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 | テニスって結構シビアな世界で、日本でプロになっても認知度って低いじゃないですか。4大メジャーに行って活躍しなければ、いくら日本で頑張っても冷めた目線じゃないですか。でも伊達公子はやってのけた。明らかにこの世界と日本の差っていうのをテニス以外でも体感されたと思います。 |
 | 自分のことになるとあんまりよくわからないですね。最初は世界に行きたいって思っても、そこで活躍したいと思っても、強くなれると思ってなかったけど、自分で苦しみもがいているうちに、テニスプレーヤーたちと身近に触れ合ってから変わってきた。 |
 | 具体的にどう変わったの? |
 | 彼ら、もう人間じゃないですね。人生のすべてを賭けてる。生活かかってるし、私たちとは違うんだなって。 |
 | そんな違うんですか? |
 | 本当に命かけてる。ナンバーワンになりたい。タイトル獲りたい。グランドスラムに限っては2週間続くトーナメントなので2週間ずーっと同じ場所で同じリズムの生活リズムを繰り返しながら戦っているわけじゃないですか。1週目の最初っていうのはランキング100位台とかウジャウジャいるんですけど、日に日に人数が減っていって、2週目に入ると、選手の目つきが変わってくるんですよ。コーチとかと向き合って、火花が出てくるくらいにバチバチッって。 |
 | 伊達さんにもそういう時期があったわけじゃないですか。それを見たときに厳しい現実というか、こうなんなきゃいけないのって不安に思いませんでした? |
 | 葛藤はありましたよ、すごく。もともとそんなにテニスで強くなりたいって思っていたわけじゃないだけに、でも勝負の世界はすごい好きだったし、欲もでてくるし、そこまでの選手になってはみたいとは思ってた。でも、いろんなもの犠牲にしなきゃいけないだろうし、みたいな。この葛藤や迷いががすごかった。 |
 | そして決心して頂点を目指した。 |
 | やっぱり欲が出てきた。強くなるために何がいちばん……と思ってやった時期もありました。でも、結局私にはテニスをする人生が必要なんだと気づいた。 |
 | それがかっこいいですよね。実際のぼり詰めた方たちのその後っていうのはよくわからないんですけど、そのへんどうなんですか? テニス中心の人生だった人が、どっか違う世界へシフトできるものなんですか? |
 | いますよ、中には。外科の医師になっちゃったりとかね。欧米の選手って日本人とはやっぱり違うんだなって思うのは、今はテニスをやっている、その後は全く違う人生をスタートさせてるっていう。日本ってみんな、スポーツやってるとずっとスポーツ。何かしらスポーツにかかわっていることの中での選択肢。 |
 | 日本人って芸能人とスポーツ選手との区別がすごい下手っていうか。けれど伊達さんって明らかに違うところに行こうとしているんですよ。すごいニュートラル。なんか、テレビでもイヤじゃないから出るわよ、みたいな。現役終わったからといって無理に頑張っちゃって、昔取った名声を利用してどうにかってことじゃないじゃないですか。もっとすごいのは伊達さんがテニスを伝える伝道師だったりするでしょ。「あんたスポーツ選手だったの?」って人が多い中で、商売としてスポーツとつながっているのではなく、文化やライフスタイルの一環としてテニスを伝えてる。 |
 | 確かにテニスをやめて選択肢がないからこの仕事をやってるというのではない。本当に自分がやりたいって思うことが、私にとってテニスを続ける理由。 |
 | すごい勝負度胸を持ってらっしゃる。試合するわけじゃないのにどうしてそんな緊張しなくちゃいけないのっていうぐらい、人を寄せつけないオーラがあったよね。 |
 | 試合は好きでした。その緊張感はしんどいけど、イライラもするしコーチにも当たったりするけど、私には必要だった。 |
 | いわゆる一流アスリートの“ゾーン”に入っているときですよね。 |
 | そうですね。 |
 | ギリギリのところでせめぎ合いをしているときの心理状態っていうのはどういうものなんですか? |
 | 二面性があるんです。ガーッて入ってる面と、客観的に全部見えてる面と。ふたつあるんですよ、スポーツ選手って。 |
 | 自分がふたりいるんだ。 |
 | 必ずしも毎試合毎試合そういうゾーンみたいなところにいるわけじゃないし、どうしたらゾーンに入って行けるかってことも私には分からない。でも、入ってるときって面白いですよ。 |
 | 面白い? |
 | 毎回違うんですよ、シチュエーションが。ボールの軌道までが見える、相手のいやな部分とかも見えちゃう。 |
 | よく、いいゲームをしたら勝敗関係ないくらいのことを言う人がいるんですけど、それは嘘? |
 | トップ10以内の選手とのゲームって、自分が100%のテニスをしても必ず勝てるとは限らないんですよ。相手が110%とか120%というときがあるんです。自分が100%でも勝てない、そういう世界があるんです。どんなに自分がいいプレイをしても、その日に相手がそこまできちゃったら勝利は遠いところ行っちゃいますから。そうなるとひとつ気持ちの上でリラックスできて、負けてしまうんであれば、その試合の中の質を上げることに自分をもっていく、っていうふうに変わってきた。そうすると今度はゲームの駆け引きが面白くなってくるんですよ。 |
 | 伝説のグラフ戦で、伊達さんが足に怪我を負いながらも試合途中で何かを吹っ切って土壇場から大逆転勝ちしたことがありましたよね。あんとき大興奮だったんだけど、ああいう奇跡みたいなことってあるんですね。 |
 | 本当にもうシーソーゲームだから、足を怪我して限界なんだけどやめたくない。面白いから。 |
 | 痛みを超えちゃうの? |
 | だって、もう歩けない。コート出たらこんな引きずってる感じですから。 |
 | 柔道のヤワラちゃんや古賀選手のオリンピックのときもそうだったよね。そのゾーンっていうのが火事場の馬鹿力じゃないけど、明らかにアクシデントがあって、でもそれがパワーになるってことが。 |
 | あのときはいろんな状況が咬み合わさってできた結果ですけど、とにかくグラフと戦いたいっていう気持ちがなければ無理だったと思う。こんなチャンスはそんなにはない。勝てるチャンスがあるなら今しかない。もちろん応援もあったし。団体戦だったっていうこともあったし、コートの上で私がテニスをやっている意味を確かめたような気になった。 |
 | 伊達公子さんの人生の中でもっとも価値ある一瞬だったのかもしれないですね。その瞬間を経験した人ってそんなにはいないと思う。 |
 | それも客観的に見ていますけどね。 |
 | 現役時代には絶対近寄れないと思った。コワくて。 |
 | 現役のときはね。コワかったですよ |
 | 伊達さんって、世界的なプレーヤーだけど、「よっ日本一!」みたいな人ですよね。日本一って呼びたくなるのは、その類い稀なハッピーオーラなんですよ。初めてお会いしたとき感じたんですが、相手を緊張させないために自分のオーラを消して、そのかわりにはハッピーオーラを出す人なんだなって。 |
 | えー、そうですか? |
 | 巷では僕が感じたことに間違いはないとされています。 |
 | じゃ本当は近づきがたいってことですか? |
 | 近づきたいんですよ、もちろん。 |
 | やっぱ人を遠ざけてたのかなぁ……認めます。 |
 | 単身で世界と勝負してきたんだから、そうなって当然です。 |
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(その4へつづく) |