カフェグローブ[049] 蜷川実花 / 写真家 例えば“慣れてしまった”という事実に、誰よりも敏感でいなきゃと思う - インタビュー

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更新日:2003年8月1日
Views for thought  今、注目のひと 今、旬な人にインタビュー。その人の生き方や考え方から
なにかを感じとってもらえれば……。
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例えば“慣れてしまった”という事実に、誰よりも敏感でいなきゃと思う
  蜷川実花  Ninagawa Mika /写真家
 
   
蜷川実花さん 1972年、東京生まれ。多摩美術大学在学中より写真家としてのキャリアをスタート。2001年には「木村伊兵衛写真賞」を受賞。数々の写真集のほか、ファッション誌やCDジャケット、広告で活躍中。今年8月には最新写真集『Acid Bloom』を出版、また、「Nadiff」「ギャラリー・ロケット」(ともに東京)にてほぼ同時に写真展を開催。さらに映画監督業にも初挑戦するなど、ますます意欲的。9月には東京写真美術館「日本の新進作家・幸福論」に参加予定。
   
美しくて、妖しくて、卑猥。花はずっと撮り続けたい。
 
  そろそろ自然な敬語とか身につけたいなぁ、などと漠然と考えていた矢先だからかもしれないけれど。蜷川実花さんの言葉には何度ハッとさせられたことだろう、「あ、ていねいで素敵な言い回しだな」と。蜷川さんのナチュラルな語り口が、梅雨明け間近の蒸し暑さの中でとても、とても清々しかった。お邪魔した仕事場では、2年半以上をかけた最新写真集『Acid Bloom』の完成直前版を見せていただくことに。

  可憐だなぁと思ったら、ちょっぴり妖艶であったり、“品のいい毒気”のようなものもあって、ときにはとても挑発的で。『Acid Bloom』に切り取られた花たちは、ちょっと浮世離れした風情の花たち。ヴィヴィッドだけれど押しつけがましさがない不思議な世界だ。初めてお会いした蜷川さんは、だから作品の印象とは少し違っていたのだけれど、その意外性も楽しいところ。
 
 「花が好きな理由? ……なんでしょうね。純粋に美しいものなんだけれど、よく見ていると怖かったり、卑猥だったり。二面性がすごくあるから? けれど、今回の花のシリーズに限らず、この世とあの世の境目みたいな、片脚がどっちにあるか判らないような。そんな感じが出せたらいいなと思っているんですね。地面から5センチくらい浮いているような、ファンタジーではないんだけれど現実でもないみたいな。

  すごく暑い夏の日に、すごくきれいな花を観てて、一瞬ふっとどこかに行っちゃうようなことってあるじゃないですか。それが、なんだか気持ちいいような。そんな風に感じてもらえたらいいなと思ってます 」
 
 
“手が慣れて”いないか、絶えず自問する。慣れたと思えば、少し離れる。
 
  「私、せっかちなんです」と彼女は言うのだが、その仕事ぶりはとても地に足がついていると思う。「せっかち」であることと「焦る」ことは違うのだと知っている女性なのだと。
 
 「花を集中して撮り始めた頃は、何でもかんでも目新しくて、面白くて。いいものってすごく多かったんですね。けれど、それだけをずっと撮り続けていくと、自分の中に方程式が出来てしまうんですよ。『こう撮れば、蜷川実花らしい写真になるだろう』っていうのが、毎回すごく気をつけてはいるんですけれど、どうしても出てきてしまって。手が慣れちゃうんですね。不思議なもので、純粋にいいなと思ってシャッターを切ったものじゃないと、作為的なものが写り込んでしまうんですね」
 
 
  それは、もしかしたら彼女しか気づかないことかもしれない。けれど、自分自身が気づいてしまう以上、妥協はできない。もうひとりの客観的な自分がいることの大切さをずっと意識しているのだという。
 
 「そんな自分の変化には、誰よりも敏感でいなきゃって思っています。その危機感ってすごくあるんですね」
 
 
低迷して、そこから抜けようと挑む時期。それは自分で見抜くもの。
 
  学生時代からこの仕事を始め、誰に師事したわけではないから、他人に教わったわけではないのだろうけれど。責任ある仕事を続けるためのそんな基本をきちんとわきまえた女性だからこその活躍なのだと今さらながらに思う。そして、彼女はそれに対処する方法もきちんとわきまえている。
 
  「手が慣れてきたと感じたら、今撮ってもしかたがないと諦めて、半年くらい間を空けた時期もあります。その間に、また別のテーマを追いかけたりして、それが一段落ついて花にふっと戻ったら面白いものがまた撮れたりするんです。物質的な工夫なんですけれど、そういうことが結構重要みたいで。しばらく撮らなかったらまた新鮮に見えるだろうって、わりと楽観的なところがあるんです(笑)」
 
 
  自分のセルフコピーをしがちになるなど低迷しているとき、そこから抜けようと挑むときにこそ進展がある。写真が変わったり、一歩前に進む前には、必ず慣れた手を休めさせる時期があるのだという。そこを、誰の視線でもなく自らの視線で見抜くこと、それがとても重要なのかも。
 
壁に当たったら、悶々と考えるよりも物理的に工夫してみる。
 
  「精神的な壁であっても、物理的な工夫で打開することって意外とあると思うんです。私も、そんなに難しいことってしていません。最初、モノクロで撮っていた頃に行き詰まりを感じて、カラーに変えたら世界が開けたり。『花』で行き詰まった時期には、テーマを『金魚』に変えて、また戻ってみたり。

  もっと日常的なことでも同じです。忙しかったり、嫌なことがあったりすると、いつもは食べてない朝ごはんを食べてみたり。夜、野菜たっぷりのスープを作ってみたり。あ、宝塚を観に行くことも好きです。『あー面白かった!』っていうほかには何の感想もないの(笑)」
 
  1ヶ月ぶりの休日には「フィットネスクラブに行って、エステに行って、ネイルサロン行って、マッサージ行って……すごく忙しく休んでました」と告白し、自らを「時間的にも空間的にも、隙間恐怖症なんです」と笑う蜷川さん。最近、初監督を経験した短編映画も「撮影の2日前には、『次に何を撮ろう?』って考え始めて」いたというから、確かに相当な「せっかち」っぷりかも。

  けれど、けれど。それが創作意欲の源ならば……せっかち万歳!
 
   
 

◆ 蜷川実花さんのオフィシャルサイトはこちら


◆ 最新写真集『Acid Bloom』の購入はこちら。(amazon.co.jp)

◆ 初監督ショートフィルムについてはこちら




Photos / Ninagawa Mika
Text/ Matsumoto Noriko(Cafeglobe.com)
蜷川実花さん
「チャーリーズ・エンジェルを撮ったんですよ。大ファンだったから、すごく緊張しちゃって。自分で浅草行って選んできた着物を羽織ってもらって、真っ赤なバックの前に立ってもらったりして。ドリューには「あなたに質問したいことがたくさんある!」って抱きつかれて、メールアドレス教えてって言われて。すごーく嬉しかったです。あ、まだメールは届いてないですね(笑)」
 
 
 
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vol.48 安藤優子さん/ジャーナリスト・キャスター  2003年7月7日
vol.47 はなさん/モデル  2003年6月4日



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