| ワタクシごとから、話を始めます。ある生理中の日、私はいつものようにカレにぐちぐち、仕事や今後の人生の見通しなどについて愚痴っていました。ありがたいことにカレは辛抱強く耳を傾け(合掌)、半時間もしゃべったでしょうか。ひと息ついたときに、まさに突然、気がついたわけです。
35歳シングル、オトナな年齢、仕事だってまあまあ順調、スーパー巨貧乏なわけじゃない、友だちも恋人もいる。パーフェクトじゃないにしろ、そこそこな状況。「なのに、なんでこんなにシアワセじゃないんだろう?」と(※1)。
過去をつらつら思い出してみると、いつも焦燥感があり、現状に不満足で「ちょい不幸」な自分の内面の姿が浮かび上がってきた。何を達成しても自信がないのだ。世の中には同じような状況でも、自身にコンフィデントな人もいるのに、私のどこかに原因があるのだろうか?
そんなとき、耳にしたのがセラピー先進国アメリカで注目されている“ドラマセラピー”なるもの。セラピー、というと美容系(アロマセラピーなど)と誤解されがちだが、アメリカでは主に “カウンセリング”を指す。ドラマセラピーは最近話題の“アートセラピー=芸術療法”のひとつ、と考えると理解しやすいかも。その名の通り、演劇テクニックを使って内面を覗いていく心理療法なのだ。体も動かすし、なんだか面白そう。というわけで、アメリカでの臨床経験も豊富なドラマセラピストの中野佐知子さんにお願いして、トライアル・カウンセリングを受けることにした。
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“ごっこ遊び”で
体を動かすセラピー |
ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校で演劇を専攻し、パフォーマーとしても活動していた中野さん。ちょっとした動きも恣意的にコントロールできる、演劇のプロフェッショナルだ。ドラマセラピー以外では、カリフォルニア州のDVカウンセラー認定も受けているという。一方の私、演技とかって小学校の学芸会以来なんだけれど大丈夫だろうか……。
「難しく考えなくていいんですよ」と中野さん。「芝居をする必要もないし、セリフを覚える必要もありません。突き詰めていえば、子どものころ夢中になった“ごっこ遊び”みたいなもの、と想像してくださいね」という言葉に、早速始めることにする。
「最初は体を動かします。ストレッチを交互にひとつずつやって、真似しあいましょう」。私が肩伸ばしをやれば中野さんも肩伸ばし。おっ、中野さんが開脚ストレッチをやったぞ、真似せねば。真似して、真似されるってなんだか気恥ずかしいけれど、どんどん親密な感じがしてくる。と同時に体も温まってきた。
「次は、足ふみ遊び。相手の右足を先に踏んだ方が勝ち!」って、それ、本当に子どもの遊びじゃない? でも、楽しいぞ! ひとしきり遊んだり、真似をしたり、顔を動かしたりするうちに、中野さんが自分の分身のような気持ちになってくるのが不思議だ。
「じゃあ、さっき生理中や生理前に自分がネガティブになる、と言ってましたよね。その自分に名前をつけてみましょう」
かくして“ネガティブS”と名前をつけた生理中の自分がどういう気分か、説明してみる。ひどいときには終日ベッドの中で眠り、涙を流し、世の中に自分が生きている必要性をまるで感じず、死にたいと思うこともある、と。
「その“ネガティブS”はこんな感じですか?」と中野さんが突然床に丸くなり、しくしくと泣き “ネガティブ”を演じ始めた。というか、“ネガティブS”そのものになった。その姿はまさに私自身の分身で、かなり衝撃的。生理中の自分は、こんな“癒されたい子ども”のような姿だったのか……。
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衝撃の自分の姿。
AC問題が根っこにあった |
「では、この“ネガティブS”にどうしてあげたいですか?」と中野さん。「『大丈夫だよ、あなたは大丈夫。独りじゃないよ』と背中をなでてあげたい」と私。どことなく、ぼーっとしたまま、中野さん=“ネガティブS”を労わり、トライアル・セッションは終了した。
その晩から、不思議な夢を見た。子どもの頃の夢だ。両親とまったくソリが合わず、周囲の子どもにも心を閉ざし、逃げ込むように読書に没頭する毎日を送っていた自分。多分、AC(※2)ということになるのだろうが、実家からとうに自立して距離をおき、過去の傷などすっかり忘れていた。でも実は「忘れたかったから忘却のかなたに押し込めた」だけで、根本の解決はしていなかったんだ、ということに気づき始めた。
今まで、ヒプノセラピーやサイキックヒーリング、それにコーチングなど、敷居の低そうなオルタナティブセラピー(※3)にトライし「ちょい不幸感」をなんとかしようともがいてきたが、こんな根っこの深いところまで届いたのは初めてのことだ。
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役の後ろに隠れつつ自分を探る
解放されて、すがすがしい気分に |
「セラピーって結局、自分が何か問題を見つめようとしているときにいちばん働くものだから、今回はいいタイミングだったのかもしれませんね。でも私も含めて多くの大人はある意味AC的なところがあると思います。自分が大人になって初めて自分の中に住む子どもの存在に気づきその子どもを癒そうとするんじゃないかな。
ドラマセラピーはセラピストとの安全な人間関係の中で、“役”の後ろに隠れながら自分自身を表現し、探っていくことができるんです。私は特に、女性のためのセラピーをやりたいと思っています。元気になって、もっと自分を好きになるような。それはきっと恋愛でも仕事でも必要な要素だと思うので。あと笑う力を持ってほしい。ドラマセラピーはこの要素が強いと思っています」と中野さん。
なるほど。セッション後1ヶ月が過ぎ生理もやって来たが、今回は“ネガティブS”は現れなかった。女性らしくなることを自分に許す、そんな気分も生まれてきた。ドラマセラピーは体を動かしながら心をほぐし、自由にする、そんな全く新しいカウンセリングなのだ。
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