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更新日:2008年4月7日 RSS

日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.58 統計から見えてくる日本のこれから
新聞などで国内総生産(GDP)なんてよく目にしますよね。伸びてれば経済成長してるってことかな、という程度の理解でした。でも、立ち止まってよく見てみると今の日本の状況がよく見えてくるんです。

GNPは国内総生産でしょ……
基本事項をまずはおさらい
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Cafeglobe(以下C)   今回は、日本の国民所得が国内総生産(GDP)を下回った……という話題です。ええと、漢字の字面も似てるし、どれが何を指すのか混乱してしまいます(汗)。

浜さん(以下H)   こういった統計なども、ときにはストリートワイズなエコノミクスを考えるうえで、有効なツールになるのではないかと思いますよ。国民所得と、国内総生産。ポイントは「国内」と「国民」の部分で、それが指し示すところは明らかに違います。

C   基本的なことですが、ざっくりとそれぞれの指す内容をお願いします。

H   まず国内総生産ですが、個人も法人もひっくるめて、日本国内には日本人だけではなく外国人もいる。日本人でも外国人でも誰が稼ごうと“日本国内”での経済活動で産み出した価値は「国内総生産」にカウントされます。国民所得は、逆に、国内にいようが、海外にいようが、“日本人”が行った経済活動が産み出した所得の合計です。

国民所得<国内総生産ってどういう状況?
稼いでもモノが買えないとはこれいかに
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C   なるほど。では国民所得が国内総生産を下回ったという事実は一体どんなことを表しているのでしょうか。

H   日本の場合、1990年ごろから次第に国民所得が国内総生産を上回るようになりつつありました。日本企業の海外進出が進んで、海外でカネを稼ぐ日本人や日本企業が増えたためです。これが成熟資本主義国のひとつのスタイルです。日本も20世紀末になってようやくそういう段階に入ったということですね。ところが、今度は国民所得が国内生産を下回ったわけですから、ここに来て今までの流れに異変が生じたということになりますね。

C   なぜ、今日本はこういう状況になっているんですか?

H   海外に出た稼ぎ手たちは今でも頑張っています。ところが、一方で輸入品の値段が上がりすぎているために、差し引きしたときの海外からの「純収入」が小さくなってしまったのです。原油価格の高騰などが原因となり、輸入品の値段が上がっているのはご承知の通りですよね。輸入品の値段が上がるということは、要するに同じ輸入品を買うために、今までよりもお金がたくさん必要になるということです。つまり、今までと同じ生活水準を保つために、よりコストがかかるわけですよね。100円で買っていた食品だって120円出さなきゃ買えなくなってしまう。要するに、輸出や利子収入などで海外から入ってくる所得は増えているけれども、それを上回る勢いで輸入品購入のための支払いで海外に所得が出て行ってしまうようになった。だから差し引きで見た「純収入」が減ってしまっているのです。

C   それは、一般家庭のレベルで言えばやはり生活がキツくなっているということでしょうか。ということは「国民所得<国内総生産」な状況って、私たちにとっては生活キツくなるよー、貧乏になるんだよーということをあらわしているんですか?

H   いえ、必ずしもそうとは言えません。国民所得は小さくても、国内総生産が大きければ、それだけ国内で行われる経済活動が活発なわけですから、その恩恵に浴している人にとっては、貧乏になったという感じにはなりません。例えば、外資系企業の工場で働いている人であれば、その工場の稼働率が高いことで自分の収入もふえることになるわけですし。そこが国民経済全体(=マクロ)と個別経済(=ミクロ)でみた場合の違いです。ただ、国民所得が国内生産を下回る、というのは、あまり先進国的なスタイルではありません。国内のインフラがそれなりに整ってしまった成熟経済であれば、国内の生産活動の伸びには限界がある。その代わりに、資本力や技術力を駆使する自国民たちが、海外に出て行ってガンガン稼いでくるから、国民所得が国内総生産を上回る、というのが普通のパターンでしょう。それに、輸入品を買うのにお金がかかりすぎるから、差し引きで見ると国民所得が伸びにくいというのは、突き詰めて考えれば、自国通貨が過小評価されていることも意味していますね。1ドルのものを150円出さないと買えない場合と、50円で買える場合とを比べれば、後者の方が日本人の購買力はぐっと大きい。

C   円は過小評価されているんですか? このところ円高、円高と言われているのに。円高ということは人気があって買う人が多いということではないんでしょうか?

H   今の円高の理由はドルの人気がなくなったことで、円の人気が高まったからとは言い難いですよね。ですが、これまで円が相対的に過小評価でありすぎたということは確かです。一定の自国通貨でどれだけの輸入品が買えるのか、ということで考えると、円に対する評価はまだまだ上がっておかしくない。日本人がいくら一生懸命稼いでも、なかなか思うようにモノが買えない。というのは、いかにも非常に効率が悪い状態ですよね。

C   うーん、稼いでも稼いでもモノが買えないというのはなんだか辛い状況に思えるんですが、この状況を脱することは可能なんでしょうか?

H   脱する、という風に考えると難しいですね。要は今の日本のような成熟経済の場合、国民所得と国民総生産の関係はどの辺がいちばん効率的でバランスがいいか、という問題を考えてみる必要があるということになりますかね。

C   と言いますと?

H   豊かさを保つためのバランスの取り方ということです。日本国内で誰がどれだけのモノを作り出すのか。海外に出た日本人がどれだけの所得を稼ぎ出すとみんなで豊かになれるのか。為替レートはどれくらいの水準だと、輸出もまあまあ伸びるし、輸入品もそれなりに無理をせずに買えるのか。全ての面で理想的な状態が達成されたとき、国民所得と国内総生産の関係はどうなっていて、円相場はどれくらいの水準にあるのか。そんなことを計算するシュミレーション・ゲームなんかを考えてみたらどうでしょう。つまり、こういう統計なども、どういうスタイルが我々にとって良いのか、ということを考えるきっかけにすれば良いのではないでしょうか。

C   統計発表なんてイマイチ意味がわからなくてつい流してました。どういうこと? と考えると、色々見えてくる、確かに便利なツールなんですね。どうしてこうなってるんだろう、と考えるクセをつけたいと思います。

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)