
茶園 瞳 HITOMI CHAEN/大学教授
大学は期末試験期間に入り、キャンパスは静謐なムードに包まれています。試験が終わると教員は採点に追われ、それと前後して入試業務が本格化します。来年度の講義要綱の締め切りもすぐに来るので、今年度の反省に基づき見直し作業もしなくては・・・。というわけで、学期末はいつもとは違うペースで時間が流れていきます。
大学を秋入学に移行させようという話がでています。意外にもマスメディアで大きく取り上げられ、世間の関心の高さに、大学にいる者として逆に驚いているぐらいです。もちろん大学内でも話題になっているのですが、結構反対論が多いのに、これまた驚いています。私自身と言えば、春秋の2回入学・卒業を可能にしたらいいと思っているのですが、反対論に耳を傾けてみると……意外な理由で反対する人が多いのです。反対論の中に日本の硬直性を見る思いがするため、今週は大学秋入学問題を取り上げます。
事の発端は東大の学内懇談会が中間報告として、秋入学全面移行を提言したことにあります。学生が留学しやすくなるよう秋入学に移行すべしというのは浜田学長の持論で、学長の強いリーダーシップで議論を強力に引っ張っている様子です。ひとつの大学が行うのでは不可能かつ無意味なため、東大は国立・私立の有力12校と検討協議会を発足させ、さらには経済界・官界を巻き込み、5年後の実現を目指しています。
秋入学のメリットは、世界の6割の大学と学事日程が揃うことにあり、そうなれば確かに留学は今よりスムーズになるでしょう。もっとも、4月入学であることがそれほど留学を阻害しているのかというと、ほとんど関係ないのが実態です。むしろ就職活動が早期化していること(3年秋から開始)、留学経験が必ずしも就職活動で評価されていないこと(あるいはそう学生が感じていること)の方が、留学に対してのより大きな阻害要因となっています。
秋入学のもうひとつの目的は、高校卒業と大学入学の間に生まれる半年間のギャップ・タームを積極的に活用しようというものです。日本は卒業と入学・入社の間に余計な(?)経歴が入ることを極端に嫌う傾向があります。ぶらぶらと世界旅行に出かけたり、職業経験を多少積んでから大学に入ったりといった道が実に選びにくいのです。ギャップ・タームが正当なもの、価値あるもの、として社会的に評価されるようになれば、画一的なレールばかりを若者に押しつけたがる私たちの社会のありようが変ることになるので、その意味では私は大いに意義を感じています。
つまり大学の秋入学問題は、留学を増やすという点とギャップ・タームを活用する、という2つのまったく別の論点が組み合わさったものなのです。留学を増やそうということ自体に反対する人はいないので、焦点は秋入学で果たして留学が増えるかどうかなのですが、この点は前述の通り、効果はないし、あるとすると入学時期以外の点でのサポート体制の充実が不可欠になります。
議論を複雑にしているのは、ギャップ・タームの方です。半年間の時間の使い方もさることながら、出口が3月である限り、学生は3年半または4年半で卒業をしなくてはならず、後者なら学費も時間もかかるというクレームが出ています。
問題はなぜ出口が3月に限られるのかです。それは採用時期が官民ともに4月だからということに尽きます。東大の秋入試は文科省がバックアップしていることもあり、政府も公務員の秋採用の検討をすでに始めています。秋採用に全面移行するのか、それとも春・秋2回採用なのか、まだ分かりませんが、官民ともに年2回採用(あるいは民間なら通年採用)はコストがかかるため、場合によっては、一斉に秋入学・秋卒業・秋採用に社会が動くのかもしれません。
それならばと、大学だけではなく小中高も一斉に秋入学にシフトすべきだという意見まで出ています。日本がグローバル競争に勝つために教育改革をしようという観点からすると、国全体で秋入学に移行するのは効率的とも言えます。野田首相や自民党が秋入学に賛成の意向を示しているのも、おそらくグローバル競争を意識してのことでしょう。
でも、私のようにギャップ・タームを積極的に評価しようという立場からすると、一斉に秋入学・秋卒業に全面移行するなら、移行の意味がないと逆に思うのです。
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