Cafeglobe(以下C)
ビッグイシューの記事では「平均値の恐怖」として、欧州中央銀行(ECB)(※1)がインフレ率の違う国々を相手に政策金利を操作しなくてはいけない大変さに触れていらっしゃいます。ユーロ圏とひとことで言っても貧しい国も富める国もあってまさに「学力の違う生徒を同じ教室で教えている」状態。これをまとめて、物価の安定をはかるべく金利をコントロールしなくてはいけないとなると、かなり大変そう。この様子を見ていると「だったら通貨統合なんてしなきゃよかったじゃん」と思ってしまうのですが?
浜さん(以下H)
そうですね。通貨を統合したことによるメリットは? と問われると欧州を旅行するときに両替の必要がなくて便利な程度で。じゃあ、なんで通貨統合なんてやったのか、ということになってきますよね。
C はい。どうしてですか?
H 端的に言えば「ベルリンの壁が倒れなかったら、今日ユーロは無かったかもしれない」ということです。元々それ以前にも単一通貨構想というのはあったものの、是非を巡って議論が割れていました。「国ごとの経済状況が近いから違う通貨を使っているのもバカバカしい。だから皆で一緒にしよう!」ということなら話は自然ですが、実はそういう条件が整っていないところで押し切ったような状態でした。
C ベルリンの壁とどういう関係が?
H ベルリンの壁が崩壊して統一ドイツという大国が突如出現した。で、周囲は慌てふためきまして。特に慌てたのはフランスですよね。ドイツがいずれオーストリアやチェコなども巻き込んで一大ドイツ共栄圏なんてものを築き始めてはいかん! EUのなかに囲い込んでおこう! ということになったわけです。フランス自身それまで「経済的な条件が整っていない、我が国の通貨はフランでなくては!」などと言っていたのに、もう、背に腹は代えられないから手のひらを返したように、ですね。だからフランス主導で通貨を人質にとるような形で強引に新生統一ドイツを単一通貨圏の中に封じ込めようとした。
C
なんだか動機が不純といいますか……。では、ECBの本部をドイツに置いているのはどうしてですか?
H 自国に本部を置かれてしまったらさすがにドイツも勝手に我が道を行くわけにはいかないですよね。まあこのように、経済の論理に従ってやっているわけではないから経済的につじつまがあうわけがないんですね。
C
ところで、このEUの中央銀行、ECBがユーロ圏の金融政策を行ってるということですが、では各国の中央銀行は何をやっているんですか?
H
各国の中央銀行は、いわば日銀の支店のような位置づけでしょうか。日銀の支店との違いがあるとすれば、銀行監督・金融行政に関してはECBの管轄ではなくて各国の中央銀行に委ねられています。ECBは中央銀行であるけれど、純粋に金利などの金融政策だけをやっていて、悪いことをした銀行に業務改善命令を出すとかいうことはできない。
C
「この銀行が潰れそうだから公的資金を入れよう」などというのは国ごとに行ってるんですね。ではそのあたりの役割分担というか棲み分けは上手くいっているんでしょうか?
H
ええ、でも問題はありますよ。たとえばサブプライム問題のようなものが起きたとき、ECBが銀行に個別に「貸し渋りをするな!」などと指示を出せない状態というのはまずいのかもしれません。今回、サブプライム問題に関してECBはいわば“音無しの構え”をとってきた面が大きいですね。それは見ようによっては「ユーロ圏はサブプライムなんかでは引っ掻き回されていないよ」というようにもとれますが、実はそうではなくて、ECBが踏み込んで対応する権限を持っていない、危機的な状況になったときに当事者能力を持っていない、ということを表していると思うんですよ。だから、大丈夫かな?と思える面もありますね。とはいえ、各国の中央銀行の総裁がECBのメンバーになっているわけですから、やはり金融秩序の安定を守ることについて最終的にはECBが責任を持つことになるはずです。というわけで、直接的な権限はないが最終的な責任はある、という厄介な立場……これを今後どう舵取りして行くのか、今まさに試されている状態ですね。
C
では、この先ECBの権限をもっと拡大していくとか、逆に廃止しちゃえ!という意見もあるんですか?
H
ユーロ圏がしばらく12ヶ国だったのが、13になり、15になり、今度16になろうとしている。数が増えれば経済状況のばらつきの幅も大きくなり、ますます適性な金利の設定も難しくなる。ですが、ECBを廃止するとなれば、これは要するに単一通貨を止めることを意味します。もっとも、複数通貨・単一中央銀行というのも全く有り得ない話ではないですね。完全な固定為替相場制度なら、それと事実上同じようなことですから……。面白い問題ですね。いずれ、ご一緒にもう少し突っ込んで考えてみてもいいテーマかもしれません。それはともかく、ちなみに、今アメリカは中央銀行の監督権限強化の方向に向かっています。アメリカでも、預貯金金融機関は別にして、投資銀行や証券会社に対しての個別的な業務監督権限はFRBにはないんです。にもかかわらず、ベアスターンズをJPモルガンが買う時にFRBがカネを出したというのは、それだけ状況が深刻だったということでしょう。越権行為すれすれ、というか、かなりその線を越えた踏み込みだったとさえいえるでしょう。今回の展開を踏まえて、これからアメリカが金融制度改革をすすめるにあたって、金融市場そのものの安定に関してはFRBにある程度包括的な権限を与えようという方向に動いています。
C
なるほど。ECBがこの状況をどう乗り切っていくのか注意して見て行きたいと思います。アメリカの金融制度改革の今後も。