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時代を鋭く斬るコラムニストとして活躍する深澤真紀さん。「草食男子」の名づけ親としても知られる深澤さんが、今、注目しているキーワードが「免疫美人」なのだそう。
ひと時のブームに流されたり、他人との幸せ比べにとらわれたりすることなく、自分が持つ魅力も弱さも知って、自分を守る知恵を備えている女性。"自分の持ち物=ありもの"を最大限に活かして、しなやかに、強く生きる女性――。そんな「免疫美人」な生き方を教えてくれる女性たちに、深澤さんが会いに行き、話を聞く対談連載です。

前回までの対談記事はこちら

自分の持っている素材を使って、明るく強く生きる女性――。そんな「免疫美人」な生き方を全身で表現する女性に会いに行こうと考えたとき、深澤さんの頭には、ひとりの女性の笑顔がすぐに浮かんだといいます。

その女性の名前は、吉本ナナ子さん。日本最南端の有人島・波照間島に生まれ育った経験をもとに、島でとれる食材の力を活かしきる料理で知られる沖縄を代表する料理人のひとりです。自ら畑で野菜を育て、浜辺で海藻を集め、海で魚を捕って、店に出す。自然の恵みそのものの食材を、ごくシンプルな味付けで滋味深い皿に仕上げていく。その味は食べる人を圧倒し、「このためだけに西表島に来てもいい」と思わせるほど。

人を惹きつけてやまない魅力は料理の腕のみならず、島に降り注ぐ太陽のようにあたたかく、青い海のように澄み切った人懐こい笑顔にも詰まっています。女性が生き方に迷う時代だからこそ、ナナ子さんに学びたい! 取材スタッフを引き連れて、深澤さんは東京から飛び立ちました。

食も自然もささやかな美しさを大切にしてきた

20140730_nanako_2.jpg200坪弱の敷地の自宅の庭には、20種類以上の野菜やフルーツが栽培されている。畑仕事は朝のうちに集中して行う。織物などの手作業も大好き。島の海岸端に生育する植物「アダン」の葉や根を干し、縄で編んだ手製のむしろはお店の座敷に使われている。

羽田から直行で3時間。石垣島からさらに高速船に揺れることおよそ45分で、緑濃いジャングルが生い茂る西表島に到着。車に乗り換え、信号のない一本道を進み、ナナ子さんが暮らしている家へと向かいます。

教わった場所に着き、まず目に入ってきたのは、庭先に植えられたカラフルな花々。日常の中のささやかな美しさを大切にするナナ子さんならでは、と深澤さんが見とれていると、「よく来たねえ!」。ハリのある声の主は、畑仕事をしていたナナ子さんです。

深澤:お久しぶりです。プライベートでも何度も来ていますが、ナナ子さんに取材するのは2回目ですね。前回の取材は4年前で、まだお店の「はてるま」をひとりで切り盛りされていた頃でした。

ナナ子:そうだったね。あれから、息子が戻ってきてくれてね、店を継いでくれたものだから、ずいぶん楽しているのよ。私は畑で野菜を育てたり、海藻を取ったりして暮らしてんの。でも、店は忙しいもんだから、なんだかんだで手伝いにいっているけどね。

深澤:楽しているとおっしゃっても、畑はずいぶん賑やかですよ。ちょっと見せてもらってもいいですか。

ナナ子:どうぞ、どうぞ。今はちょうど夏野菜が元気。パパイヤ、ゴーヤ、カボチャ、こっちはスイカね。ヘチマやエゴマ、シソもあるよ。トマトもずいぶんなったけど、クイナ(沖縄に生息する鳥)にずいぶん食べられちゃってね。

深澤:立派なパパイヤの木! 4メートルくらいありますね。これで苗を植えてどれくらいになるんですか?

ナナ子:2年くらいだね。

深澤:え! たった2年でこんなに......。やっぱり西表の自然のパワーはすごいんですね。だから、とびきりおいしい味に育つわけですね。

ナナ子:同じ畑でも植えた場所で微妙に育ちは変わるんだよ。特に、パパイヤは最初になる実が最高に甘くておいしいの。こんな話していたらなんか食べたくなるでしょ。採れたてのピーチパイン冷やしておいたから、食べながら話しませんか。

深澤:ありがとうございます。......うまい! いくつでもいけそうです。お茶もおいしい。何が入っているんですか?

ナナ子:煎った玄米に麦、島で採れるエビス豆、グアバの葉、レモングラスやらを混ぜた私の特製よ。

深澤:自然の恵みをいただいていますね。

「何年かかってもいいから、自分の力でやりたい」

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深澤:それにしても、島の強い日差しの中での農作業は過酷じゃないですか?

ナナ子:うん、暑いよ(笑)。草はあっという間に伸びるしね。でも、薬は使いたくないから使わない。薬を使えばあっという間に雑草はなくなるかもしれないけど、畑の土もダメになるでしょ。私は何年かかってもいいから、自分の力でやりたいんだよね。

深澤:すばらしいです。ナナ子さんはずっと前から、島の食材を大切に、本当に手間をかけて育てていますよね。でも味付けは、塩だけで煮る、なまり節で炊く、和えると本当にシンプルを心がけていらっしゃる。

ナナ子:ここには何でもあるからね。でも、難儀を難儀と思わず、楽しめる人じゃないと続けないだろうね。この間も、畑で肥料に使う海藻を浜辺で拾っていたら、通りがかった若者たちが「清掃、ありがとうございます」だって。私は肥料を取りに来てただけなのにね(笑)。

深澤:そう。ナナ子さんは「楽しんでいる」のがスゴイんです!

ナナ子:私、縛られるのがイヤだからさ。自分がやりたいようにやるのさ。その分、苦労はあるよ。でも、島で生きてきた先輩のおばあちゃんに聞けば「私たちんときも、苦労したよ」っていろいろ教えてくれるさ。そういう経験談を聞いて、自分も試行錯誤して、やってきたんだよね。

例えば、畑の水やりにしても、島では暑くなる日中はかえって水をやんないほうがいいの。土の中で水が熱持って、根が焼けちゃうからね。だから水やりするなら朝早くか夕方の涼しい時間がいいんだよ。草をとるときは、雨が降った後に。土が柔らかくなって、草を抜きやすくなるから。

深澤:そんな知恵があるんですねえ。そうやってできるナナ子さんの料理は絶品で、私も10年以上通わせてもらっています。私は本当に食いしん坊で、世界中でおいしいものを食べてきましたけれど、ナナ子さんの料理は世界に誇れるものだと思っています。

ナナ子:まあ、そんなこと言っていただいて、ありがとうございます。でもね、私んとこには食べ物はいっぱいあるけど、お金はちっともないのよ。

深澤:だって、お店の料理は「3800円でこんなに?」とびっくりするくらい出てきますもん(笑)。もうちょっと欲を出してください(笑)。

ナナ子:久々に島に帰ってきた親戚の子どもたちに食べさせるみたいに、腹いっぱい食べさせたいんだよねえ。それに味には絶対こだわりたいでしょ。人気の献立でシマダコを炊く料理があるんだけど、それはちょっと自慢。西表のシマダコは硬くて、柔らかく炊くのが難しいんだけど、「ナナ子さんとこは、どうしてあんなに柔らかく炊けるんだ」って、島の人たちが何人も聞いてきたんだよ。

母から受け継いだレシピの記憶

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深澤:意外ですが、料理の専門教育は受けていらっしゃらない。

ナナ子:そう。料理の本はいろんなジャンルをたくさん読んで勉強したけれど。私の根幹にあるのは、やはり母の記憶だね。大正生まれだから作るのは昔ながらの田舎料理だったけれど、ハーブやごま、黒糖、みかんの葉なんかをたっぷり使って香りよく仕上げるコツを、私にもいろいろ教えてくれた。そのレシピは鮮明に覚えているの。それに両親は農業をやっていたから、素材はいつでも身近にあったんだよ。

深澤:小さい頃は、おむすびと酢や味噌を持って畑に行って、採れた野菜や野草を和えて食べるのがお弁当だったとか。

ナナ子:そう、そう。畑はご馳走だった。いま、素朴だけど本物の味というのがどんどん失われているのは残念だね。私は難しい料理を知らないけれども、素朴な作り方でも食材の持つ味を大事にしたい。だから、これから実は、ちょっとまた新しいことを始めようかなあって思っているんだよ。

深澤:ええ、これからまた新しいことを! 教えてください。

ナナ子:まだ計画でしかないけどね、ちょっとした昔ながらの懐かしい島の甘いものを食べてもらえるようにって考えているの。昔から島に伝わっている素朴なお菓子。例えば、サツマイモをおろし金ですりおろして、よーくもんで、葉っぱで包んで蒸したイモ餅とかね。いいでしょ?

深澤:おいしそう~。絶対、やってください。

ナナ子:そんなこと考えていると毎日楽しくてね。

退屈しないから学び続けられる

深澤:朝は畑仕事や釣り、昼は店の仕込みをやって、夜は何時くらいに寝るんですか?

ナナ子:うんと働いた日は疲れて夕方に寝ちゃうこともあるよ。夜中に目が覚めたら縄仕事。島でとれる草木を使ってすだれやむしろを編むのが好きで、たくさん材料をとってあるの。名人のおじさんに習いに行きたいとも思っているんだ。

深澤:あくなき探究心ですね。

ナナ子:私、退屈しないんだよ。

深澤:退屈しないって素敵です。ナナ子さんには、まだまだやることがたくさんありそうですね。

ナナ子:そうだね。明日の朝は、久しぶりに釣りに行くよ!

深澤:私たちも行ってもいいですか?

ナナ子:おいでおいで、楽しいよ。えっと、明日の満潮の時刻は......(と、釣りの記録メモがぎっしり書かれた「潮見表」をめくる)7時19分。私がねらっているエリアの潮位は189cm。風は南から吹くようだから、9時前くらいに釣りを始めてよさそうだね。

深澤:では、今夜は「はてるま」で食事をして、明日、釣りの様子も"見学"させてください。よろしくお願いします。

(後編に続く)

20140730_nanako_profile.jpg吉本ナナ子(よしもと・ななこ)

料理人。1948年沖縄県波照間島生まれ。83年、那覇市内に料理店「はてるま」を開店。島の食材を活かした味が評判を呼ぶ。家族の介護のために惜しまれつつ閉店し、2001年に西表島に移住。03年に西表島内にお店を再開し、現在に至る。



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(文/宮本恵理子、撮影/鈴木芳果)