Cafeglobe(以下C) 1月19日に会社更生法の適用を申請して、法的整理を開始したJALの話を伺おうと思います。個人的には、結果的に税金を440億円も使ってJALを救済すると聞いて「えぇーっ!」と驚きました。「そ、そんなにー??」って感じで。国が救済する必要ってあったんでしょうか?
浜さん(以下H) 私は、救済する必要はない、と思いますよ。ここに至るまで、もう何度となく国がJALを支えてきたわけですよね。困ったら国に頼るというような形で。だからこれはもう整然と清算するということでいいんじゃないか、と思います。買収してもいいよっていうところが出てくるならそれはそれでいいですけど、これだけすったもんだして、営業が継続される状況を担保しなきゃいけない理由はないですよね。
C 公共の交通機関だからでしょうか? どうして政府は、カリスマ経営者の京セラ稲森さんまで連れ出して、JALの再生を?
H 公益的な側面から飛行機が飛ばなくて困るといっても、ANAもあれば、その他の小さい航空会社がありますからね。そういうところに引き継げばいい話でしょう。会社を潰した後に従業員への対応をどうするのか、どこがフライトを継続させるのか、ということは別にきちんと考える必要があると思います。ですが、会社そのものを温存させなくてはいけない理由は私にはわかりません。最初に前原国土交通大臣が出てきて「公的整理でいきます」と言ったときには、八ッ場ダムを潰しに行く人ですから、私はJALも潰すつもりなんだろうなって思ったんです。発言を聞いていると、今はJALを国内線だけの会社にするというような構想も含めて、いずれにせよ、会社としての継続営業を目指すスタンスに徹している感じですよね。どうも釈然としません。
C ANAの独占みたいな感じなるのが良くないとかそういうことでしょうか。でも外資系の会社もいっぱい日本に乗り入れていますし……。
H 全く競争のない世界になってしまうのは問題ですが、アメリカとオープンスカイ(※1)をやるわけでしょう。だから、競争が全くなくなるってことはないわけですよね。もし、公益性ということを言うなら、他の航空会社が不採算を理由に運航を止めてしまう路線だけを担当すればいい。改めて、そのための完全な国営企業に衣替えするという考え方があってもいいのじゃないでしょうか。公益性の担保ということならば、それに徹したかたちでの再出発というのはアリなんじゃないかと思いますよ。ちなみに、郵便事業についても同じことが言えると思います。あの巨大な図体のままの民営化ではなくて、商業ベースでは採算の合わない山間僻地など専用の小ぶりな国営郵便・郵貯サービスに再編する。それが筋なのではないかと思います。
C 金融機関もこれまでの債権を放棄して、借金を3500億円も棒引きにしたそうです。借金がちゃらになっちゃうんだ!とここにもびっくりしたのですが、銀行は怒らないんですか?
H うーん、それはそうなんですが、銀行はJALが潰れるとロスがでるから、潰すのは嫌がってたんですよね。本当に潰れちゃったら有無を言わさずの清算ですからね。どんなに大きなロスが出るかわからない。それよりは、少しでも自分たちのペースでの債権放棄の方がいい。そういう計算になるんでしょう。
C じゃあ、どんなにひどい状態でも、どうにかして潰れずに生き延びて欲しいって思っていたということでしょうか?
H 生き延びてもらって、なんとか今までのように営業を続けさせたいということみたいですね。これは、必ずしも自分たちのためだけの損得勘定でもないでしょう。そもそも、メインバンクたるものは、融資先を倒産させない。それが、かつての日本の銀行のいわば心意気でした。そんなことをして自分たちが面倒をみている企業とその従業員たちを窮地に追い込むことはない。いわんや、その結果として社会的に大きな波紋が及ぶような状態を作り出すことは決してしない。そういう自負があってこそのメインバンクだ。バンカーとしてのそういうプライドが、日本の大手銀行のかつてのトレードマークでした。その伝統が生きているという面もあるでしょう。ですが、まぁ、これは少々希望的観測かもしれませんね。いまや、そんな御大層なことは言っていられない。それが彼らの悲しき実情かも。
C なるほど、じゃあ、銀行はちょっとずるい感じもしますね。旅行業界の人と話をしたら「“日本の翼”だもん、守ってあげようよ」みたいな声もありました。まさかそんな感傷的な理由で政府が救済を決めているわけではないと思いますが。
H 旅行業界の人だって、銀行のように、本当に潰れられちゃうと大変だと思っているのかもしれませんよね。取引先が潰れてしまうとなると、おカネを払ってもらえなくなったり。……もしかしたら、前原さん的には、このあたりが気になるのかもしれませんね。JALは潰してもいいけど、そこにぶら下がっている企業のネットワークが将棋倒し状態になれば、大ひんしゅくを買うことになる。それが、政治的にマイナスだと読んでいるのかもしれませんね。
C 「大きすぎて潰せない」系(※2)ということですか?
H それが前原さんの判断なのかもしれない、という意味でね。「アンタのせいでJALが潰れて、うちの会社も路頭に迷ってしまった」なんて言われるのは、政治家としていちばん怖いことでしょう。彼にしてみれば、そこが八ッ場ダムと違うところなのかもしれません。それもある意味では合理的な判断ですが、いずれにしてもダムは潰してJALは潰さないというなら、どういう判断の違いの下に違う扱いをするのかについて、明らかにする必要はあると思います。
C ちょっと話がそれますが、そういえばこの問題ってJALだけが悪いんでしょうか。これまでも国も資金を出してきたわけですし、さきほどのお話だと、銀行だって。
H 一私企業の問題ではありますけれども、これは戦後の55年体制と表裏一体の構造だと思います。自民党的な体質の政治に対して働きかける能力に長けてさえいれば、潰れることはない。そういう考え方がすっかり根を下ろしてしまっていたところに問題があったのではないかと思いますよ。癒着体質にあぐらをかいてぬるま湯状態で営業してしまう企業体質と、55年体制と、鉄のトライアングル(※3)と呼ばれた政官業の関係……これらによって、今回のJALような破綻をもたらす企業風土が形成されてきた。JAL問題ばかりではなくて、一般論的にもそういうことがいえるのではないかと思うんですよね。つまり戦後型の日本の経済社会の体質そのものが背景要因だということです。そして、まさにそういう体質を革命的に変えるといって登場したのが鳩山政権にほかなりません。こう考えて来ると、ますます、前原さんのビヘイビアは理解しにくいところがありますよね。
C その政官業の結びつきだとか、55年体制の負の遺産みたいなものを、きちっと仕切り直して欲しいところです。私は、この一件で、若い人とか、いや若い人に限らずですが、みんな「なーんだ親方日の丸だったら、大企業だったらやっぱり大丈夫じゃん、国が助けてくれるんじゃん」と思っちゃうのは良くないんじゃないかなって思うんです。今ってもうそんな時代じゃないし「ああいう企業だって潰れるんだ」って気持ちで生きているほうが、ひとりひとりがしゃんとできていいんじゃないかなって。
H そうですね。ただし、会社を潰すことが、従業員に死ねということに等しいような事態になるのはまずい。そここそが、政治と政策の出番です。政治の役割は、会社が潰れるのを何が何でも阻止することではない。潰れて然るべき会社が潰れた時、それに伴う人々への打撃をいかに緩和するか。そこで世間様のお役に立つのが政治の仕事でしょう。そのために我々は税金を払っているんです。
C 中国のGDPがいよいよ日本を追い抜きそうで「 近々日本は 世界第2位の座を譲ることになりそうだ」というような記事を目にしました。
H 端的に言って、その順位にあまり意味はないと思います。誰がどこよりでかいだの、どこが何位だのということは、このグローバル時代にはもう全くどうでもいい話ですよ。順位が下がって日本が失うものがそれほどありますかね。もともと国の規模が大きい中国の経済がものすごい勢いで離陸した。そうなれば、経済活動の規模も巨大化するのは当然の成り行きです。あんな大きな国がそれなりの経済成長をすれば、いずれは日本を追い抜くのが当たり前だった。むしろ、そこに到達するまでにこんなに時間がかかったことの方が意外だという感じもあります。
C ニュースを見てて「日本が3位になっちゃうのは残念」チックな雰囲気を感じたんです。でも、すぐ隣に経済大国があるってことは、ビジネスチャンスも増えて、いいことなんじゃないの?って思ったり。
H ええ。新しいオポチュニティを与えてくれる経済上のパートナーが、増えて悪いはずはない。グローバル時代という言い方をしながら、その一方では国単位で経済規模の大小を考えるというのは、発想に矛盾がありますよね。21世紀的にはNGですよ。もしも、「相手が中国だから癪にさわる」というような感覚があるとすれば、それはそれでまた問題ですしねぇ。
C 中国の政府の発表によると、中国がいちはやく世界同時不況から立ち直ったのは、自分たちの政策が正しかったからだそうです。中国が世界同時不況の影響をあまり受けなかった、あるいは、早く立ち直った理由ってあるんでしょうか?
H そもそも、立ち直っているんでしょうか。それこそ、ものすごい公的資金を投入して、無理をして今の状態を作っているわけですよね。そもそも、中国経済は無理をしてでも成長し続けていないと、倒れてしまう「自転車操業経済」です。なにせあの規模の国ですから。都市部だけではなく、内陸部や西部などの末端にいたるまで、人々が所得を得る機会がちゃんとある状態にするには、どうしても、ものすごい勢いで成長する必要がある……。ですから、死に物狂いで成長率を押し上げているというのが実態でしょう。政府が息切れしたらどうなるか。飛ばし過ぎで大インフレになったらどうするか。どう自転車のバランスを保っていくかが、一段と大きな課題になって来たという感じでしょう。
C なるほど。
H このグローバル時代、よそがダメでも自分だけは大丈夫という状態は、基本的に成り立たないはずです。それを認識してこういう報道なり発表なりを聞かなくは。だいたい、中国はあんなに沢山ドルを持っていて大丈夫なの?とかね。中国国内の貨幣流動性の問題もありますし。中国経済が強くて、問題なし、ということではなくて、彼らもきわめて難しい舵取りを強いられていると思います。そのあたりのことは私たちもしっかり冷静に見た方が、中国との付き合い方も楽になると思います。
C 新聞の見出しをちらっと見てGDP2位だ、3位だということじゃなくて……。
H はい。中国という言葉が出たとたん、皆パニックして、良きにつけ悪しきにつけ過剰反応するというのを、いいかげん卒業したほうがいい。確かにあまりにもスケールが大きい国なので、そうなりがちなのもわかるのですが、我々にとっては隣人ですし、お互いグローバル経済の一員ですから、日常感覚というか当たり前の平衡感覚を持って中国とつきあうということを心がけるべきという気がします。
C 以前もおっしゃっていた、隣人として大人の対応ができるようになる、ということですね。
H 何かやるとものすごく注目されちゃうのが中国ですが、だからといって、ことさら持ち上げる必要も痛めつける必要もない。普通の国として中国を応援してあげればいい。確かに人権問題だとか環境問題だとか、賛成しかねる問題だって抱えていると思いますよ。でも、本来日本は友情ある説得者であり、誠意ある隣人でありうるはずですよね。中国に対しても、アメリカに対しても。