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更新日:2008年3月25日 RSS

日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.57 生き残りをかけて右往左往。ヨーロッパ小国の今
コソボ共和国が独立宣言を発し、分離独立に関するニュースを目にするこのごろ。今回は生き残りをかけて逞しく立ち回るヨーロッパの小国に注目しました! EUに加盟? ロシアの後ろ盾を得る? 大国にケンカを売る? それぞれがそれぞれに個性的です。

大国ドイツにけんか腰!?
ぴりりと辛いリヒテンシュタインの場合
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Cafeglobe(以下C)   まずは大国ドイツとにらみ合っているリヒテンシュタイン。リヒテンシュタインは、外国企業に対して税制上の優遇措置をとっている、いわゆるタックス・ヘイブンです。このリヒテンシュタインの銀行の顧客情報を、ドイツやイギリスが手に入れて脱税疑惑者の捜査に乗り出している。しかし、徹底して銀行の顧客情報とその資産を保護する!というリヒテンシュタインの姿勢に、ドイツも手を焼いているようです。私などは、タックス・ヘイブンと聞くと、やっぱり「マネーロンダリング」とか「脱税」とかダークなイメージを抱いてしまうんですが。

浜さん(以下H)   確かにダークな側面はありますが、タックス・ヘイブンは小国が生き残って行くためのひとつの方便ではあります。一概に糾弾するのは、無粋というものでしょう。要は、ダークサイドに堕ちることなく悪の誘惑に負けないようにしながら、どこまで上手に租税回避地としてうまくやっていけるか、ということでしょう。その腕前が問われるということです。グローバル時代においては、危ない橋を渡りながらも生きながらえて行く逞しさが必要なので、このコバンザメ式生き残り術も悪くはないでしょう。

C  日本は今、日銀の総裁が空席!とかいう事態で、どうも隙だらけな感じがしますが。

H   ええ。本当に隙だらけで。日本に住む我々もひとりひとりが、小粒でぴりりと辛いリヒテンシュタインとなって、時には悪知恵も働かせて生きて行けば面白くなるかもしれません。素直さや優しさを失うということではなく、これらの個性としたたかさを両立させることこそが成熟だと思います。リヒテンシュタインは大国ドイツのプレッシャーに屈せず、逆に顧客の情報を漏洩させた者の摘発への協力をドイツに迫っている。かえってドイツがたじろいでいるぐらいで、圧力に屈しないその心意気や良し、といったところでしょうか。

分裂の危機!二ヶ国語で二層社会
意外に深刻なベルギーの場合
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C   なるほど。日本もちょいワルくらいを目指したほうが良さそうですね。次は分裂の危機?と言われているベルギーなんですが、ベルギーってGDPも高いですし、何の問題もないリッチな国だと思っていました。が、去年から政府が空洞化しているということですがどうしてなんですか?

H   リヒテンシュタインがちょいワルなら、ベルギーはちょいクレイジーといったところでしょうか。それはさておき、ベルギーは昨年の6月以来、まともな中央政府が存在しないという状況で、目下、暫定政権が国政運営にあたっている。日常業務はできるけど、突発的に事件が起きたときに、当事者能力を持って政策を打ち出せる人がいないという状態です。ベルギーは「一国二民族の国」なんですよ。北のフランドルはオランダ系、南のワロニアはフランス系。それぞれオランダ語、フランス語を話します。ひとつの政党のなかにも決まってフランドル派とワロン派がいるし、教育も行政もすべてフランドルとワロンの2セットずつある。だからエイプリルフールにはお約束のようにワロンとフランドルが袂を分かってベルギーが「分裂した」というニュースが流されるくらいです。分裂せずに今日まで続いてきたのは、ワロンはフランスに、フランドルはオランダに吸収されたくない!という事情があったから、という面があるでしょうね。その思いを求心力に何とか支え合ってここまできた。

C   これまで支え合って来たのに、今になって「熟年離婚」みたいになってしまっている理由は何なんでしょうか?

H   富める者と貧しき者、経済格差の問題がありますね。南のワロン地方はかつて鉄鋼業で栄えた。しかし今はすっかり斜陽化していて、財政は悪化している。失業率も高い。かたや北のフランドル地方は、港もあるし、アントワープの石油化学工業や貿易、サービス業ダイヤモンド取引などで栄えている。だから、栄える北に対し、不況の南という構図があるわけです。フランドルにしてみれば、なんでワロンの財政が悪化している分までフォローしなきゃいけないんだ、ってことになり、ワロン地方にしてみれば、経済的に潤っているところにしがみついていたくはあるものの、二流市民扱いはされたくないという複雑な思いがある。

コソボ独立はどうなる?
東欧各国の場合
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C   では、コソボ、セルビアのあたりはどうなんでしょうか。コソボ共和国の独立宣言が発表されましたが、EUに加盟していなくて、EUとロシアに挟まれたようなエリアは今後どう変化していくのでしょう。ロシアと仲良くして子分でいよう、とか、EUに加盟したい、とかいろいろあると思うんですが。

H   どちらかというとロシア追随的な選択をしているのは旧ソ連、ベラルーシあたりでしょうね。でも日本の幕末のような感じでみんながみんな右往左往しているというのが実情で、タイプ分けはなかなか難しい。グルジアはもともと脱ロシア傘下の気運が強い。ですが、ある時は面従腹背せざるを得ない。いずれにせよ、問題が複雑になるのは、1つの国の中に多数の民族が混在している場合ですね。そのような状況を殖民政策などで強制的・人為的に作り出した歴史があると、一段と問題は錯綜することになります。それに加えて、ロシア自身の焦りの問題もありますね。自信満々のように見えますが、実は勢力圏が、どんどん足元から崩れていくことに関する脅威の念は強いはずです。その懸念が強まれば強まるほど、強権的で独裁的な動きが前面に出ることになってしまう。

C   ロシアなんて資源も豊富だし、そんなに焦る必要があるのかな、なんて思うんですが。

H   歴史的に見ても、古代から現在にいたるまで「去る者は追わず、来る者は拒まず」と言えた国があったかというと、それはない。そこを超えて行く事ができるかどうか、というのが、これからの世界の課題だと思います。漁獲資源や天然資源の取り合いが国境争いの原因になっている場合もありますが、例えそうでなくても、陣地争いと囲い込みはどうも人間の性癖のようですね。それをなぜだろう、と感じて疑問を提示する感受性を持つ人が増えたほうがいいでしょうね。

C   ええ。北方領土だって、どっちのものになっても別にいいじゃん、て。コソボだって独立させてあげればいいし、チベットだってチベット人が自治すればそれでいいじゃん……なんて思ってしまいます。

H   そうですね。ただ、外からみれば簡単そうな和解がそううまくいかないには、当事者たちの積年の痛みが恨み辛み、疑心暗鬼がありますからね。そこは十分に理解した上じゃないと、「別にいいじゃん」という言い方は外野の無責任発言だと受け止められてしまう。逆にあまり内部事情を知ってしまうと「別にいいじゃん」とは片付け難くなる。こうした厄介さを乗り越えて、説得力ある和解の呼びかけをしていく必要があるんだと思います。ま、それはそれとして、ひょっとしたら、日本だっていつか九州や北海道が独立、なんてことがあるかもしれない。北海道国なんて、日本とロシアの間を上手く取り持ってくれるかもしれませんよ。

C   九州国なんてそれこそ小粒でぴりりと辛そうですね。去る者を追わず、お互いを尊重……できるようになりたいです。本当に。

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)