カフェグローブvol.43 世界を幸福にも不幸にもするジャパンマネー! - 浜矩子のお金の正体の話

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更新日:2007年8月1日
日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.43 世界を幸福にも不幸にもするジャパンマネー!
FXとか流行ってますね。資産運用するなら断然、外国為替♪って人もいるのでは? じつは、そんなアナタのお金、今、海外でモーレツに“出稼ぎ”してるんです。で、里帰り! とばかりに日本に帰ってくるときに、事件は起こるのです。

金融危機でアジアが奈落の底に落ちた97年
今って実は、あのときとそっくり!
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Cafeglobe(以下C) ちょうど10年前。1997年の7月といえば、アジア通貨危機(※1)でタイをはじめインドネシアや韓国などアジア諸国が大変な状態に陥りました。

浜さん(以下H) 当時と今の状況を見比べると、本質的なところでとてもよく似ているのが、“ジャパンマネーの存在”でしょう。今「円キャリ」なんて呼ばれるくらい「キャリートレード(※2)」というものが話題になっていますね。あの時も全く同じ形で大量のジャパンマネーが海外に“出稼ぎ”に行っていました。

 お金が出稼ぎ!ですか。 キャリートレードって、金利の低い通貨(今だったら円など)で資金を調達して、金利の高い通貨で運用してその利ざやを稼ぐ、というやつですね。ヘッジファンドなどがやっているという……。

 97年の通貨危機は、この「ジャパンマネーの出稼ぎ」がそもそもの発端をつくったといえます。まず、ことの始まりは80年代の後半です。日本はバブル経済化して金が余り、かつ円高だったので輸出を行うのはなかなか厳しい状況でした。

 それで、タイをはじめとする各国に工場をつくって、そこから第三国に輸出をしたり?

 ええ。当時タイなどは、自国通貨をドルに連動させるドルペッグ制(※3)を行っていたので、対ドルで円高ならばタイバーツは日本にとって「非常に安い」ということになります。しかもドルと連動しているから、為替の動きは確実にわかる。

 だから日本円がどっとアジアになだれ込んで行ったんですね。

 そうです。日本円が入ってきたことで、アジアはどんどん成長しました。さらにこの後、成長を通り越してタイもバブルのような状態になって舞い上がっているところで、日本ではバブルが崩壊し、不良債権問題などが発生して、対外投資ブームどころではなくなった。ところが、ここで日本ではゼロ金利政策(※4)というものが導入されました。これが次の「円の出稼ぎ」を促すことになったのです。

 はい。以来日本はずっと低金利……。

 その通り。その低金利のジャパンマネーを、今度は日本企業ではなくてヘッジファンドが投機資金として持ち出すようになったんですね。1980年代の段階では、日本の企業が工場や事務所をつくるために資金をアジアに持ち出していたわけですが、今度は、投機資金に姿を変えたジャパンマネーがどんどんアジアに出て行くようになったのです。このお金でタイのバブル経済はしばらくは潰れずに済んではいたんだけど、さすがにいつまでもこの状態では持たんだろう、ということで、ヘッジファンドがタイの経済を見限った。そこで、すーっとジャパンマネーが引いて行き……通貨の暴落に至った。

 出稼ぎに出たジャパンマネーが、一気に日本に帰ってきてしまったんですね。

 そう。今も、円キャリートレードで、あのときのように大量のジャパンマネーが世界中に出て行っています。しかも今の方がスケールが大きい!

 今また出稼ぎするジャパンマネーが増えているのは一体どうしてですか?

 従来型のプロによる投資に加えて、今は個人がいろんなファンドに投資をするようになってきているからです。投資家の顔ぶれも数も変わり、はるかに大きいスケールでジャパンマネーが出回っているんです。玄人のみがキャリートレードを行っていた昔とは違い、世界中のどこの国よりも巨額な日本の個人貯蓄が以前よりもっと直接的な形で外に出ていくようになっている。

 以前「日本円は今や隠れ基軸通貨(※5)」ということをおっしゃっていましたが、日本円は目に見えないところで、ものすごく大きな影響力を持っているということですね。

 そういうことです。基軸通貨と言ってもね、昔のようにいばって表に出ているわけではないんですが。実質的には大きな役割を果たしているのですが、それ自体としてそれほど信用されている通貨ではない。だから、外に出る時は姿形を変えることにならざるを得ない。いわば黒子のような存在ですね。量的緩和(※6)、ゼロ金利政策のおかげでどんどん出稼ぎ体質、黒子体質になってしまった。

ジャパンマネーを日本に呼び戻すと
世界規模の悲劇が起こる……!?
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 今後、黒子、つまり日本円の動きが変わってくることはあるんでしょうか。例えば出稼ぎをやめて日本に戻ってくるとか。

 ジャパンマネーが出稼ぎばっかりするのをやめて、国内での投資が活発になれば、雇用も増えますよね。そういう恰好で、日本経済が上手く回りだすようになれば、輸入需要も増えますから、日本の大幅な対外黒字も是正されていくことになります。アメリカからものを買えば、アメリカの双子の赤字(※7)なんかも是正されてきて、世界全体のバランスがましになってくるはずです。今の世界経済を見ると資金がものすごく偏在している。それをバランスよくするためには、ジャパンマネーが里帰りしなくてはいけないんですね。

 海外で出稼ぎしている日本円を上手に呼び戻せば、日本の経済の活性化につながるということですね。でも、今回の参院選関連の報道を見ていると政治家が消費税どうするとか、年金とか格差とか言ってるんですが、あんまり金利についての話だとか、日本経済の成長パターンをどう考えるか、という話は聞かなかったような。

 それはもう、こういったことは政治家のみなさんの認識の体系の外にあるんでしょうね。せいぜい「ハゲタカファンドは追い出しましょう!」という程度ですから。

 まともに金利がつくようであれば、ジャパンマネーはジャパンのなかに留まって、健全なかたちで世界経済に貢献できる。それなのに、金利を上げるのってそんなに難しいんですか?


 たしかに金利を上げて、そういう形に持って行きたいところなのですが、でもそこから先が『キャッチ=22』(※8)というか、あちらを立てればこちらが立たず、で、身動きがとれない状態なんです。もうどっちに進んでも(低金利でも、金利を上げても)勝ち目はないというか。

 それはどうしてですか?

 たしかに金利は上がらなくてはいけないんですが、金利が上がるとわかったとたんに、世界中に出稼ぎに出ているジャパンマネーが、97年のアジア通貨危機のときのように、どわーーーっと里帰りしてきてしまう。そうすると、今度は世界中にジャパンマネーが出ていってますから、アジアのみならず、世界中で経済危機が起きてしまう。正常な姿に戻りたいんだけど、戻す流れが確実なものになったとたんに、悲劇をもたらしてしまう。

 ああ! 難しいですね……。そりゃあ、通貨危機なんて起きないほうがいいと思うんですが。でも緩やかにジャパンマネーを里帰りさせることって不可能なんでしょうか。

 先日の上海の暴落のときもそうでしたけど、あれも、まあ、めぐりめぐってジャパンマネーの里帰りに絡んでいたわけですが、事実上0に近い金利がほんの少し上がりそうだというだけで、あの騒ぎだったわけですから、なかなかこういう調節を行うのは難しい。誰でも損する前に逃げ出したいですからね。そうなったらもう「われ先に!」ですから。
寝ても覚めても悪夢!な危機シナリオ
それを考えるべき人物は誰かというと
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 では、ソフトランディングはあきらめて、通貨危機は必ず起こると想定して、危機対応を考えるしかないんでしょうか。

 そうですね。もう言ってみれば金融危機って地震のようなものですから。怖いからといって、最悪の自体から目を背けていると、最悪よりももっと最悪の状態になってしまう。

 新潟の地震の、東電の柏崎刈羽原発の地震被害、とか!

 だから、もっとスケールの大きな地震にあったらどうするか、もっとスケールの大きい暴落になったらどうするかということを、日頃から寝ても覚めても考えている必要がある。悪夢のシナリオを考えておくべし、ということですね。備えあれば憂い無しですから。

 悪夢シナリオを考えるのは、やはりIMF(※9)の役割ですか?

 IMFとか、国際決済銀行(※10)とか、各国の中央銀行だとか、ですね。いちばんいいのは、各国の中央銀行の総裁が“内緒で”集まるのがいいでしょう。大蔵省にも口を出されないように誰にも内緒で。それで、本音の危機対応シナリオを考えるんです。暴落が起きたときにはパッと連携できるような連絡網も用意して。

 なーーるーーほーーどーー。でも内緒で中央銀行の総裁が集まる、というのは難しそうです(汗)。どうすればいいんでしょう。うーん、では、えっとこの場を借りて言ってみます。「各国の中央銀行総裁のみなさん! ぜひ“内緒で”集まって、真剣に通貨危機の最悪の悪夢シナリオについて考えてくださーい。cafeglobeユーザーの皆さんは、自分のお金が世界中でどんな風に巡ってるのかイメージしてみてくださいね」。

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
用語説明

(※1)
【アジア通貨危機】
1997年夏、変動相場制の導入が要因となりタイバーツが急落した。連鎖するようにしてインドネシアや韓国などで通貨が暴落。IMFが支援に乗り出したが、金融機関や企業破たんが相次ぐ経済混乱に陥った。ヘッジファンドなどの投機筋が一斉にアジア諸国から短期資金を引き揚げたのが要因とされる。

(※2)
【キャリートレード】
国際的にみて低金利である通貨を借入れ、それをより高い利回りとなる外国の通貨、あるいは外国の通貨建ての株式、債券などで運用して「利ざや」を稼ぐ行為。内外のヘッジファンドのほか、最近では外国為替証拠金取引(FX)などでこの取引を行う個人投資家も増えている。

(※3)
【ドルペッグ制】
為替政策のひとつ。自国の通貨レートをドルに連動させる固定為替制度のこと。ドルに対しての為替レートは安定し、貿易や投資を円滑に行うことができる。一般的に、経済基盤の弱い国・不安定な国が自国の通貨レートを、経済的に関係の深い大国アメリカの通貨と連動させる場合が多い。

(※4)
【ゼロ金利政策】
日銀が99年から06年にかけてとった金融政策。短期の銀行間の資金の貸借りの金利を実質ゼロに近づけるというもの。

(※5)
【基軸通貨】
世界各国の通貨のうち、国家間の決済などで中心的な地位を占める通貨。各国の対外支払い準備として広く保有される。かつては、金との交換が保証されたドルが基軸通貨と定義された。

(※6)
【量的緩和】
量的金融緩和政策。日銀が01年3月から06年3月にかけて行った金融政策。短期金融市場にマネーを大量供給し、マネー全体を絶対的な量の側面からコントロールしようというもの。

(※7)
【双子の赤字】
Twin deficit。アメリカ合衆国において莫大な貿易赤字(経常赤字)と財政赤字が並存することを指す。

(※8)
【キャッチ=22】
キャッチ トゥエンティトゥー。ジョーゼフ・ヘラーが1961年に発表した小説。原題は "CATCH-22"。第二次世界大戦中のイタリアの小島が舞台。同小説中に登場する軍規22項は「狂気に陥ったものは自ら請願すれば除隊できる。ただし、自分の狂気を意識できる程度ではまだ狂っているとは認められない」とされており、これにちなんで、英語圏では「にっちもさっちもいかない状況」「パラドキシカルな状況」を「キャッチ=22」と呼ぶことがある。

(※9)
【IMF】
International Monetary Fund(国際通貨基金)。前回の記事を参照

(※10)
【国際決済銀行】
中央銀行間の通貨売買(決済)や預金の受け入れなどを業務としている組織。「中央銀行の中央銀行」などと呼ばれる。略称はBIS(Bank for International Settlements)。

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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)

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