カフェグローブvol.54 グローバルインフレは解消の鍵はいずこに? - 浜矩子のお金の正体の話

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更新日:2008年2月4日
日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.54 グローバルインフレは解消の鍵はいずこに?
グローバルインフレという言葉をよく耳にします。ところで、インフレって物価が上がることだと思ってませんでした? いえいえ実はそうじゃなくて……と考えるところから、色んなことがわかってきます。

グローバルインフレを考える
インフレ=物価高ではありません!!
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Cafeglobe(以下C)   今回は「グローバルインフレ」の問題についてうかがおうと思います。『ビッグイシュー』のコラムでは、「インフレ=物価高の思いこみは我々の目を曇らせる」とおっしゃっています。基本のキですが、インフレとはそもそもどういうことなのでしょう。

浜さん(以下H)  インフレーションとは文字通り、膨張現象です。この記事で私が言いたかったのは、「物価が上がっていないからといってインフレではないと思ってはいけない」ということです。

C   え! インフレというのは物価が上昇することではないんですか?

H  いえ、ですからそれが誤解だということでしてね。物価上昇はあくまで結果であって、物価上昇それ自体がインフレということではないんです。

C  そこがいまいち理解できないんです……。

H  インフレーションという言葉の意味は膨張。ですから、インフレというのは風船がふくらむように経済がぶわーっと膨らんでいるということです。経済がインフレ化していても、物価は上がらないという場合がもりますよ。例えば政府によって物価が統制されているケースです。この場合には、経済が過熱していてインフレ状態であっても、物価は上がらないわけです。中国などが良い例で、生活物資の価格が値上がりしないように部分的な価格統制を始めています。70年代のアメリカなどもインフレ経済であったのにもかかわらず、物価や賃金の上昇を政策によって押さえ込んでいました。つまり、経済統制という民主主義的ではないやりかたによって「インフレなのにインフレじゃない、と思わされてしまう場合がある」ということです。

C  物価が上がってなければ問題ナシ、じゃないんですね。インフレ=物価高、と思いこんでました。ということは、考え過ぎかもしれませんが、日本なんて食料自給率が低いうえに、この原油高、原料高なわけですから、お豆腐の値段もお菓子の値段ももっと上がっていてもおかしくないってことでしょうか。

H  ええ、そういうことも考えられます。行政指導などと言ったかたちで「今は値上げは我慢してくれ」と言われているケースもあるかもしれません。日本の場合、今はまだそこまでは行っていないだろうと思いますが、このまま行けばそんなことが始まる場面もあるかもしれませんね。今の日本の場合には、むしろ、売り上げが落ちるのを恐れた企業の「自主規制」が物価の上昇をある程度押さえ込んでいる面がありそうです。小売り業者か、卸売業者か、生産者か、いずれにせよ、どこかに我慢を強いられている人がいるということでしょう。本当はインフレなのに、隠蔽されている。そういう状況があるということです。グローバルインフレというものが、これだけ我々に痛みをもたらすテーマになってきているわけですから、インフレとは本来何かということをきちんと理解しておく必要がありますね。

C  なるほど。ようやく意味が理解できました。では、このグローバルインフレを引き起こしている理由とは何でしょうか。これまた基礎知識ではありますが、インフレが起こる理由を教えてください。

H  インフレの原因は3つありまして。1つ目は需要超過。2つ目は、コストプッシュ。3つ目は金余りですね。1つ目の、需要が供給を大きく上回るというのは、今の中国やインドように伸び盛りで原油や資源をまさに「がぶ飲み」する存在が出現することで発生する現象です。です。需要に供給が追いついていないですよね。2つ目のコストプッシュは生産コストが上昇することに突き上げられて製品の価格が上がること。今の日本などがこういった状況に置かれています。3つ目の金余り、は読んで字のごとく。おカネが有り余るほど世の中で出回ってオーバーフロー状態になり、行き場を求めてやたらとモノを買ったり、土地や不動産をバンバン買ってしまったりするということです。このような形で発生するインフレを過剰流動性インフレと言ったりします。流動性すなわちカネが過剰状態になることで起こるインフレという意味です。

C  その3つが、今世界に存在しているということでしょうか。

H  ええ。まさにインフレ要因揃い踏みというのが今の状態です。

C  私たちもすでに巻き込まれているんですね。インフレが何だかわからないと言っている場合ではないですね。

H  先日話題に上がった「ねじれ国会」という言葉がもたらす思い込みもそうですが、「インフレ=物価高」という思い込みから離れると、世界が置かれている状況が見えてくる、ということです。眼を曇らされていてはいけませんよ。

日本に必要なのは経済拡大じゃないかも
じゃ、何が必要なのかと言うと……
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C   先月18日に通常国会が召集され、大田弘子経済財政担当大臣が経済演説を行いました。「2006年の世界の総所得にしめる日本の割合は24年ぶりに10パーセントを割り、GDP(国内総生産)はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で18位に低下……」「もはや日本は経済は一流と呼ばれる状況ではない」と言っていました。経済は一流じゃないって、どういう意味なんだろうと思ったのですが。

H  うーん。あまり意味はないですね。ただ、なんでそういうことを言うんだろうという魂胆を考えると、要はハッパをかけて生産性を上げよう、国際競争力を高めよう、ということなんでしょうね。でも、世界の所得のなかで何パーセントを占めていようがいまいが、人々がハッピーならそれでいいじゃないかと私は思いますが。

C  確かに。大田大臣は成長力を強化する対策を3つ挙げていました。「海外との連携の加速」「サービス業へのIT導入や異業種協力による生産性の向上」「子育て後の女性やフリーターの職業訓練」の3つです。え、当たり前じゃん??というかこの位のことはもうやってるのでは?と思ってしまったのですが。

H  当たり前すぎますね。当たり前過ぎますし、今、日本が当面している経済問題・社会問題からどうも焦点がずれている気がします。年金を貰えない人はどうすればいい? 地方の限界集落の人はどうなるんですか? と問いたくなりますねぇ。若くて未熟な経済が伸びていこうというときはこれでもいいと思いますが、それなりに成熟度を持っていてすでにくたびれかけている日本のような国の場合は、くたびれを乗り越えていくというか、くたびれつつもみんなでハッピーにやっていけるためには何をすれば良いのかを考えなくては。全体が成長すれば、貧困も解消されるという言い分なんでしょうけど。そもそも、これだけ成長しきった経済ですから、これから先、なお4パーセントも5パーセントも成長するなどということは難しいでしょう。

C  では、経済的にガンガン成長するというよりは、病人が病院をたらいまわしにされるような状況とか、破綻した年金問題だとか、そういった社会のほころびを繕うほうが先ということでしょうか?

H  そうですね。これだけ豊かさのレベルが高まっているのに、人々が不幸だと感じているのはどういうことなのかと考えて欲しい。政策立案者には、人の痛みを自分の痛みとして考えてもらわなくては困りますよ。ある程度豊かであれば、成長していなくても幸福な社会というは存在し得ると思いますよ。サービス業の質の向上ということひとつとっても、単にIT導入、ではなくて、例えば何もわからない人でもすんなり医療サービスを受けられるような、きめ細やかさが必要だと思います。成長さえすればOKという状況ではないと思いますよ。今の日本は。

アメリカの景気対策はもしかして
ブッシュのパフォーマンス!かも
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C   アメリカが景気対策をやっているというニュースを目にします。 16兆円規模で減税&金融緩和を行うということなんですが、果たして効果はあるんでしょうか。

H  今のやりかたでアメリカの経済が回復するかというと、ほとんどその見込みはないですねぇ。減税しても、今のような状況では、そういうカネがまたサブプライムローン問題のような現象を呼ぶといったことにもつながりかねない。信用不安のネタを拡大するということにもなりかねません。金融を緩和するということは、つまりカネのばらまきですから。

C   でも、減税でサブプライムローンで泣かされた低所得者層の人が少し楽になるとか?

H  いえいえ。完全に信用を失っている人にとっては減税は意味のないことです。例えば飲み屋が客に対して「あいつは支払い悪いし、ツケもためるからもう出入り禁止だ!」と決めたとするでしょ。一旦完全に出入り禁止になっちゃった人にとっては、飲み屋が半額サービスやろうが、お金を持たされようが、もう店には入れない、酒は飲めないわけですよ。だから、お金を借りられないって決まっている人にとっては、減税は何の足しにもならない。世界のカネあまり状況が助長されるだけです。こういうばらまきというか、雑駁なやり方では百害あって一利なしだと思いますね。

C   でも、雑駁なやり方以外に打ち手がなかったってことでしょうか。

H  対策を講じている、何かやっている、という恰好をしたいという側面もあるでしょうね。水面下では個別的な救済対策なども講じているのかもしれませんが、まずは、見えるところでのパフォーマンスを前面に出すというのがアメリカらしいところです。

C   なにかやってるようには確かに見えますね。では、アメリカは問題を解決するために何をすればいいんでしょうか。

H  アメリカだけでは解決できませんよ。このグローバルインフレ状況、金融市場の混乱をどう丸く収めるか、それは世界中みんなで考えていかないと。

C  はい。私たちもインフレって何とか言ってないで、世界経済をまわしてる一員として、ちゃんと考えなくてはいけませんね。はい。

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)

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