更新日:2004年1月30日 RSS

ブッシュ大統領がおそれるインターネットの市民パワー。渡辺葉が現地からレポート


今、アナタが目の前にしているインターネット
その潜在的パワーにまだ日本人は気づいてないかも!?
現に今、アメリカではブッシュ大統領すら
ネットを介した市民パワーに脅威を抱かずにおれない勢い。
さすが!なネット最新事情を現地から、渡辺葉さんが
3回に渡ってレポート。面白くって判りやす〜い!

文・写真/渡辺葉(エッセイスト、翻訳家)


第1回 マイケル・ダグラスの手紙と映画パーティと

  マイケル・ダグラスからメールが届いた。開いてみると「親愛なる葉へ――cafeglobeの連載をいつも読んでいます。今度ニューヨークへ行くので、一緒に食事でもしましょう」と書いては、なかった。彼の用事は、もっと危急なことであった。

  「10年前、進歩的な考えをもったアメリカ市民と議員たちが団結して、銃の使用を制限するふたつの画期的法案を実現しました。攻撃用銃器規制法(*1)と、ブレディ法案(*2)です。けれど今日、全米ライフル協会(NRA)(*3)はこのふたつの法案を骨抜きにしようと、激しくロビー活動を展開しています……」

  マイケルのメールは、NRAの策略を阻止してふたつの法案を守るように、国会議員や地元の新聞紙の編集委員に手紙を書いてほしい――と訴えるものだった。親切なことに、どんな内容を盛り込めばいいか要点をまとめたメモを添えてある。その上なんと、私が締め切りに追われて忙しいことを考慮してか、ボタンひとつクリックするだけで、すでにきちんとタイプもしてある手紙を送りたい相手にファックスさえしてくれるというのだ。私はアメリカ市民ではないので議員への手紙はあまり効力がないけれど、新聞社ならいいだろう。さっそくボタンをクリックして、地元の新聞社にファックスを送る手配をした。

 懸命な読者諸氏はご推察かと思うが、もちろんあのハリウッド俳優が私のメールアドレスを知っているわけではない。これは「TrueMajority(*4)」というインターネット市民運動団体によるキャンペーン活動の一環なのである。


人気のアイスクリーム屋
引退して、正義のために立ち上がる!

  「TrueMajority」の創始者はベン・コーエン。甘いもの好き&アメリカに旅行or滞在したことがある人は、“ベン&ジェリー(*5)”ブランドのアイスクリームを食べたことがあるかもしれない。ベン・コーエンはこのアイスクリーム会社の創立者&元オーナーなのだ。“ベン&ジェリー”は数年前に別の企業に売ってしまったけれど、相棒のジェリーと組んで今度は「社会の不正や貧困をなくす」ことを目的に「TrueMajority」を立ち上げ、さまざまなキャンペーンを打ち出している。

 そのひとつが、冒頭に上げたようなメール活動。今回のようにセレブリティからのメッセージという形を取ることもあれば、「TrueMajority」からのメッセージという形を取ることもある。いずれにせよ、その骨子は「ユーザーがすぐに、しかも簡単に、請願活動をすることができる」枠組みを提供すること。

  もちろん、市民のひとりひとりが自分の言葉で請願書を書ければ理想だ。でも「時間がない」のはみんなに共通する悩み。それに社会問題や政治に関する、
1.具体的で、2.要点を押さえ、3.丁寧で、4.論旨のしっかりした手紙を書かねばならないとなると、ちょっと尻込みしてしまう。

  その点、「TrueMajority」は議員あてのサンプルレターを提示してくれるので、ユーザーはそれを「そのまま送る」こともできるし、「編集する」を選び、加筆・変更をして自分の文章に近づけてから送ることもできる。相手先のファックス番号を確認し、ファックス機に紙をセット……なんて必要もない。“クリック”ひとつで、すべて「TrueMajority」がやってくれるのだ。まさに今の時代にぴったりの市民運動の“かたち”を提供してくれる、というわけ。


会員は200万人以上!
頼もしきは「MoveOn」というネット団体

 こうしたインターネット市民運動団体で、「TrueMajority」以上に私が注目しているのは「MoveOn(*6)」。元シリコンバレーの起業家だったウェス・ボイドとその妻ジョーン・ブレーズが立ち上げた組織で、スタッフはわずか7人。けれど、インターネットを通じて全世界に200万人ものメンバーを抱えている。「MoveOn」の目的は「普通の人々を、政治に呼び戻すこと」。ボイドもブレーズも政治に関わった経験はなかったが、政治が巨大企業と“主要”メディアに占有され、政治家たちが有権者たちの意見や要望よりも企業の利益を優先することに不満を覚え、普通の人々が政治に参加できる場を作ろうとして立ち上げた。

  彼らが「TrueMajority」を立ち上げた数年後、9・11直後に、暴力の輪を断ち切って平和を求める署名サイト「9‐11Peace.org」を立ち上げた青年がいた。ごく短期間のうちにアメリカだけで10万人以上、全世界で50万人にも上る署名を集めた彼の名前はイーライ・パリサー、メイン州出身の23歳。ボイドとブレーズはパリサーの機動力に注目し、キャンペーン・ディレクターにスカウトした。パリサーはその才能を発揮して、署名だけでなく、意見広告を打つための募金やデモの組織、“映画パーティ”の開催、はたまた広告の一般公募コンテスト(*7)など独創性あふれるキャンペーンを次々と打ち出してきた。

 こうして発展し、全米ひいては全世界からも注目されるようになった「MoveOn」の最大の特徴は、相互参加型(inter-active)であり、「自分の活動が、大きな動きの一部を作っている」という実感を得られること。これって、私たちが今とっても欲しいと願っている実感なのではないだろうか。


きちんと報告してくれる「MoveOn」
これならまた支援したくなるでしょ

  私が「MoveOn」の存在を知ったのはほんの1年ほど前、ブッシュ政権がイラク侵攻を今か今かと進めていたころ。何かしたい、と思いながら何もできないもどかしさを感じていたとき、友人から回ってきた「MoveOn」の「反戦署名レター」がきっかけだった。

  それまでの反戦署名は「回ってきたメールをコピーし、新しいメールとして貼りつけ、一番下に自分の名前を書いて何人かの友人に回覧する」というチェーンレター形式がほとんどだった。何もしないよりは……と署名し、友人たちにも回していたものの「ネズミ講みたいにどんどん枝分かれして、前の方はみんな同じ名前が並んだ署名リストになってしまっても、効力があるのだろうか?」といつも心配だった。だいたい、それらの署名が本当に議会とか関係組織に届いているかどうか、そんな市井の人々の声がどれだけ真剣に受け止められているのかだって、知る手立てがなかったのである。

  けれど友人から回ってきた「MoveOn」の反戦署名サイトでは、所定のフォームに自分の名前を打ち込んで送るだけ。それを「MoveOn」がまとめて、たとえば議会の議決日などにあわせた戦略的日程に沿って、届けてくれる。それも、スタッフや選ばれたボランティアメンバーが実際にワシントンDCへ赴いて、議員連や関係組織に渡してくれるのだ。キャンペーンがはじまると頻繁にニュースレターが届き、何人分集まったか、いつそれが届けられたかなどについてもこまめに報告してくれる。

  募金も、従来の市民団体では自分の寄付がどんな形で役に立ったのかどうもよくわからず“あげたら、あげっぱなし”感があった。MoveOnでは「どんな目的のために、どのくらいの額がいつまでに必要か」を明確にし、結果的にどれくらい集まったかも教えてくれる。特定のキャンペーンのための募金が目標額に達すれば「目標額以上の○○ドルが集まりました。どうもありがとう」と知らせてくれる。たとえそのときにはお財布の状態が苦しくて寄付できなくても、「じゃあ、この次は私も参加しよう」という気になる。


草の根って楽しいじゃない!
例えば、“映画パーティ”はこう工夫する

  「MoveOn」のもうひとつの特徴は、インターネット上だけでなく、実際にキャンペーンに参加できる機会が多く、しかもそれらのキャンペーンに楽しいスパイスがふりかかっていることだ。たとえば、“映画パーティ”。これは昨年行われたキャンペーンで、『Uncovered: the Whole Truth about the Iraq War』(*8)と題されたドキュメンタリー映画を全国各地で上映し、みんなで集まって観ましょう――というもの。

  『Uncovered』は、イラク侵攻に漕ぎつけたブッシュ政権の“論理”や“証拠”の虚像を、ブッシュ政権内部、あるいはすぐそばにいた人々の証言を綴って明示した告発作品だ。登場するのは、片や“ブッシュと仲間たち(Bush & Co.)(*9)”。もう一方にはホワイトハウスの政策アドバイザーやCIAの元高官、国連武器査察団のオフィサー(*10)、イラクやサウジなど中近東地域への元米国大使(*11)など政府の高官や専門家たち。ブッシュのイラク侵攻を批判し、警告してきた(にも関わらず、無視された)専門家たちの証言と、“ブッシュと仲間たち”がくり返しついてきた嘘の変化(*12)を、インタビュー&TV映像で綴ってみせる。

  「MoveOn」では最初、ニュースレターでこの映画のことを知らせ、ビデオの購入を呼びかけた。私も「観たいな」とは思ったものの、「うちにビデオはないし……」(*13)とあきらめていた。すると2週間ほど後に「MoveOn」からふたたびニュースレターが届き、「全国各地でこの映画を上映するホームパーティをしませんか?」という誘いが。ビデオを購入したメンバーと地元の他のメンバーで集まって一緒に映画を観る、という企画である。この手の映画を、商業ベースの大手映画館で上映するのは予算の面だけからいっても不可能に近い。でもメンバーの自宅(*14)などで集まる分には予算の心配はないし、ふだんはなかなか会う機会のない、けれど同じような関心・意識をもった人たちと集まって映画を観られるなんて、なんだかワクワクするではないか。


ポップスターの自宅にポエトリー・カフェ
星空の下で……なんて優雅な会も

  数日後に「MoveOn」から届いたニュースレターには、自分の住む街で行われるパーティのリストが見られるリンクがついていた。「ニューヨーク市」を選び、自分の郵便番号(*15)を入力すると、出るわ出るわ。個人宅もあれば、コミュニティガーデンでの“星空の下上映会”もある。「僕のうちは狭いので10人しか呼べませんが、楽しくやりましょう。できたら飲み物とかつまむものを持ってきてください」なんて呼びかけも。あとで知ったのだが、マンハッタンに住むポップスター、モービィも自宅を開放してパーティを開いていたのだそうな。

 個人宅のパーティは、定員枠が小さいせいかほとんどすべて満員になっていた。そこで、「『バウワリー・ポエトリー・カフェ(*16)』、あるいは隣の『DVドージョー(*17)』でやります」というパーティに申し込みをしてみた。2、3日すると、このパーティのホスト、ディアナさんからメールが。「会場は、たぶんDVドージョーになると思います。今、最終交渉中。ちょっと待ってね。まったく、詩人がイベントを組織しようとするとロクなことがないわね(笑)。詳細がわかり次第、お知らせします」。

  “映画パーティ”の数日前に「『DVドージョー』で、7時から」とのお知らせがあった。その日は朝からドンドコ雪が降っていたのだが、夫と友人と誘い合わせ、出かけてみた……。









インターネットによる署名や寄付、参加はいかに?
賛同するときは参加。小さな声でも発言しないと届かない、と思う。
ときどき参加するけれど、本当に意味があるのかどうか不安。
そろそろ&いよいよ参加したいとは思っている。
どうせ変わらないと思うから、参加しない。


-view result-


M・ダグラスからの手紙というのが、これ。
*1
一度に大量殺戮を可能にするような攻撃用ライフル19種を指定。その製造と販売を禁止した。

*2
レーガン大統領が狙撃されたものの一命を取り留めたとき、銃弾を受けた報道官ブレディ氏にちなんでつけられた。銃器購入希望者には、土・日を除く5日間の“待機”を義務づけ、この期間に警察が身元を調査して前科などを調べる。

*3
マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』を観た人はよく知っていると思う。「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であり、国民が武器を所有し携帯する権利は、損なうことができない」というアメリカ合衆国憲法修正第二条をプッシュしまくる銃器愛好者団体。

*4
公式サイトはhttp://www.truemajority.org
「TrueMajority」のサイト。

*5
ロックバンド“グレイトフル・デッド”のシンガー、ジェリー・ガルシアにちなみ名づけられた「チェリー・ガルシア」(チェリーとチョコレートファッジ入り)、はたまたピーナツバターを詰めたプレッツェルをバニラ&麦芽アイスクリームに散りばめ、チョコレートファッジとピーナツバターをたらした「チャビー・ハビー(デブの夫、という意味)」など変わった材料&名前のフレーバーがある。しかも素材はナチュラル志向(オーガニック・アイスクリームもある)なので、子どもから大人まで幅広い層に人気がある。
ベン&ジェリーのアイスクリーム……


























*6
公式サイトはhttp://www.moveon.org












*7
反ブッシュキャンペーン“Bushin30seconds”。詳細については本連載第3回にて報告します。2月13日(金)更新予定。



































*8
監督は、政治や社会問題に鋭く切り込む作品で定評のあるロバート・グリーンウォルド。MoveOnの他、American Progress、Artists Unitedによる共同制作。詳細およびVHS/DVDの注文は http://www.truthuncovered.com でどうぞ。
ドキュメンタリー映画……

*9
現大統領ジョージ・W・ブッシュ(父ブッシュ・シニアと区別するため、ミドルネームの“W”を取って、また、自分の「だぶりゅー」すらきちんと言えない舌足らずのノータリンっぽいブッシュを揶揄して、“ダブヤ/Dubya”と渾名される)、副大統領ディック・チェイニー、国防長官ドナルド・ラムズフェルド、国務長官コリン・パウエル、国家安全保障担当大統領補佐官コンドリーザ・ライス、そして彼らを動かす“黒幕”――大統領顧問のカール・ローヴ、国防副長官ポール・ウォルフォウィッツ、「暗黒の王子」の異名を持つ、国防政策委員会代表リチャード・パールなどなど。
「大量破壊兵器は……
*10
元米海兵で、のち国連武器査察団の一員としてイラクに数年滞在したスコット・リッターは「大量破壊兵器などどこにもない」とくりかえし明言してきた。

*11
湾岸戦争時、ブッシュ・シニア政権下でイラク大使を務めたジョセフ・ウィルソンは、その経験と知識に基づき、ブッシュのイラク侵攻には正当な理由がない、と批判した。その結果、明らかな“復讐”として、ウィルソンの妻が元CIA情報部員であったという事実を何者か(“ブッシュと仲間たち”黒幕のひとり、カール・ローヴと言われている)によってマスコミに漏洩され、彼女は身の危険にさらされることに。国家の秘密情報部員に関する個人情報の漏洩は大罪で、当然ながら特別捜査の対象になるべきだが、ブッシュは特別捜査をさせなかった。

*12
「イラクはアル・カイーダと密接な関係がある」、「イラクは核兵器を作ろうとしている」、「イラクは生化学兵器を持っている」、「イラクはアメリカの安全を脅かす邪悪な存在だ」→「イラクは大量破壊兵器を保持していると確信される」→「大量破壊兵器はきっと見つかる」→「兵器製造プログラムはきっと見つかる」→「イラクの人々を解放しよう」など、“戦争の理由”はどんどん変わっていった。

*13
『Uncovered』にはDVD版もあったのだが、最初のニュースレターでは触れていなかったので、「うちはテレビもビデオもないし、観られないな……」と諦めていた、というわけ。

*14
この手の集まりには、法律の関係でレストランやクラブ、また誰かのオフィスを使うことはできないのだとか。個人宅やコミュニティーガーデン(もともと市が見捨てていた廃ビルや空き地を、地元のアーティストや活動家たちが草木あふれる庭にしたもの。現在は市が市民に“貸し出す“形で運営されている)などはOK。

*15
これをもとに、たとえば「半径7マイルで検索」など行きやすい範囲に何があるか調べる。

*16
Bowery Poetry Cafe。イーストビレッジにあるカフェ。その名のとおり詩の朗読が盛んで、毎晩のように詩のパフォーマンスや“ポエトリー・ジャム”(いろんな詩人がやってきて、のど自慢のように次々と舞台に立ち詩を朗読する)、また音楽やダンス、パフォーミング・アートも行われている。

*17
大学の映画専攻や映画専門学校には行かないけれど、手軽に自主制作映画を作りたい。そんな人のための、デジタル・ビデオ“道場”。





★「“映画パーティ”の模様は、第2回に乞うご期待。“情報源”としてのインターネットについて、およびTV、新聞の“主要”メディアを動かしているのは誰なのかについて、考えたいと思います」 by 葉

第1回
マイケル・ダグラスの手紙と映画パーティと/2004年1月30日

第2回
唖然&ムカッ! “主要”メディアがウソつきブッシュの悪行を隠す理由 /2004年2月6日

最終回
反ブッシュのCMを公募&放映!ネットの力で、こんなことも可能 /2004年2月18日



Watanabe Yo
'95年からニューヨーク在住、エッセイスト、翻訳家として精力的に筆をふるう。キャンドルライトを灯すことで平和を祈るvigilに参加するなど、自分でできる反戦声明を模索中。『葉的紐育御気楽ふたり生活』の連載も大好評。




Photos & text / Watanabe Yo
Illustration / Hasegawa Maki

関連リンク
■Cafeglobe.com記事より
渡辺葉さんが参加したマンハッタンでの反戦デモ

内海夏子さんによる、9・11直後の現地リポート

■そのほかのサイト
MICHAEL MOORE JAPAN.COM
あのマイケル・ムーアの公式サイトが日本語でも登場!

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