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更新日:2009年2月4日 RSS

日本が世界に誇るエコノミスト・浜矩子の わかりやすいお金の正体の話

vol.85 今必要なのは「自分の頭で考える力」
不況の今こそ投資のチャンス……なんて声も聞くけど、それって本当? リストラのニュースもよく聞くし、今自分の身を守るためには何をすればいいの? という人、必読です。

投資のチャンスって本当?
不況を乗り切るには何をすべき?
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Cafeglobe(以下C)  どこを見ても不況って感じですが、でも「今この状況だからこそ、投資のチャンス」と言う人をちらほら見かけます。

浜さん(以下H)  今こそはチャンスだというのにはまず耳をかたむけないほうがいいでしょう。これから「世界版失われた10年」が始まるかもしれないというときに「もうこの辺が底値です」という言葉に惑わされてしまって、本当にすっからかんになってしまっては泣くに泣けませんよ。「今こそベンチャービジネスを立ち上げるべき」なんて言う向きもあるようですが、こんな話に簡単にのらないで、今は「何がどうして、どうなっているのか」をしっかり見極めていくことが必要だと思います。

C   では、この時代を生き抜くために、私たちは具体的にはどういう行動をとるべきでしょう?

H  まず足元のカネの出入りをきちんと把握して、自分の生活の膨らませ方や縮め方のバランスやその限界をしっかり把握すべきでしょうね。投資や起業などに踏み切る場合にも、少し冒険する感じになっても、そもそも、自分の財布を隅々まで理解して進むのと、他人に踊らされてやるのとでは随分違いますから。この機に自分のおカネに関して自分なりのルール作りをしてはいかがでしょう。常に自分でアンテナをしっかりたてて情報収集して、自分で因数分解をして、自分で問題を解いて、自分で回答集を持っておく。そういう風にしておけば、よこしまな人にだまされそうになっても「これはヤバそうだな」と判断することができるようになる。問題点を洗い出す力というか、こういう“把握力”を身につけることがいちばん必要なのではないでしょうか。なぜだろう、と必ず考えるクセをつけるとか。

C   はい。「問題を洗い出すぞ」という意識を持って新聞記事やテレビのニュースにあたるようにします。それに、一度自分のおカネも総点検してみます。

H  そうですね。そして、ひとまず堅実に足元を固めるのがいいでしょう。要は「投資から貯蓄へ」ということです。

C   わ、小泉・竹中時代の「貯蓄から投資へ」の逆のキャッチフレーズですね! 宵越しのカネは持たない系の今の体質を改めたいと思います。

自動車業界が今ダメダメな理由は
ずばり、自動車ローンにあった
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C  昨年末の記事に続き、 ビッグイシューで「実体経済」と「金融」の乖離の問題に触れていらっしゃいます。前回はカネ(金融)が暴走して、モノ(実体経済)の世界からどんどん離れていった……というお話でした。今回は「モノのほうがカネによりかかり過ぎていたのではないか」とおっしゃっています。

H  ええ。例えば、ですけど、今どき車や家を現金で買う人なんていないでしょう。

C  多くないと思います。

H  自動車も住宅も現金では買えないことが当然になっていて、金融というものがあるから買えるし売れるわけですよね。普段の買い物だとか、ちょっと飲みに行く時なんかでも、クレジットカードで払えるということを前提にしていませんか。クレジットカードを使えないなら、この辺でやめておこうと考えることだってあるでしょう。このような具合で、いまや、モノの売れ行きはカネの回り方に非常に大きく依存するようになっています。モノ造りだと言っても、売れないモノを造るわけにはいきません。そして、モノがどれだけ売れるかは、カネがどれだけ着くかにかかっている……。こうして、知らず知らずのうちに生産の規模も金融の規模に規定されてきた。アメリカの自動車業界が総崩れ状態になっていますが、要はあの業界は自動車ローンにものすごく依存してきたんですよね。ゼロ金利ローンなんていうのをいっぱいやって、本来自動車なんて買えないような人たちにもいっぱい売って生産台数を伸ばしてきたんです。

C  それはサブプライムローンの問題と同じということでしょうか?

H  全く同じです。世界中で自動車業界がいちばん打撃を被っていますが、その背後には自動車ローンの問題がある。まだそこにないのに、あるだろうという前提のカネで膨れ上がってしまっていたという側面があるわけです。

C  日本の自動車業界がヤバいという記事を読んで「円高だから輸出がうまくいかなくて厳しいのかな?」なんて思っていました。それだけが理由ではないんですね。

H  それだけではないです。今のような状況だと、自動車ローンだって簡単に組ませてくれないでしょう。クレジットカードだって、カードで買える上限の金額を押さえ込むような状況になってきています。

C  では、例えば今私が車を買おう!と思い立ったとして、ローンの審査は1年前より厳しくなっているということですよね?? うーん、それじゃあ、車なんて買えなさそうです。自転車くらいなら、ちょうど最近ニコニコ現金払いで買いましたが。

H  モノとカネが乖離していなくて健康的ですねぇ。

C  とは言っても、金融のない社会というのは今や成り立たないように思うのですが?

H  ええ、もちろんそうです。それでは万年デフレのような社会になってしまいます。使い過ぎ、売り過ぎにならず、バブルのような状況にならない範囲で、金融システムをうまく働かせていかなくてはいけませんよね。自動車ローンでもゼロ金利はやめましょうとかそういう規制は必要かもしれません。これからの金融システムを考えるうえで、モノとカネが乖離したり、あるいはモノのカネに対する依存度が高くなりすぎると、このような悲惨な状況をもたらす。こうしたことを意識しておかなくてはいけないと思うんですよ。

日本で製造業が巨大に見えるのは
金融が押し上げてきたから
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C  自動車や住宅などの業界も私たちも、どっぷり金融化の流れのなかにいたんですね。意識したことはありませんでしたが。自動車業界に限らず、製造業全体が厳しくなってきてどこも人を減らしていますが、これもやはり金融への依存度の高さに一因が?

H  ええ、そういう側面はありますね。今私たちの目に見えている製造業というのは、実は金融の上にのっかって、どんどん上に押し上げられてきたわけです。高く高く押し上げられて、ハシゴがどんどん下に長く伸びていって、気づいたらハシゴを急にはずされちゃったような状態ですよね、今は。だから、かつて輸出立国とかモノつくり立国とか、貿易立国とか言っていた時代とはずいぶん構図が違うんですよ。日本はたしかにモノづくりにたけた国ですが、その、モノづくりのあり方とスケールがいずれもカネいかん、という側面が出て来てしまいました。

C  なるほど。小泉・竹中時代に例の「貯蓄から投資へ」としきりに言って、あれだけ日本を金融立国にすると言っていたのに、その割には相変わらず「製造業の国」に見えるのはどうしてだろうと思っていました。

H  ええ、そう見えるのは先に申し上げたような背景があるということです。金融というものとの関わりは、特定のルールに沿ってやれば絶対に大丈夫、ということはない。大切なのは皆がこのことを認識しているかどうかです。今回、投資信託などをやっていて、大きく損をしたという人はいっぱいいるでしょう。実際にこういうことが起きると、金融の怖さが理解できますよね。

C  うーん、つい他人にのせられて投資!なんてやってちゃ危険すぎですね。この不況も、自分で考える力を身につけられる良い機会と思うことにします。

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浜 矩子さん プロフィール
同志社大学大学院教授。欧州経済、国際経済のマクロ分析のエコノミストで、BBCなど海外のメディアからもよくコメントを求められる存在。Cafeglobeには、女性の力になれればと、スタート当時から執筆。趣味は「大量飲酒」!
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illustration / Nakagawa Isami
design / Shimizu Mamiko (Mame Design)