カフェグローブ[026] アーサー・ビナード/詩人 「ことば」は、詩人のパートナー - インタビュー

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更新日:2001年10月23日
interviewBacknunber

026
アーサー・ビナード Arthur Binard

「ことば」は、詩人のパートナー

アーサー・ビナードさん  
Arthur Binard/詩人

1967年、米国ミシガン州生まれ。20歳の頃、渡欧、ミラノでイタリア語を習得。帰国後、'90年、コルゲート大学英米文学部を卒業。卒論の際に出合った“漢字”に惹かれて来日。日本語での詩作、翻訳を始める。第一詩集『釣り上げては』(思潮社)で第6回中原中也賞を受賞。絵本に『カエルのおんがくたい』(福音館書店)、『おーい、カナブーン』(福音館書店)、訳書に『どんなきぶん?』(福音館書店)、『焼かれた魚』(透土社)など多数。現在、『草思』、『うえの』など月刊誌の連載、ベネトン社発行『COLORS』誌の日本特派員として、また青森放送『サタデー夢ラジオ』のパーソンリティなど幅広く活躍中。

表意文字を知って日本へ

 

 その人の名を知ったのは、今年の春、新聞のインタビュー記事だった。“今年度の中原中也賞を受賞したアメリカ人”という見出しに目がいったのだ。さっそく書店に行き、受賞した第一詩集『釣り上げて』を立ち読みするだけで、言葉が胸に突き刺さってきた。

ことば使い

「吠えろ」と怒鳴り
「芸になってない」
と鞭打つ。

一行の
輪抜け跳びを
何回もさせる。

いくらおとなしく
馴れているようでもやつらは
猛獣。
――詩集『釣り上げては』から――



 「大学4年のときに表意文字、つまり漢字を知ったんだ。レトリックをテーマに卒論準備をしているときにね。新しい文字を使って、今までの自分には表現できなかったナニカを生み出せるんじゃないかと、漢字の国へ行きたくなった。中国か日本か。でも、料理が口に合わなくっちゃ、とマンハッタンのソーホーにある日本料理店へ行ってみた。そばや刺身などいろいろセットになっていて、初めて口にした冷奴のうまかったこと! 薬味のミョウガが、まさに妙味だった」

 成田空港に降り立ったアーサーさんは、外国人ハウスの経営者に電話をかけた。池袋のハウスならベッドに空きがあるといわれて、池袋行きのリムジンバスに乗ったのが、今から11年ほど前。

  すべてが池袋から

  今回のインタビュー取材で訪れた先は池袋の西側にある、古い路地の残るエリア。歩きながら、アーサーさんが説明してくれる。「ここのパン屋さんのあんパンはおいしいよ」、「ここはお習字の先生の家」とか、「初めて買物した八百屋さん」などなど。まるで昭和のよい時代にタイムスリップしてしまったような商店街のわき道を入ったところに、彼が初めて根を下ろしたハウスが今もあった。


 「まず、英語教師のアルバイトを探そうと池袋駅の周辺を歩いたんだ。駅前のある雑居ビルの看板に “Tokyo Language School” ってあったから、よし、売り込もうと。そしたら、日本語学校だったんだ。見学させてもらって、いい雰囲気だったのでそのまま入学手続きをした。当時は景気がよかったので、英語教師の職もすぐに見つかったよ。大手外国語スクールの池袋校にたまたま空きが出たって。偶然にも生活する範囲すべてが池袋。いま振り返ると、あまりの偶然に驚くけど、当時は平然と受け止めていた 」

  習字を習おうと、行きつけの商店街の人に紹介してもらった教室も、もちろん近所。 おいしいパン屋の女主人が参加している「あけぼの短歌会」に入門したり、アーサーさんの好奇心を刺激することは池袋に散らばっていた。そして、作品を発表する機会を、学校で得ることになる……。

化学調味料なしの和食のような詩

「小熊秀雄という詩人が書いた童話が、日本語学校の教材として使われたんだ。即座に気に入って、英訳しようと格闘し始めた。英訳という作業を通して、さらに原文の奥深さを知ることになった。小熊さんの作品に出合えてよかった、と思ったね。彼は戦前の池袋周辺に集まった芸術家集団を“池袋モンパルナス”と名づけた、池袋の詩人。
 できあがった英訳を日本語学校の先生に見せたら、小熊秀雄協会の木島始さんに送ってみればと薦められて、送ってみたら木島さんが、バイリンガルの本を作りましょうといってくださった。それがやがて『焼かれた魚――The Grilled Fish』として世に出た。ぼくにとって初めての本、出発点みたいなものだ」


  幸先のよいスタートだったと思う。池袋を拠点にアーサー・ビナードは「日本語」と深く向き合うことになり、その後同じようにして菅原克己の詩を知る。

「菅原さんの詩は、わかりやすく、それでいて深い。読むほどに新しい発見があり、何度も読み返したくなる詩だ。丹念に言葉を選び、研ぎ澄まされたものだけが編まれている。ぼくは今でも、詩作に迷いがあるとき、菅原さんの詩を読み直す。
 現代詩には、言葉がどんどん言葉につながって言葉が言葉を生み出して、それで進行する作品が割と多い。ランゲージ・ポエトリィとかいわれているものだ。そういう詩があってもいいけど、ぼく自身はあまり書きたくない。平明な言葉で深い世界を表わすほうが難しいし、有意義だと思う。菅原さんの詩をたとえるなら、化学調味料が入っていない、素材を吟味してつくった和食のようなもの。おいしいと感じるけれど、派手なおいしさじゃない。そしてそのよさがわかる人はもっと味わい深く噛みしめる。ソースでごてごてした料理なんかより、作り手の腕が試される」

  言葉にいつ食われるかわからない

 「言葉っておっかないものだけど、道具でもある。詩を書く人にとっては言葉はパートナー。生き物のような言葉とつきあいながら、詩をつくる。言葉との共同作業なんだ、詩作ってのは。馴れ合って安心して、相手を軽くみると、あっという間に食われちゃうんだ。サーカスの猛獣使いと、少し似ているかもしれない」

 そういった気持ちから生まれたのが、冒頭に挙げた「ことば使い」という詩。誰にもわかりやすい文体で、読む人の共感を得ながらも、その先に広がる世界――アーサーさんの詩は私たちをどこへ連れて行ってくれるのだろう。 Cafeglobeの人気コンテンツ、DEWシリーズが11月から新たに始まる。その新連載「どこかの街で」にアーサーさんの詩が毎月登場する。

「ぼくはだいたい、ここはどこ? これはなにか?ってところから詩作を始める。そこから事物と時間のイメージを膨らませる。DEWシリーズでは、詩の中に具体的な地名がなくても、ここにいるな、と読者に感じてもらえれば……。いい詩に出合うとどこかへ旅をしているような感覚になれる。どこまで連れて行けるのかわからないけど、読んでくれた人たちが、少しでも旅をしているように感じてくれたら嬉しい」
Arthur Binard 

アーサー・ビナードさんアーサー・ビナードさん


アーサーさんの「what's up」
興味があること、多すぎて……とラインナップ。一覧で眺めると面白いです。
一、昆虫(昆虫少年の延長で)
一、埼玉県東松山市の吉見百穴(古墳時代の遺跡。一つの斜面に219もの横穴があり、そこにいろんな歴史が詰まっている。コロポックルの話も)
一、納豆(今年の冬、わが家で納豆作りに挑戦する予定)
一、どこへでも自転車で出かけること
一、海外の絵本や昔話、童話を和訳すること
 

アーサーさんのオススメサイト
恐縮ですが、ぼくのエッセーが毎月載る開設されたばかりのサイトをオススメします。
Web日本語
http://www.web-nihongo.com

他にもオススメ!
●絵本
シムズ・タバック作『ヨセフのだいじなコート』(フルーベル館刊)
「物持ちのよい主人公・ヨセフがまったくもってチャーミング。ずっとだいじにしたくなる一冊だ」
●詩
伊奈かっぺい著『平成・消しゴムでかいた落書き』(おふぃす・ぐう刊)
「ユーモア詩の傑作の数々、吹き出し笑いの連続。津軽弁の味も絶妙」
●散文
小沢信男著『裸の大将一代記』(筑摩書房刊)
「放浪画家・山下清の評伝。ウィットに富んだ歯切れのいい文体、読み出すとやめられない」
● CD
クリスティアン・テツラフ『バルトーク ヴァイオリン協奏曲』(東芝EMI)
「もともと、ぼくはバルトークの曲が好きだったが、この人の演奏を聴いてビックリした。こんな素晴らしいバルトークがあったのかぁッ、と。彼のバッハもまたビックリもの」
 
■ 『釣り上げては』 
みずみずしい感性で
綴られた32篇の詩。
幼き日に亡くした父の思い出、
日本での日常の風景を
詩人の眼が切り取っていく――


『釣り上げては』はこちらから購入できます

Photos / Takiura Tetsu
Text / Honjo Reiko(Cafeglobe.com)




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