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更新日:2001年9月11日
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023
吉田 都 Miyako Yoshida
英国ロイヤル・オペラ・ハウスで舞う、黒髪のプリンシパル

吉田 都さん  
吉田 都/バレエダンサー

10月28日、東京生まれ。1983年ローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラシップ賞を受賞。奨学金を得て英国ロイヤル・バレエ・スクールに留学。卒業後の1984年、日本人として初めてサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)に入団。1988年プリンシパルに昇格。1995年に英国ロイヤル・バレエ団にプリンシパルとして移籍し、現在に至る。主なレパートリーは、『白鳥の湖』のオデット/オディール、『眠りの森の美女』のオーロラ姫、『ドンキホーテ』のキトリ、『ロミオとジュリエット』『ジゼル』のタイトル・ロールなど。2000年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。A型、さそり座。

ただ「好き」だから走り続けてきた 

  ミレニアムの幕開け前に、改修し再オープンした英国ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウス。白亜の殿堂では、毎夜、華麗なパフォーマンスが繰り広げられる。その舞台で観客の目を一身に集めるプリマバレリーナの吉田都さん。ロイヤル・バレエ団のオフィシャルサイトでは、「白鳥の湖のオデット/オディールを躍らせたら、たぶん今ロイヤル一」と紹介されるほどの実力の持ち主だ。黒髪のバレリーナは、「ブラボー!」の声をどんな気持ちで聞いているのだろう。

  「こんにちは」。楽屋口に現れたのは、青山辺りを歩いていそうな、手足のスラリと伸びた現代美人。メゾソプラノの柔らかな声のトーンが、女子校出身の友人を思い出させる。アーティスト特有の気取りというものは全くない。直感的にこの人とは同時代の感覚を共有できると感じた。


  「バレエを始めたのは幼稚園の頃。お友達の練習を見に行ったのがきっかけです。最初はお遊戯教室でお手々つないでのジャンプから始めて、9歳ぐらいからバレエスクールに通い出しました。とにかくチュチュを着て、トゥシューズを履いてみたかったんです。学校の体育の授業でも高飛びは一番飛べたし、マラソンも得意だったから、そういう点ではバレエに向いていたかも(笑)」

  以来、“好き”だけで走り続けたバレリーナの道。17歳のときにはローザンヌ・バレエコンクールに出場、国際舞台に一歩足を踏み出した。スカラシップ賞の栄誉を手にロイヤル・バレエスクールの門を叩いたのが同年。外国を訪れたことのある人なら誰でも体験する異文化との出会いがそこにはあった。

  「それまでに私がバレリーナだとイメージしていた人たちがそこにいたんです。手足が長くて髪はブロンド。それは“ショック”でした。毎日鏡の前で嫌でも見せつけられるんですよ。おまけに英語もわからないし、ホームシックにもなるし。いつも泣いていました。でも、そのうち皆を見ないようにしようと決めたんです。生まれながらのものは変えられない。それを受け止めて、自分を生かさないといけない。とにかく私ができることをやろうと」

  英国最高峰の
ロイヤル・バレエ団のプリンシパルに
  確かに物事なんでも人と比較ばかりしていたら、辛い。他者との違いをきちんと認めて、自分が歩ける道を行く。それが「個」を磨くということではないだろうか。若くしてそれに気づいた彼女は「幸運=get real」な人といえるだろう。スクール卒業後、入団したサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)では、そんな彼女の個性が、演出家ピーター・ライト氏によって 一層磨かれる。「優雅で慎ましやか、正確なテクニックに裏打ちされたクラシックの見本」と評されるMiyakoのバレエの誕生だ。

  「舞台ではどんなにドラマチックな作品を踊っていても、中味はクールですね。もちろん演技はしているんですけれど、もう一人の自分がそれを冷静に見つめているというか。役に全部入り込むということはありません。それだと観る人にとって美しいものにはなりませんから」

  「サドラーズ」でプリンシパル(バレエ団での最高位)に昇格してからは客演も相次ぎ、ほどなく英国最高峰のロイヤル・バレエ団から、お呼びがかかる。ロイヤルに在籍していたなら最下位の「アーティスト」から始めるところを、堂々の飛び級「プリンシパル」として迎えられた。

  「ラッキーでしたね。私は日本人で皆と違っていたからよかったのかもしれません。同じようなタイプのプリマは必要ありませんから。また、逆に地方のバレエ団にいたことで、自分を目立たせることもできました。同じ技量でも大きなバレエ団で下積みばかりしていたら、一番ダンサーとして伸びる時期に演出家に見出してもらえないこともある。そのうち、情熱も失せて終わっていく人もいるんです。私の場合はタイミング、環境が合っていました」

  ロイヤル・バレエ団は多国籍のダンサーを受け入れている世界でも珍しいバレエ団だ。イギリス人はもとより、東洋人・ロシア人などが、しのぎを削る個性のぶつかり合い。そんななか、テクニックはもちろんのこと、表現を重視するロイヤル・スタイルが脈々と受け継がれている。オリンピックの体操やアイススケートでもそうだが、日本人はこの点、何かと不利。都さんはどうやってそこを克服していったのだろう。

  「それはもう皆さん、スゴイです。西洋はジェスチャー文化ですから、もとから身振り手振りは大きいでしょう。最初から自分をオーバーに表現することに慣れている人たちなんですよ。舞台では5メートル先のお客さんにだけ伝わってもダメ、はるかかなたのバルコニー席の方にも感動してもらわないといけません」


総合的な人間味がバレエの表現に生きる

   「日本だと専門家はひとつのことばっかりやっているようですが、ロイヤルのバレリーナはレストランで料理を作ってみたり、引退したら花屋さんになったりと多才。バレエだけに固執していないんですね。それに、楽しみながら踊ることを知っている。以前パートナーを組んだロシア人のイレク・ムハメドフは、公演が近いのにまだステップができていないという険悪なムードをユーモアのセンスでガラリと変えてくれました。でもやる事はしっかりやってきて、バレエに対する情熱は人一倍。絶対妥協をしない。学ぶことが多かった。そういう総合的な人間味がバレエの表現に生きてくるんだと思います」

  かくいう都さんも、現在はオフ。先週はスイスを旅行し、日本にも近く一時帰国するそうだ。その間稽古は一切なし。「えー?」と心配になる。稽古は1日休むと自分にわかり、3日でパートナーにわかり、7日で観客にわかるのがバレリーナなんじゃなかったの?

   「確かに覚悟がいります。身体も固くなっているし、元の状態まで戻すのは大変。でも、それをわかっていても自分に休暇を与える。バレエ漬けだと、舞台で自分の中から出すものがなくなってしまうから。お友達にあったり、旅行をしたり。自己コントロールですよね。やっと最近そこに気づきました」

  それもこれも彼女は一大転機を2年前に経験したからだ。何十年ぶりにBBCがロイヤルの公演をTVで生中継するという前日、腰をいためて全く動けなくなった。演目は『コッペリア』。ちょうど都さんが主役を踊る予定だった。這って受話器をつかみ、バレエ団に連絡を入れる。明日は踊れると信じながら……。

   「結局治らず、代役を立ててもらいました。しばらくは寝たきりで、踊るどころか、歩くこともままならなかった。で、気づいたんです。どんなに完璧にやってもダメなときはダメなんだと。それからバレエへの取り組み方が変わりましたね。それまではとにかくバレエ一筋だったけど、今、青春時代にできなかったことを取り戻しているというか、普通の、皆さんが経験したようなことをして生活を楽しんでます」

  こんな話を聞くと、人生、意外に公平かなとも思う。大学時代に遊ぶだけ遊んで就職、結婚、子どもを産んで、その後キャリアを築く人もいる。彼女の場合は、その順番が逆転しただけのことなのかもしれない。大切なのは、自分がハッピーでいたいという気合い(!)。 そうでないと、目覚めの瞬間は永遠に訪れない。

   「今、まだ踊っていることが楽しいんです。“好き”でいることって大切なんですよ。ロイヤル・バレエには中国の方も入団するんですが、腰がすごーく高い位置にあって、すばらしい資質に恵まれています。でも去っていく人も少なくないんです。なぜなら、彼女たちは“選抜組み”で自分で本当に好きでここにやって来たわけではないから。未練がないんですね。もうホント、その身体だけ置いてって、という感じ。逆に私は好きだけで続けてきて、チャンスに恵まれた。わからないものですよね」

  日本からロイヤル・バレエを観に来るお客様をがっかりさせることだけはしたくない、という都さん。イギリス人ダンサーを期待してやって来て、主役は日本人、それでよくなかったでは話にならない。逆にそれでも観てくれて、後日感動しましたという手紙をもらったりすると、本当に嬉しいそうだ。10月からは英国ロイヤル・オペラ・ハウスで『ドンキホーテ』のキトリを踊る。


M i y a k o  Y o s h i d a

吉田 都さん
吉田 都さん


吉田さんの「what's up」
■ 最近ケーキ作りに凝っています。作っても楽しいし、食べてもおいしいじゃないですか。生地から練るんですけど、そういう時間が持てるのが嬉しいですね。デコレーションケーキとか、まあいけます。出来上がったらお友達に持っていってあげたり、自宅に呼んでパーティをしたり。ただ、レシピに卵1個とか書いてあると、料理上手の友人に「これ大、中、小のどれ?」なんて聞いてあきれられることもある。「そんなの適当で大丈夫よ」なんて。応用がきかないんです(笑)
 

吉田さんの「おススメサイト」

実はインターネットはEメールだけしか、やっていないんです。なのでサイトの代りに手前味噌で恐縮ですが、9月に発売した写真集の紹介をさせてください。

■MIYAKO
撮影/宮沢優子、ビル・クーパー
文/吉田都
文藝春秋 \3,238
ロンドンで撮りおろしたオンステージとバックステージの写真や、本人が初めて執筆した自伝的エッセイで綴る珠玉の写真集

『MIYAKO』はこちらから購入できます

 
■ 吉田さんの10月からの公演予定 
『ドンキホーテ』(10月23日〜11月14日 英国ロイヤル・オペラ・ハウスにて)
『くるみ割り人形』(12月13日〜2002年1月5日 英国ロイヤル・オペラ・ハウスにて)

*出演日ほか、詳細はロイヤル・オペラ・ハウスのオフィシャルサイトへお問い合わせを。
http://www.royalopera.org


Photos / Tatsuzawa Naoya
Text / Suzuki Emily

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