カフェグローブvol.44 ブルドックソースをじーっと見て見えてきたもの - 浜矩子のお金の正体の話

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更新日:2007年8月15日
日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.44 ブルドックソースをじーっと見て見えてきたもの
我が家のキッチンにもブルドックマーク入りのソースがあります。ソースのボトルをじーっと見ても原材料くらいしかわかりませんが、ブルドックソースのニュースをていねいに見る事で、日本の経済の未来が見える!かもしれません。

村上ファンド前代表に実刑判決
そしてブルドックソース対ハゲタカの行方……
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Cafeglobe(以下C) 毎日暑いところに暑苦しい話題で恐縮ですが、先月、村上ファンドの村上前代表が、ニッポン放送株のインサイダー取引事件で証券取引法違反の罪に問われ、懲役2年の実刑判決を受けました。

浜さん(以下H) あれはもう身から出た錆です。当然の結果でしょう。

 また、米ファンドのスティール・パートナーズに敵対的買収をしかけられたブルドックソースの買収防衛策を裁判所が認めました(※1)よね。アクティビスト・ファンド(※2)と司法をめぐる報道が注目を集めているような気がします。

 ええ。しかし、これらのケースを同列に論じてしまってはいけませんね! そもそも、ブルドックソースに関する判決と、村上ファンドに関する判決は全然性格が違います。村上ファンドの方は、インサイダー取引という、違法行為が争点だった。それを受けての判断を問われ、裁判所が実刑判決を下したという経緯です。一方、ブルドックソースの敵対的買収問題については、スティール・パートナーズ側の行動に違法性があったかかどうかが問われたわけではありません。ブルドック側の自己防衛行動に対するスティール・パートナーズの異議を受けての裁判です。誰が誰をどのような観点から訴えているのか、という意味で、この2つの裁判は全く性格が違います。ですから、これらを単純に比較して議論するわけにはいきません。

 ……そうでした。しかも、勝手に、あたかもスティール・パートナーズが裁判所に裁かれているような印象を抱いていました。

 ブルドックソース対スティール・パートナーズの件で、司法の判断の対象になっているのは、スティール・パートナーズの行動ではなくて、あくまで、ブルドックソースの買収防衛策です。こういうところを混同しないで議論をすすめなくてはいけませんよ。主語が一体誰なのか、ということをはっきりと認識している必要があります。

 は、はい。表面的なところを見て、漠然と「日本の司法はアクティビスト・ファンドに厳しいんだな」という程度の理解でした。

 それぞれのケースが抱えている問題をきちんととらえなくてはいけませんね。状況を正しく理解した上で、日本の司法とアクティビスト・ファンドについて改めて考えてみると、どうなるか。スティール・パートナーズ的な行動に対して、日本の企業や司法がガードを固くするということが意味するところは何か、その背後に何があるのか、というあたりが追求してみるべきポイントになりそうですね。

東京高裁は余計なお世話?
スティールは本当に悪者なのか
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 ええと、私がちょっと変だな、と思ったのが、東京高裁は、スティール・パートナーズを指して「成功報酬の動機付けに支えられ、それを最優先」「ひたすら自らの利益を追求」と表現し、「短中期的に株式転売を目指す濫用的買収者」であると認定しています。でも、「自らの利益を追求」するのは、企業であれば当然のことなのではないでしょうか。利益を追求しちゃダメ、って言われたら商売にならないのでは。

 そうですね。東京高裁の言い方はどうもちょっと余計なお世話に聞こえますよね。最高裁の段階では、“濫用的”という言葉ははずされましたから、やはり、ちょっと余計に踏み込み過ぎた、という判断が働いたのではないでしょうか。司法判断らしい中立性を保とうとする姿勢が出ていたように思います。ただ、東京高裁的感覚がそれなりに日本のコンセンサスである側面はあるのかもしれませんね。

はい。これはどういうことなんでしょうか。日本はやはり閉鎖的、ということになるんでしょうか。

 なかなか難しい問題ではありますね。投資ファンドというものは、ファンドとしての利益を追求していくのが仕事です。それが商売ですから、それがけしからんと言われては立つ瀬がない面がある。商売が成り立たないということになります。そういう商売の仕方そのものを「濫用的」といってしまえばそれまででしょうが、それはやはりちょっと乱暴でしょう。食うか食われるかの市場経済ジャングルには色んな生き物が存在する。おとなしい生き物たち、礼儀正しい生き物たちしか存在することを許されない、という理屈は通用しない。この点はやはりある程度まで覚悟しておかなければいけないだろうと思います。食われないような自助努力もやはり必要です。

 食うか食われるか、というとなんだか穏やかじゃないイメージですが。


 いえ、そう大げさに考える話でもないと思いますよ。例えて言うなら、弱いもの同士、仲良しこよしで草野球をやって、そこで無敵を誇っていても本当の実力は判らない。で、ある日メジャーリーグでプレーする日がやってきて、その時に「ルールを変えてください、ハンディキャップを下さい」と言ってもそれは通用しない。そういう話だと思うんですよね。

 ふと思ったのですが、買収などというのは案外フツウというか、それほど興奮するほどの話でもないんですね。では、ブルドックソースの件が注目を集めたのはどうしてですか? みんな、あのソースのロゴマークに見覚えがあって愛着があったから……なんてことはないですよね。

 ブルドックソースはむしろ関東ローカルな面があるようですよ。知名度の問題よりも、むしろあまり派手さや今日性がなくて、実直・ひたむきにやってきた典型的な日本の中堅中小企業に対して、スティール・パートナーズといういかにも今風・ハゲタカ風な投資ファンドが襲い掛かった。この対照の妙に非常にドラマ性があって世間の注目を浴びたということではないでしょうか。小説のような本当の話というか。

 以前、三角合併やハゲタカファンドの話題のときに出た、例のNHKのドラマ『ハゲタカ』みたいですね。
大切なのは個別の事例をきめ細かく見ること
個人も企業もメディアも、注意深く、正確に
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 また、このケースではブルドックソースは、いわば手切れ金でけりをつけようとして、21億1400万円も支払うわけですよね。現金を払うから、TOBはやめてね。と。このために借金までするということですから、これが企業価値を毀損していないと言えるのかどうか。このような形で企業の将来に不安を残すようなことをやるのが本当にいいのか、株主に対する誠意ある対応だといえるのか、という問題も出てきます。なかなか面白い、判断の難しい事例です。ビジネススクールのケーススタディの材料になりそうですね。ブルドックソースがもっとグローバル化した大企業だったらどういう対応をするだろう、とか。今後出てくる事例を考える上で色んな問題を提起していると思います。

 なるほど。ある種わかりやすい例、ということですか。

 いずれにせよ、気をつけておかなくてはいけないのは、「こういうことでビビってるから日本の企業はダメなんだ」とか、「こんなことでビクビクしているから日本に永遠に文明開化はない」と決めつけたり、投資ファンドはあらゆる場合に諸悪の根源だと断言したり、というような具合に、十把一絡げにしてこの種の問題を議論をしてはいけない、ということだと思います。

 個別のケースをそれぞれ判定できる鑑定眼を持たなくてはいけないということですね。

 そうです。一般市民も経営者も、ビジネススクールの先生たちも学生も、もちろんメディアも。ある意見に対して、例えばメディアや財界が揃って同じような反応を示すなどという今の傾向は非常に危険だと思います。

 違法行為は違法行為、正当な利益追求は正当な利益追求で、きちんとケースバイケースで見分けられなくてはいけない。

 ええ。これらのケースはそういうようなことをわれわれに問いかけているようにも思えます。裁判所の判断が行き過ぎていると感じるのなら、一体どこがどう行き過ぎているのか。ひとつひとつ、きめ細かに物事を見る眼を形成することが求められている、ということです。

 木を見て森を見ずになってもいけないし、森ばっかり見て木の種類が全然わかっていないのもダメですね……。鑑定眼トレーニング、頑張ります。正確に、きめ細かく、ですね。簡単にひとつの方向に流されないように注意します。
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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
用語説明

(※1)
【ブルドックソースの買収防衛策を裁判所が認めた】
2007年5月16日、米系投資ファンド、スティール・パートナーズが、ソースメーカーのブルドックソースに対して、全株取得に向けてTOBを行うと発表。5月18日にスティール側が5月14日以前1ヶ月平均の株価に約20パーセントのプレミアムを付けた価額で全株取得に向けたTOBを開始。同社取締役会はTOBに反対し、新株予約権割り当てを軸とする対抗策をとった。これに対し、6月12日にスティール・パートナーズ代表のウォーレン・リヒテンシュタインが記者会見を行い「敵対的買収ではない」と否定。新株予約権割り当ての対抗策は株主総会で承認され、スティールは東京地方裁判所に対し新株予約権の差止めを求めたが却下、東京高等裁判所に即時抗告を行ったが7月9日抗告を棄却された。スティールは、これを受け最高裁判所に特別抗告・許可抗告したが、いずれも棄却された。

(※2)
【アクティビスト・ファンド】
いわゆる、「モノを言う投資家」という言葉で表現される投資ファンドを指す。株式の値上がりや配当から生じる利益を待つだけではなく、企業価値向上のための積極的に活動を行う。

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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)

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