カフェグローブvol.59 新銀行東京に必要だったものって? - 浜矩子のお金の正体の話

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更新日:2008年4月22日
日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.59 新銀行東京に必要だったものって?
税金で作って失敗して、さらに税金使って建て直しとは何ごとじゃー!! とご立腹の方も多いのではないかと思う、新銀行東京。が、ひょっとしたらノーベル賞級のステキなアイディアだったのにぃ、という意外な話。日銀新総裁ネタもあります!

こーなるはずじゃなかった!
“石原銀行”がダメだった理由は……
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Cafeglobe(以下C)   新銀行東京(※1)の話題です。なんと400億円も追加増資するのだそうですが、税金を使って作って、経営が行き詰まったからといってまた税金を使うのっ!? と、私は頭に来てしまいました。この金融機関が存在した意味ってあったんでしょうか?

浜さん(以下H)   どうでしょう。結果的には無かったんじゃないかという気がしますね。『ビッグイシュー』にも書きましたが、設立の主旨に関してはそれなりにまともなものがあったとは思うんです。

C   設立の主旨は、銀行におカネを借りられない中小企業やベンチャー企業に「担保なし」「保証人なし」でもおカネを貸しますよ、というものですよね。

H  ええ。「強きには目もくれず、弱きを助くヒーロー」を目指していたわけです。しかし、この主旨に合った成果をどのくらい上げたのかということについて、彼らは全然証拠を出していない。だから、我々としても本当のところどうだったのかはわからないわけですよ。「これだけ沢山の中小企業を救いました」「これだけのことをやって世の中の役に立っています」という証拠がないんですからね。

C  でも、石原知事が出してこないってことは証拠なんてないんじゃないかっていう気になっちゃうんですが?

H  わかりませんよ。しかし、出してこないということは、ない、と推測するほかないですよね。

C  そもそも銀行って、お金を持っているひとにはどんどん貸して、持ってない人というか、ベンチャーや中小企業にはなかなか貸さないものなんですよね。

H  ええ。英語では「銀行は、晴れてるときには傘を差し掛けてくれて、雨が降ったら引っ込める」なんて言います。

C  元々銀行ってそういう性質のものなのに、なんで石原知事は手を出したんだろうって思いました。確かに政治の視点で考えると「中小企業を救う」という公約はキャッチーだとは思いますが。どうして都が銀行を作ろう!ってことになっちゃったんでしょう?

H  誰かが彼に吹き込んだのかもしれません。「銀行ってそういうもんだけど、そうじゃない銀行を作ろう!」って。そのアイディア自体はハズレじゃないと思うんですよ。でも石原さんが金融というものが持っている難しさをわかっていなかった。だから、思いつきで飛びついてしまって赤字を出した、というようなことになっている。石原知事が金融業に特有の難しさ、つまり、お金を持ってる人にしか貸せない面があるというようなところを理解した上で、敢えてそうじゃないことをやる、という気概を持ってやっているのであれば、破綻が露呈した後も、もっと正当性を主張して論陣を張ったでしょうね。それができなくて尻尾巻いちゃってるところをみると、そもそも彼は問題の本質的な部分が理解できていなかったんだな、と思えますよね。

C  銀行を存続させよう、というのも、設立の理念を貫きたいというよりは、単にメンツを守りたいという風に見えてしまって。

H  今や民間の普通の銀行が、貸し先がなくなって一生懸命中小企業に貸そうとしている状態ですから。もう新銀行東京の役割は終わっていますよね。その辺をちゃんと解っていれば、こんなに赤字を出してどうするんだと言われたら、即座に「承知でやった、役目を終えたから撤廃する」と言えたはずです。しかし、そのあたりの事情も石原知事はわかっていないようですね。

C  設立された当初、つまり3年前の2005年は今とはまったく違う状況だったんですか?

H  2005年に設立という点を見ても、中小企業の需要ということを考えるとすでにだいぶ遅れていますよね。2005年といえば、不良債権問題も随分片付いてきて、2002年からはいわゆるいざなぎ景気と呼ばれる状態になってきていますからねぇ。まあ、これもまやかしの部分もあるわけですが

C   そうか。うーん、存在意義があったのかどうかはますます疑問です。しかし、その石原知事がわかっていなかった金融というものですが、面白いというか難しいですね。いいときにしか貸せない、悪いときには貸し剥がし……。

H  銀行がいいときにしか貸せないというのは一面正論です。銀行が倒産すれば預金者にも、貸し出し先にも多大な迷惑をかけますからね。反面、銀行が貸し渋ったり、貸し剥がしたりするばかりに、将来性がある企業や多くの従業員の生活の基盤になっている企業にカネが回らないというのは本末転倒もいいところ。そんなことをやっていて金融機関がその社会的責任を果たしているとはいえない。この微妙なバランスを取っていくことが実に難しい。このバランスをとるというのは非常に緊張感の高い仕事です。人格者でなくてはいけないのですが、時に冷酷にもならざるを得ない

C  基本的に金融に携わる人はまず人格者じゃなくていけないということですか? 冷酷、の部分はさておき。

H  基本的にそうですね。人格者でなくてはならない。そこが面白いところです。新銀行東京だって、面白い発想ではあったわけです。中小企業の大々的な救済を金融機関として本当に上手くやれていればかなりかっこ良かった。グラミン銀行(※2)なんて、あっと驚くようなやり方でカネがまわらないところにカネをまわしているじゃないですか。だから新銀行東京だって、ひょっとしたらノーベル賞ものだったかもしれない。発想は面白くなかったわけではないのに、やはり理解が浅くて姑息だったから、失敗してるわけですよね。

C   税金の無駄遣いするな!って怒ってるだけじゃなくて「もしかしたらノーベル賞級なのに、アホがやるとこうなるのかっ」ということに対しても怒らなくてはいかんわけですね。

政策通、と呼ばれる新総裁
白川さんってどんな人?
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C   金融とそれに携わる人の人格の問題が話題にあがりましたが、日銀の新総裁、白川さんってどんな人なんですか?

H  よくわかりませんね。と言いますか、メディアを見ていて気になるのは白川さんを評して、理論家だ、とか政策通だ、とか言ってるじゃないですか。あの言われ方がすごくおかしいな、と思うんです。日銀生え抜きで、総裁候補に上がってくるということは、政策通じゃないわけがない

C   白川さん、金融政策が趣味、だそうですね。

H  ええ、メディアのああいう言い方では、日銀には金融政策がわかっていない人がいっぱいいるということかな、ととれてしまう。そもそも政策決定者の候補になる人が金融政策に精通していないわけがないでしょう。となると、一体何が白川さんの特徴なのかがわからない。今までの人は政策通じゃなかったんですか、と言いたくなる。バーナンキがFRB(米国連邦準備制度理事会)(※3)議長になったときも、ジャン=クロード・トリシェが欧州中央銀行(※4)の総裁になったときも、政策通だということが特徴だなんて言われませんでしたからね。

C   もしかして、日本のメディアが金融とか経済といったトピックに対して理解が浅くて、こういう表現になってしまうのでしょうか?

H  いえ、それはおそらくメディアのせいではなくて、公的機関における人材の貧困……と言うと言い過ぎですが、なんて言うんでしょうね。それぞれの組織のなかでの切磋琢磨が足りないとでも言いましょうか。メディアは取材対象を映す鏡ですからね。ちょっと観点が変わりますが、日本の企業や組織には、能あるタカは爪隠すとか、人望で人を操ろうとか、そういう暗黙のルールのようなものがありますよね。とすると、ここで白川さんが理論家だと言われるということは、もしかすると、要するにそういう暗黙のルールを無視するタイプだとかいうことを表現しているのかもしれませんね。いずれにせよ、白川さんがどういう人なのかということは結局のところよくわかりませんが、彼を巡る一連の情報の伝えられ方のなかに、日本の組織風土の特徴のようなものがにじみ出ているような気がします

C   なるほど。しかし、限られた情報のなかから、いろんなことを考えることができるんですね。記事の読み方、捉え方という面で勉強になります。白川総裁の今後、ウォッチしていきたいと思います。

アメリカの景気がホントにヤバいらしい
だから今回のG7はひと味違う
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C   さて、4月2日、FRBのバーナンキ議長が、上下両院合同経済委員会で、アメリカが景気後退入りする可能性について触れました。えー、アメリカが景気悪くなりそうなんてみんな知ってたじゃんという気がするんですが「リセッション」(※5)という言葉をFRB議長が口に出すのはそんなに怖いことなんですか?

H  そうですね。めったにないですね。皆が恐れていることが現実になる、といいますか、中央銀行の総裁とか財務大臣とかいう人が言うことの重みはそれなりにありますから。それを承知ではっきり言っているということは「あいつ、あのとき言わなかった」とあとで責められるのを避けたかったということことかなと思います。リスキーな発言をするときには、言うか言わないかのいわば「損益分岐点」があって、言うと世間をお騒がせしてまずい場合と、リスクがあるからといって言わないままでいると社会的責任が果たせなくなる場合とがある。今回はそういう判断のギリギリのところまで来たということでしょう。

C   そのくらい、アメリカも世界もアメリカの景気後退を認識して政策決定していかなくてはマズいぞ。ということですか?

H  ええ。これがもしグリーンスパンだったらまだわけのわからない事を言ってひっぱるかもしれない。バーナンキさんは正直な人ですね。まあ、そのほうがいいと思いますけどね。IMFも世界経済見通しを下方修正して、世界レベルで金融安定化のための政府の介入が必要だと言っていますよね。グローバル金融市場に関していちばん多くの情報を持っていると思われる人たちが、これだけ警告を発していることによって、経済が本当に深刻な状況にあるということが裏付けられたと言えるでしょう。

C   つまり、以前おっしゃっていたようにいわゆる恐慌状態にあるってことでしょうか。バーナンキ議長がアメリカの景気後退入りについて明言したことによって、何か事態が変わったりするんですか?

H  変わるということはないでしょう。しかし、事実を公にし、状況が明らかになるというのは良いことです。

C   じゃ、これをふまえて、13日のG7(先進7ヶ国財務相・中央銀行総裁会議)(※6)では引き締まっていこう、がっつり相談しよう! みたいな感じになったんでしょうか?

H  引き締まるかどうかは別として、今回は民間の金融機関を呼んでいたのが大きなポイントですね。いまだかつてこんなことはなかったですよ。相当驚くべき事です。IMFも、バーナンキも放っておけば世界経済はダメになると言っている。既に符牒は合っているわけです。だから今回のG7では、民間の銀行に対して、あの銀行を買ってよ、とか、あの国富ファンド(※7)に資金繰りを頼んでみてよ、とか、そういった事まで話されているかもしれません。

C   つまり、個別の相当細かい問題まで踏み込んでネジを締め直さないとヤバいということですか?

H  なるべく税金を使わずに事態を回復させるために、あなたはこれを、あなたはこれをやってよ、と頼んでいる可能性はありますね。

C  そうなんですか! いやー、G7とか言って、並んで写真撮ってるだけじゃないんですね……。「世界経済の見通しは悪化している」って声明も発してますが、うーん、目が離せません。

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
用語説明
(※1)
【新銀行東京】
2003年に東京都知事石原慎太郎の選挙公約に基づいて設立が決定。2005年に開業した。開業以降、赤字決算が続き2007年11月の中間決算では累積赤字が936億円に。2008年2月20日、都への400億円の増資要請などの再建策を発表。
(※2)
【グラミン銀行】
バングラディシュの銀行で、マイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした低金利の無担保融資を行っている。2006年創設者であるムハマド・ユヌスと共にノーベル平和賞を受賞した。
グラミン銀行
グラミン銀行に関するカフェグローブの記事
(※3)
【FRB(米国連邦準備制度理事会)】
アメリカの中央銀行である連邦準備制度(Federal Reserve System)の理事会(Federal Reserve Board)。連邦準備制度と同理事会はあまり区別されずに両者とも FRB と呼ばれることが多い。2006年2月1日からベン・バーナンキが議長を務める。
(※4)
【欧州中央銀行】
ユーロ圏の金融政策を担う中央銀行。総裁はジャン=クロード・トリシェ。
(※5)
【リセッション】
景気後退のこと。
(※6)
【G7】
アメリカ合衆国、イギリス、ドイツ、フランス、日本、カナダ、イタリアの先進7ヶ国のこと。ここでは先進7ヶ国の財務大臣と中央銀行総裁が一同に会して国際的な経済・金融問題について話し合う「先進7ヶ国財務相・中央銀行総裁会議」を指す
(※7)
【国富ファンド】
国富ファンドについてはvol.45参照。
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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)

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