あなたは、ブッシュ大統領に、2004年も再選を勝ち取ってほしいと思いますか? それとも思わない? 思わない、と答えた人へ。あなたの思いを込めて、そして才能を発揮して、反ブッシュキャンペーンのテレビCMを作ってみませんか? 優秀と認められれば、CNNなど全米ネットで放映します。……夢みたいな話、でしょう? でも。2003年秋、こんなコンテストが本当に行われていたのです。
このコンテスト、「Bush in 30 Seconds」を呼びかけたのは、第1回から紹介してきたインターネット市民団体、MoveOn(*1)。ブッシュ大統領の再選を防ぐための反ブッシュ・キャンペーンCMを一般公募し、最優秀に選ばれた作品を全国ネットで流しちゃおう、というもの。全米から集まった1500本以上の作品をMoveOnサイトに掲載して、一般のユーザーによる投票から26本に絞り、映画監督マイケル・ムーアやガス・ヴァン・サント、ポップスターのモービィ、アラニス・モリセット、また政治コンサルタントや世論リサーチ専門家など各界から生え抜きの審査員が討議して、最優秀賞を選んだ。 コンテストの審査結果発表&授賞式はニューヨークのハマースタイン・ボールルーム(*2)で行われた。実は私もこの授賞式を観に行きたい……と思っていたのだが、ぐずぐずして1週間前まで予約を取らないでいたら、狙っていた35ドルのいちばん安い席はおろか、45ドル、75ドル、そしてなんと150ドルの席まで(!)総売り切れになっていた。仕方がないので、インターネット配信をダウンロードして観ることに。
ステージ上に吊るされた大きなスクリーンに、若手部門優秀賞、アニメーション部門優秀賞など各部門の最終審査に残った作品が次々映される。たとえば、緑色の妖精みたいな変な衣装をつけたブッシュのそっくりさんが老人や労働者、子供から薬、仕事、学校のための本などを奪っていくところを描いた作品。あるいはアニメーションの“ブッシュ君”が出てきて「オレなんか、史上最大の黒字を赤字に変えたし、250万人の失業者も出したし、2ヶ国を侵略して、国連をバカにして、ジュネーブ条約も破って、しかも、今までのどの大統領よりもたくさん休暇を取ったんだぞー!」と威張ってみせる作品。いろいろなアイデアがあるものだと感心しつつ、思わず吹き出したり、「うーん」としみじみ考えてしまったり。 あまりにも優秀な作品が集まったので、最優秀賞だけでなく、若手部門やアニメーション部門、“面白かったで賞”部門など、いくつかの部門優秀賞(*3)も作られた。コメディアンのアル・フランケン(*4)やジャニーン・ガロファロ(*5)が舞台に立ち、各部門の受賞者を表彰していく。合間にはMoveOnに賛同して駆けつけたセレブリティによるショーもある。コメディの女王マーガレット・チョウの痛烈なブッシュ批判に観客は声援を挙げ、パブリック・エナミーのリーダー、チャックDのラップにみんな踊り出して、PCのディスプレイを通しても熱気と興奮が伝わってくる。 最優秀賞に選ばれたのは、『Child's Pay(子どもの負担)』という作品――7〜9歳くらいの子どもたちが、ガラス工場で働いたり、レストランのキッチンで皿洗いをしたり、車の整備工をしたりして働いている。小さな手で懸命に大きな機械を操ったり、重いものを持ち上げようとする姿を淡々と見せたあと、「ブッシュ大統領の1兆ドルの負債を払うのは、誰だと思いますか?」というメッセージ――だった。 この作品を作ったチャーリー・フィッシャーは、父ブッシュ大統領の就任1年目(1992年)までは熱心な共和党員だったという。いまでも共和党員の父にちょっとドキドキしながら反ブッシュのCMを作ったことを打ち明けたら、「自分のまわりの世界に積極的に働きかけているお前を、誇りに思うよ」と言ってくれたのだとか。 このCMは、“浮き票”の人々に訴えかけるべく、1月20日のブッシュ大統領の一般教書演説(*6)と、2月1日(ともに現地時間)のスーパーボウル中継のハーフタイムに流す方針が決まった。こうしたプライムタイムのCMスポットを買うには、だいたい150〜300万ドルかかるという。MoveOnでは“投票者基金”を立ち上げ、草の根募金でCMスポットを買うための資金集めを開始した。
さて、その間にも2004年の大統領選挙への戦いの火蓋は切られていた。アイオワ州の民主党党員大会が行われていたのである。これがどういう意味を持つかについてはもうご存知の方も多いかと思うけれど、一応おさらいしておこう……。 ●ご存知のとおり、アメリカの政治勢力は2大政党に分かれている(*7)ので、大統領選挙は共和党指名候補と民主党指名候補の一騎打ちとなる。2004年の場合、共和党勢は再選への意欲まんまんのブッシュを立てて団結している。 ●対する民主党は、元ヴァーモント州知事のハワード・ディーン、元NATO司令官ウェズリー・クラーク、マサチューセッツ州選出上院議員のジョン・ケリー、ノースカロライナ州選出上院議員のジョン・エドワーズなど10名がまずは出馬を表明。このうち誰が指名候補の座を勝ち取るか、を決めるのが各州で行われる党員集会(*8)や予備選(党員集会と予備選、どちらの方法を取るかは、各州の党本部が決めることになっている(*9)のだ。この過程で候補者はどんどんと絞り込まれる。出馬表明直後には支持率1位だったクラークでも、今月11日には撤退を表明、といった具合に。 ●各州の党員集会、予備選を経て、共和党・民主党の各指名候補は2月〜6月ごろまでにほぼ決まり、夏(共和党は8月、民主党は7月)に行われる全国大会で決定される。 ●そして、11月2日に国民が直接票を投じる、大統領選挙の本選となる。ややこしいのは、ここで得た総得票数で大統領が決まるのではなく、ここでは「どの州でどっちの党が勝ったか」が決まるだけ、という点だ。そして、勝った党はその州に割り当てられた選挙人(各州の有力者)の数すべてを取得することになる。たとえば人口3500万人のカリフォルニア州の選挙人数は55。一方、人口65万人弱のアラスカ州の選挙人数は3。だから、カリフォルニアやニューヨークなど選挙人の数が大きい州で勝利を得ることはものすごく重要――というわけ。
さて、今回の民主党指名候補レースで最も注目を浴びていたのはハワード・ディーン。最初は泡沫候補と思われていたのだが、インターネットを媒体として一般の人々からの支持を集め、話題をさらった。なにしろ、ブッシュやチェイニーなどのように大企業からの大口献金(*10)がなく、また共和党支持者のように個人献金の上限ギリギリの2000ドルをポーンと寄付してくれる金持ち層の支持者もいないのに、1人当たり20ドル、50ドルという超小口寄付を何万人もの人々から募って50万ドルもの資金を集め、草の根パワーを見せつけたのだ。民主党の指名候補レースでは断然、本命と思われていた。 ところが蓋を開けてみると、アイオワ州(*11)の党員大会でダントツ1位に輝いたのは、ジョン・ケリー。母方の家族はあのフォーブス財閥、そして妻はケチャップやお酢で有名なハインツ(傘下にはデルモンテも)の跡取り娘という、かなりの資産家(*12)である。ディーンはずっと遅れて3位(*13)。続くニューハンプシャー州の予備選でも1位はケリー、ディーンは2位。続くオクラホマ州ではクラークが、またサウス・カロライナではエドワーズがリードし追い上げたが、このまま行くとディーンは脱落し、ケリーとエドワーズの一騎打ちとなる可能性も出てきた。 民主党を始めとするリベラル陣営は今回、各候補の挙げた政策の違いよりも何よりも、「ブッシュを倒せるかどうか」を基準にして選んでいるふしもある。残っている州の多くは3月に党集会や予備選を行うので、そのころには大方の行方がわかってくるはずだ。
「ブッシュを倒す」ために反・共和党勢力が力を合わせようとしている――という意味では、もうひとつ興味深い動きがあった。それは、緑の党主催者の、ラルフ・ネイダーの出馬問題。 ラルフ・ネイダーは消費者運動の元祖で、環境問題に関心が高く、大衆の味方に立った政治家だ。高い理想を持ち、やると決めたら戦い抜くタイプ。今回の民主党候補の中でも「愛国法」に反対したりゲイの結婚を支持するなど最もリベラルなデニス・クシニッチの親友でもある。ラルフ・ネイダーは2000年の選挙で緑の党代表として出馬し、2大政党に飽き飽きした有権者たちから票を集めた。 けれども一部では、2000年にゴアが敗戦したのは、ネイダーにリベラル票が流れたせいだと見る向きもある。ちょうど1992年の選挙で、本来なら共和党に投票しそうな層が大富豪ロス・ペローに投票したのが一因でブッシュが負けたのと同じように。そこで今回は反ブッシュの票を一候補に集中させるために、ラルフ・ネイダーを思想的には支持していても、あえて「出馬しないでくれ」と頼む人々が出てきた。ネイダー自身も迷っているらしく、自身のwebサイト(*14)で有権者の意見をつのっている(本編執筆中の現在、ネイダーはまだ決断を保留している)。 いずれにせよ、政治家がこんなふうに、リアルな問題について有権者との対話の場を持つようになった、というのはとても興味深いことだと思う(……といってもブッシュなどは、インターネットを通して市井の有権者と対話なんてしないだろうけど)。 さて、MoveOnの反ブッシュコマーシャルはどうなったかというと……
『Child’s Pay』はブッシュの一般教書演説の前後に無事流すことができ、多くの反響があったという。しかし、問題が起こったのはその後、2月1日のスーパーボウルでの放映。アメリカ全土がテレビの前に集まるといってもいいこのイベントに、MoveOnのCMは流せない、とCBSが言い出したのである。 CBSの言い分は――「政治的な広告は論議をかもすので避けたい」。 そう言いながら、ホワイトハウスの作った反ドラッグの広告はオン・エアが決定している。ビールの広告、車、ポテトチップス、そして“バイアグラ”第2弾と渾名される、男性の勃起を助ける薬(それぞれ異なる製薬会社から3種類も!)のCMも流されるという。 MoveOnの『Child's Pay』を観てもらえばわかると思うけれど、これはアメリカが直面する経済的な現実を、ごく淡々と描いた作品だ。ホワイトハウスが作った広告はOKなのに、この広告は“政治的”なので流せないというのは明らかなダブル・スタンダードではないか? 家族が集まって見る番組に男性の勃起薬の広告は流しても、この国が抱える1兆ドルの負債のことを考えましょう、と訴えるCMは“論議をかもす”ので流せないというのは、どういう倫理基準なのだろうか? MoveOnのスタッフが全国のメンバーにこのことを知らせた翌日、実に40万人からCBSあてに抗議の電話あるいはメールがあった。『ニューヨーク・タイムズ』、『サンフランシスコ・クロニクル』、『ボストン・グローブ』などもMoveOnを支持する社説を載せ、また民主党議員を中心とする26人の議員がCBSに方針の再検討を求める厳しい意見書を送った。CBSはそれでも、『Child's Pay』の放送を拒否(*15)しつづけた。
2月1日、私は夫と一緒に義父の家に行き、スーパーボウルを観ていた。フットボールには興味がないのだが、どんなCMが流れるのか確認してみたかったのだ。バドワイザー・ビールのCMでは犬が男性の急所にかみつき、AOLのCMではバイクで何十メートルも飛び上がるという危険なスタントがあった。男性の勃起を助ける薬のCM(*16)は手を変え品を変えて何度も流れた。NFLのスターたちが出てきて、「(イラクに派遣された)われらが軍隊を支持しよう」と訴えかけるCMもあった。スーパーボウルのハーフタイムに、裏チャンネルのCNNに合わせると、そちらで『Child's Pay』が流れていた。 その後のMoveOnのニュースレターによると、CBSが『Child’s Pay』を放映しなかったせいで、かえって注目が高まるという予期せぬ効果があったという。これから大統領選挙本選までの期間中も、CNNなど他局で放映しつづけ、反ブッシュ勢力を高めていくつもりだ、とも。大企業と癒着したブッシュ政権に風穴を開けるのは難しいかもしれないけれど、不可能ではないと私は思う。インドの女性作家、アルンダティ・ロイは「本当の変革は、政府レベルからは生まれない。本当の改革は、人々の手によってのみ、作られるのだ」と言った。マハトマ・ガンジーやマーティン・ルーサー・キング牧師の指揮した運動は、市民が集まって政治を動かすことが決して不可能ではないことを証明している。 インターネットには、まだまだたくさんの可能性が秘められている。2004年の大統領選挙がどうなるのか、またアメリカ、そして世界の政治がどう動いていくのかは、未知数だらけだ。けれど“普通の人々”が得にくい情報を得、地球の反対側にいる人とも瞬時に連絡を取れる道具としてのインターネットが大きな役目を担っていくだろうことは間違いない、と思う。 〈完〉 |
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Photos & text / Watanabe Yo Illustration / Hasegawa Maki |
|