに援助・通貨・通商という戦後の国際秩序の三本柱をいずれもアメリカが主役になって担う形になっていました。当時はそうならざるを得なかったわけです。この基本設計を変えないまま、状況に応じて微調整をやってきたわけですが、それでは今やいかにも時代状況とのミスマッチが大きすぎる段階に来ていますね。今回の不祥事なども、そんな大きな問題を抱えて国際諸機関がまともに機能しなくなっていることが影響していると思います。風紀のみだれの背景にはやはり組織の制度疲労がある。

 かつてアメリカはキラキラしていた。しかし今はそうではない。

 ええ。その昔輝いていた頃のアメリカは、自分がいちばん輝かなきゃダメだっていう気概があって、気位高くやろうと自らを律するものがあったと思います。それが次第になくなって、しかし、リーダーシップは失いたくないという状況になってしまった。そういった焦りが、ネオコン的なものを産み出していると言えるでしょうね。ウォルフォウィッツ(※6)もネオコン的発想で「世銀を一発立て直せ!」と言われて乗り込んだのでしょう。世銀そのものが、戦後の復興期とは随分違う状況のなかで活動しているわけですが、当時に比べると、世界的な貧富の格差は格段に広がっているわけです。本来的に考えればもっと活躍してしかるべきなんだけど、そのあたりが上手くいっていない。

 このウォルフォウィッツの愛人問題に限らず、世銀の組織自体もたるんでしまっていたのでしょうか。


 たるんでいたというよりは、ひとつにはIMFとの役割分担という問題がありますね。IMFが担っていたドルの番人という役割がそれほど必要なくなってきたために、本来は世銀の役割である中長期的な開発援助のようなことにIMFがどんどん浸食してきているという状況があります。世銀だけではなくIMFもまた生き残りをかけているから、役割の争奪戦のような状態になってきている。そうするとどうしても浮き足立って、空気も淀んできてしまうわけです。
世銀の本来の目的である援助や開発を
上手い具合にできるようになるには
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 なるほど。でも、これだけ貧困問題が深刻な今だからこそ、世銀がやるべき事はいっぱいあるはずなんですね。世銀の活動がうまい具合にいかない理由はどこにあるんでしょうか。

 いろんな問題があるとは思いますが、ひとつには、援助資金が末端に届いていないという問題が指摘されていますね。例えば、『グラミン銀行(※7)』のマイクロクレジットのような取り組みですとか、ああいった、末端のローカルな共同体ときちんとつながったかたちの援助体系の構築といいますか。そういった新しい対応を考えることもポイントになるのかもしれませんね

 先日、カフェグローブの「キャリアインタビュー」で紹介した方が、ちょうどそういうことをおっしゃってました。開発援助を行う国際機関でインターンをしていたときに、周りで働くエリート職員の様子を見て「こんなところで政策考えてるだけじゃダメだ!」と感じ、身ひとつでバングラディシュへと飛び出して事業を起こしたのだそうです。

 そうですか。そういう考えを持った人が世銀の中枢部を形成するようになれば、ああいったアホなスキャンダルのようなものもなくなるでしょうねぇ。

 スキャンダルもさることながら、ウォルフィーのようなネオコン代表選手みたいな、思想的に偏りのある人が国際機関のこういうポジションにいることはすごく危険、とも思ったんですが。

 ええ。それはそのとおりですね。世銀の総裁はアメリカが任命する習慣になっているからそうなっちゃう。今回の不祥事を機に、この伝統もやめたほうがいいとは言われていたんですが、なかなか既得権益というものは手放せないようですね。本当は選挙で選ぶとかしたほうがよいはずですが。

 交代した、ロバート・ゼーリック氏はどんな人なんでしょう。

 この人は、手堅い実務家です。ただ、通商問題が得意な人なので、援助問題についてどのくらいの素養があるのかはわかりません。しかし、実務の処理能力や粘り強い交渉力には定評があるし、穏健派でもあります。さすがに次は誰から見ても大丈夫な人を連れてきたわけです。それがブッシュ政権側の事情ですが、ゼーリック氏はよくこの役割を今受ける気になりましたね。

 火中の栗を拾いまくりですね。でも、ましになるといいですね。

 ええ、“まし”にはなると思いますよ。

 世界銀行、現状にしっかり対応できる頼もしい組織になって欲しいです。

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
用語説明

(※1)
【財テク】
1980年代のバブル経済時代に流行した、企業や個人が本業とは別に資金調達や運用を行い、利益を稼ぎ出そうとすること。例えば、企業は転換社債や株式の発行などの手段で資金を調達し、その資金を不動産や株式に投資して利益を上げたりした。バブル崩壊によって多額の不良債権をかかえる結果となった企業や個人も出た。

(※2)
【CSR】
Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任。企業は社会的存在として、最低限の法令遵守や利益貢献といった責任を果たすだけではなく、市民や地域、社会の要請に応え、より高次の社会貢献や配慮、情報公開や対話を行うべきであるという考え。

(※3)
【世界銀行】
http://www.worldbank.org/
途上国政府に対して融資、技術協力、政策助言を行う国連の専門機関。IMF(国際通貨基金)と共に、第二次世界大戦後の金融秩序制度の中心を担う。本部はワシントンD.C.。加盟国は184カ国。

(※4)
【IMF】
International Monetary Fund(国際通貨基金)。為替相場の安定を図ることを目的に設立された、国連の専門機関。世界銀行と共に、国際金融秩序の根幹を成す。本部はワシントンD.C.。2006年5月現在の加盟国は184。

(※5)
【GATT】
General Agreement on Tariffs and Trade(関税および貿易に関する一般協定) 。自由貿易の促進を目的とした国際協定。1995年に国際機関としてWTO(世界貿易機関)が設けられ、GATTはWTO協定の一部として改正・解消された。

(※6)
【ポール・ウォルフォウイッツ】
アメリカ合衆国の政治家。第10代世界銀行総裁。1970年代から約20年間、国務省や国防総省で勤務。2001年1月より国防副長官。2005年3月にブッシュ大統領により世界銀行総裁に指名され、同年6月に、世界銀行総裁に就任した。

(※7)
【グラミン銀行】
バングラディシュの銀行で、マイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした低金利の無担保融資を行っている。2006年創設者であるムハマド・ユヌスと共にノーベル平和賞を受賞した。
●グラミン銀行
●グラミン銀行に関するカフェグローブの記事


●世界銀行とIMFが活躍できていないのは……
●世界銀行に対し貧困を拡大しているという批判

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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)

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