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今できることに集中しているから退屈しない/料理人・吉本ナナ子

今できることに集中しているから退屈しない/料理人・吉本ナナ子

時代を鋭く斬るコラムニストとして活躍する深澤真紀さん。「草食男子」の名づけ親としても知られる深澤さんが、今、注目しているキーワードが「免疫美人」なのだそう。

ひと時のブームに流されたり、他人との幸せ比べにとらわれたりすることなく、自分が持つ魅力も弱さも知って、自分を守る知恵を備えている女性。"自分の持ち物=ありもの"を最大限に活かして、しなやかに、強く生きる女性――。そんな「免疫美人」な生き方を教えてくれる女性たちに、深澤さんが会いに行き、話を聞く対談連載です。

前回までの対談記事はこちら

日本最南端の有人島・波照間島で生まれ育ち、その豊かな食の原体験をもとに、自然の恵みを存分に生かした料理を提供する吉本ナナ子さん。西表島に開いた料理店「はてるま」は息子さんに引き継いだ今も大盛況。ナナ子さんも時々厨房に立ち、料理に使う野菜を育て、魚や海藻を採る生活を続けています。

取材1日目の日中、ナナ子さんの自宅におじゃまし、愛情を注ぎながら丁寧に畑仕事をするナナ子さんの様子を見た取材チームは(前編のコラムはこちらからチェック)、その日の夜、料理店「はてるま」へ。深澤さんが「この味のためだけに西表島に何度も来ている」というナナ子さんのお店です。

ここでしか味わえない幸福の料理

20140815_nanako_yoshimoto_2.jpgナナ子さんが開店した「はてるま」。今は息子さんに経営を託しているが、繁忙期は厨房にも立つ。島の味コース(3800円・5500円)のほか、モーイ豆腐(700円)、アーサー入り卵焼き(500円)など一品料理も豊富。

泡波と島の味「はてるま」
住所:沖縄県八重山郡竹富町字大富29-53
TEL:0980-85-5623
営業時間:18:00~23:00 日曜定休

夕日が店内に優しく差し込む18時過ぎ、一歩踏み入れると、そこにはゆったりと来る人を包み込むような空気が流れていました。どこからか誰かの島唄が聴こえてくるような、ゆるやかな時の流れ。窓辺のすだれやむしろ、壁に飾られた織り物用の糸に、ナナ子さんの手作業の息づかいが宿っています。

世界中を旅した深澤さんも「ここでしか味わえないナナ子さんの料理に魅かれて」5回以上訪れているとか。「本物だけを作り続けたい」とナナ子さんが思いを込める、料理(3800円コース)をご紹介します。

※下に紹介する料理は取材当日の例です。内容はその日の仕入れによって変わります。

20140815_nanako_yoshimoto_3.jpg(写真左上)幻の泡盛と言われる「泡波」も飲める。セッティングも素敵。(右上)1品目は、西表産天然もずくに、「テラザ」という小巻き貝とトマトを添えた酢のもの。繊維がしっかりとしたもずくを引き立てるトマトも濃密な味わい。(左下)ミジュン(小イワシ)の南蛮漬け。上にたっぷりと乗るのは長命草。(右下)刺身の盛り合わせ。上から時計回りに、釣りたてのオオマチ、アオリイカ、シマダコ。添えられたダイコンとキュウリも歯ごたえよく、自然の恵みを凝縮した味がする。

20140815_nanako_yoshimoto_4.jpg(写真左上)深澤さんが「世界に誇れる前菜の逸品」というモーイ豆腐。島特産の海藻モーイに魚や野菜を寄せている。ソースの味も絶品で「レシピは秘密だよ」(ナナ子さん)。(右上)ゴーヤーの味噌節厚揚げ入り。(左下)ウムズナー(かくれ手長ダコ)のタマネギ炒め。柔らかく炊いたタコのうまみに箸が止まらなくなる。(右下)カーナー(島で採れる海藻)となまり節の和え物。カーナーはコリコリ、シャキシャキとした独特の食感。なまり節は惜しまずたっぷり使うのがナナ子流。

20140815_nanako_yoshimoto_5.jpg

(写真左上)この日に釣れたフエフキダイのマース煮。「マース煮」とは飲める程度の塩加減の塩水だけで煮る調理法。(右上)アオサの雑炊。ゆったりと全身を包んでくれるようなやさしい味。(左下)旬のピーチパイン。かじるたびに甘い果汁が広がる。(右下)店内に飾られている色とりどりの糸は、ナナ子さんが織り物で使う材料。

素材の味はどこまでも力強く、味付けはいたってシンプル。ひとつひとつの皿に生命が宿ったような料理に、何とも言えない幸福感を味わった一行。「相変わらず、素晴らしい料理。身体にエネルギーがみなぎっていくよう」と深澤さんも大満足。

宿泊先まで送ってくれた現店主の息子さんが「習ったわけじゃないんだけど、自然と味は似ちゃうんだよね。小さいころから食べていた味を舌は覚えているんだろうね」と話してくれました。

しなやかに楽しく生きるための本質

20140815_nanako_yoshimoto_6.jpg

ナナ子さんの大事な仕事道具のひとつが「潮見表」。満潮になる時刻とその日の風で釣りの場所を決める。多いときはサヨリを60匹釣った日も。釣れた魚はすぐに氷で挟んで急冷処理をし、海水の中でさばく。鮮度抜群で食すための知恵。

そして翌朝、ナナ子さんが先導する白いミニワゴンについて、一行は西表島北部沿岸へ向かいました。ジャングルをかきわけるようにして降り立った浜辺は誰もいない、まさにプライベート・フィッシング・スポット。ナナ子さんが潮の満ち引きと風を見ながら「ここなら釣れる」と定めた場所は、波打ち際から20メートルほどに浮かぶ岩場付近でした。

目の前に広がるのは、山の緑と空の青が混じり合ったようなエメラルドグリーンの海。取材チームが風景の美しさに言葉を失っている一瞬の隙に、ナナ子さんは腰まで海に浸かってずんずん進み、あっという間に岩場の上に。

「おーい。早くこっちにいらっしゃーい」と無邪気に手を振るナナ子さんに、女性だらけの取材チームは目が点。あくまで"見学"気分だったので、水着ではないのですが......。

「カメラは頭の上にかついでくれば、濡れないからさー」

満面の笑顔に引き寄せられ、「私、行きます!」と意を決してカメラマンが海にチャポン。ライターも続き、「私はここで、みんなの荷物を見てるよ」と言っていた深澤さんも

「誰も荷物なんか取らないかー」と一緒に海へ。

ナナ子さんが待っている岩場に立つと、360度海に囲まれ、まるで海の上に浮かんでいるような感覚に。「気持ちいい~! ここ最高!」と感嘆の声をあげる深澤さん。その次の瞬間。ビチビチビチ! 目の前の海面が騒がしくなりました。

「サヨリよ! サヨリの大群!」

ナナ子さんの声が弾み、待ちきれないとばかりに急いでエサをさし、釣糸を海に投げ入れます(食にこだわるナナ子さんのエサは、お店で出している極上のエビ!)。「釣りは人間と魚の知恵比べ。サヨリは風を背にして釣るといいと言われているんだよ」とナナ子さんが説明する傍から、ビチ!

「かかった!」

魚が海面の上に躍り出て、その身体が虹色にキラキラと光ります。釣れたのは、狙いどおりのサヨリ。赤く染まった口先が、まるで口紅のようです。

「きれいでしょう。お嬢さんって呼んでいるの。美しくて、穏やかな性格で、おいしくて。私が一番好きな魚」と、10代の少女のように目を輝かせるナナ子さん。

深澤さんも「サヨリってこんなにきれいな魚なんですね」と感動の様子。

この後、1時間もしないうちにサヨリを16匹以上釣ったナナ子さん。「まだまだ釣れそうだから」と紅潮した顔で竿を握り締めるナナ子さんを残し、「では、またお会いしましょう」と解散したのは、なんと海面に浮かぶ岩の上でした。

「ナナ子さん、まるで少女みたいな顔していたね。畑でお会いしたときよりずっと柔らかい表情だった。きっと、手間をかけて野菜を育てる畑では母の顔、そこに生きている魚を無心になって獲れる海では娘の顔になるんだね」と深澤さん。

自然のままに、自然と共に――。取材で垣間見たナナ子さんの暮らしに、しなやかに楽しく生きるために大切にすべき本質を教えてもらうような時間になりました。

インタビューを終えて

吉本ナナ子さんという料理人の存在を知って以来、その魅力にとりつかれている私。ますますパワーアップしている様子にとても嬉しくなりました。

本物をまっすぐに追求するナナ子さんの生き方に学ぶことは多々ありますが、今回のお話のキーワードは「退屈しない」という言葉だったと思います。

私たちはつい「退屈」をおそれ、「退屈」から逃れようともがきます。予定に空白が生まれたら必死に埋めようとします。ナナ子さんの場合は、「夜中に目が覚めたら、縄を編めばいい」という発想。退屈をおそれず、目の前で今できることに集中して毎日を過ごしているのです。だから、日々が一貫しているし、自分にできることしかやろうとしない。これから取り組もうとされている新たなチャレンジも、決して無理だと思わせない。「ナナ子さんならできる。ぜひやってほしい」と応援者を増やすものだと思います。

20140815_nanako_yoshimoto_profile.jpg吉本ナナ子(よしもと・ななこ)

料理人。1948年沖縄県波照間島生まれ。83年、那覇市内に料理店「はてるま」を開店。島の食材を活かした味が評判を呼ぶ。家族の介護のために惜しまれつつ閉店し、2001年に西表島に移住。03年に西表島内にお店を再開し、現在に至る。

前回までの対談記事はこちら

(文/宮本恵理子、撮影/鈴木芳果)

深澤真紀

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