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とうとうイギリスも本格参戦という形で戦争が始まってしまった。イギリス人は一般的に政治意識が高いだけに、ブレアのアメリカ追従姿勢に対する憤りはものすごい。2月15日の反戦デモが前代未聞の規模に膨れ上がったのも、国民の焦りといら立ちがあったからだった。 何回か行われた世論調査では、攻撃反対派はいつも6〜7割。私の友人知人もほとんどが反対派で、デモ前は顔を合わせるたびに「例のデモ、行く?」という話になった。普段は中立を標榜している一般紙も、2月15日が近づくにつれ、次第に反戦的な内容を増やしていった。 かすかな悲壮感を含みつつ、それでも「デモは派手にユーモアを込めて」がイギリス流デモの掟。目的は同じでも表現方法はさまざま。ではイギリス史上最大のデモの様子をお伝えします。
その朝、ロンドン大学の構内では、イギリス全土からデモの前夜祭に集まった学生たちが、眠そうにトイレで顔を洗ったりお化粧をしたりしていた。パーティは夜遅くまで盛り上がり、そのあとも寝袋持参の学生たちが明け方までドラムを叩いたりしていたらしい。 さて、12時半に張り切ってスタート! でも15分ほど歩いただけで、大英博物館前で行列はピタリとストップ。30分は待っただろうか。しびれを切らした私はプレスカードをひらひらさせながら前へ行ってみる。するとポリスが恐い顔で立ち塞がっている。 「暴れることで有名な反グローバライゼーションのデモじゃないんだから、そんなにピリピリしなくったって……」と思っていると、なんと、さらに大きな人の流れが私たちの集団の前を進んでいく。「えっ、私たちの列が一番前じゃなかったの?」。北のほうから思い思いにスタートした人たちが大勢いるようだ。右からも左からもどんどん人波が合流してくる。これはすでに相当遅れをとっていると焦った私は、歩道に上がって先頭と思える方向へ走った!
走っていると、景気のいいサンバが聞こえてきた。この寒いのにドレスアップしたおねーさま方が踊っている。相当練習してきたらしく見事に揃っているし、生バンドまで連れている! ポリスは「デモが進まないから早く行け!」なんて怒っているけど、知らんぷり。ポリスに向けてお尻をプリプリ振ってみせたりして余裕シャクシャクだ。 進んでいくと、またしても進行を遅らせる1組のカップルが。男性の方は医者の扮装でストレッチャーに乗せた血だらけの人形を押している。ただでさえノロノロしているのに、このカップル、フッと立ち止まり急にしかっと抱き合っている。「愛こそすべてー!」と聞こえてきそうなこの光景に、ポリスも呆れているのか何も言わない。
やっとピカデリー・サーカスまでたどり着いたけれど、最終地点のハイドパークはまだまだ遠い。こんなペースじゃ夜になっちゃうー! と柵を乗り越え近道を走り、なんとかイベントが始まる前に到着した。でもすでに人の山。いったいどこから来たんだろうと思って見回してみると、公園に沿って延々と停められた大型バス。1000台以上あるという。バスの前には「○○御一行さま」の札が。遠くはスコットランドから来た人たちだ。 本日のハイライト、有名人のスピーチが始まった。ロンドン市長のケン・リビングストン、モー・モーラム労働党議員、リベラル・デモクラツ党(訳せば自由民主党だけれど、日本の自民党とは別モノ)党主のチャールズ・ケネディなどで、いかに大物政治家ですらこの戦争に反対しているかわかる。 終盤になり、いよいよアメリカの人権運動家ジェシー・ジャクソン氏の登場だ。彼を目当てに来た人も多く大きな歓声が上がる。マーチン・ルーサー・キングを彷佛させる彼が「Freedom!」と叫ぶと、群集が「Freedom!」と返す。一気に盛り上がる。ただ、「神は……」と始まった超クリスチャンなスピーチに、ムスリム中心のグループは「あれっ?」っと思ったかもしれないが。トリをつとめた新人ヒップホップスターのミス・ダイナマイトの歌にジャクソン氏も加わり、また盛り上がり、イベントは終了。
「さてさて、はぐれた友だちと落ち合ってパブにでも行って暖まろう」と思って携帯電話を取り出したけれど、みんな同じことを考えたのだろう。電波は大混乱。結局、ひとりトボトボ来た道を戻る私。暗くなってきたというのに、ハイドパークにはまだまだ人が入ってくる。 セキュリティのおじさんに「もう、終わっちゃったよ」と教えてあげると、「え? さっきスタート地点からまだデモがスタートしないって電話がきた。やっと出発したばかりの人もいるよ」。……ってことはいったい何人がこのデモに参加したんだろう? 翌日の新聞によれば、主催者発表で200万人が参加したということだ。イタリアとスペインでもそれぞれ100万人とか。鳥肌が立った。
多くのイギリス国民の期待をよそに、戦争は始まってしまった。200万人のデモを無視し、自分の党を無視し、国連を無視してブレア氏は一体どこへ向かっていくつもりなのだろう。 でも、今回のデモに参加して思ったことがある。これだけ異なったバックグラウンドの人たちが1つの目標に向かって進んでいけるってことは、そして世界中で1000万人という人たちが同じ日に同じ目的で歩いたということは、政治家の野心云々を抜かせば、「世界は1つ」の方向に向かっているんじゃないかなということだ。たとえば9.11テロの根源である世界の中での貧富の差の拡大問題だって、先進国の人たちからこうやって意識の共有をしていくことができれば、解決に向かえるかもしれない。 イギリスでは有権者が自分の地域の議員に直接働きかける運動が盛んだ。どんな地方議員でも、選挙区の有権者の意見をしっかり取り入れて反応しないと次回の選挙が危ないからだ。今回はこれがかなり効果があることもわかった。イラク攻撃をするかどうかの国会決議でブレアの基盤である与党労働党から130人もの「造反議員」が出たのはこの効果にまちがいない。反戦を掲げて閣僚を辞職したロビン・クック院内総務たちも、有権者の目はおおいに意識している。 戦争が始まった今でもイギリスのあちこちで毎日デモが行われている。先週はロンドンの中高生が学校を集団で抜けだして国会議事堂前でデモを行った。あきらめずに意志を示し続けていくこと――それが政治家の暴走を止める唯一の方法であることを、イギリスの人々は知っている。 text & photos / Sae Kani |
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